「目標はマイク・タイソン」ここまでオールKOで新人王、渡嘉敷勝男が惚れ込む21歳”怪物サウスポー”の正体

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元WBA世界ライトフライ級王者で、“トカちゃん”こと渡嘉敷勝男さん(65)は現在、自身のジム「渡嘉敷ボクシングジム」で後進の育成に励んでいる。その秘蔵っ子として渡嘉敷会長の期待を一身に背負う若者が石井竜虎(りゅうこ。21)だ。日本ボクシング界でまだ誰も成し遂げていない快挙に挑む、その男の素顔とは。〈前後編の前編〉

【画像多数】数々のボクサーをKOしてきた石井竜虎の左ストレート

激戦区ウェルター級に挑む若き天才

これまで100人近くの世界チャンピオンを輩出するなど、ボクシング大国ともいえる日本。しかし、ミドル級以下では唯一、ウェルター級のみその栄冠に輝いた日本人はいない。

昨年12月にオールKO勝ちで全日本ウェルター級新人王に輝いた渡嘉敷ボクシングジムの新星・石井竜虎選手が目指すのはまさにそこだ。

竹原慎二氏や畑山隆則氏も注目するサウスポーのハードパンチャーはどんな拳歴を送ってきたのか。渡嘉敷ボクシングジムで話を聞いた。

――「竜虎」という名前がすごくカッコイイですね! ご両親が強くなってほしいと願ってつけた名前なんでしょうか。

石井竜虎(以下、同) 母親が虎という字を入れたかったみたいです。兄も「彪」と書いてトラと読ませてるんですよ。強くなってほしくて「竜虎」とつけたかはわかりませんが(笑)。

――しかし、名前のとおり昨年12月にはオールKO勝利という圧倒的強さで全日本ウェルター級新人王となりました。この結果はいかがですか?

結果は満足してますが、内容には満足していません。これからもドンドン強くなっていきたいと思います。

――竜虎選手のいるウェルター級の体重制限は66.68キロ以下の中量級に位置する階級。これまで日本人の世界チャンピオンは誕生していませんが、この階級の難しさは?

いつの時代も激戦区と呼ばれる階級のひとつがウェルター級で、世界的にも選手層がものすごく厚い。日本チャンピオンになったとしても、そこから二段階、三段階レベルアップしないと世界に挑戦すらできない。それくらいレベルの高い階級だということですね。

それだけに、歴史上、偉大なチャンピオンはウェルター級から多く出てるんです。

――昨年は佐々木尽選手がWBO世界ウェルター級王者ブライアン・ノーマン・ジュニア選手に挑戦して5回KO負けを喫しました。

尽くんとは何回もスパーリングしてきてその強さを知っていただけに、これがウェルター級のチャンピオンなのかと驚きました。

改めてこの階級のチャンピオンはものすごく価値があるとわかったので、なんとしても僕がそのタイトルを日本人で最初に取りたいと思ってます。

本気でボクシングを初めて1年で日本一に

――そんな偉業を目指す竜虎選手。ボクシングを始めたきっかけは?

伯父さんが持っていた『ろくでなしブルース』を読んで、ボクシングって面白そうだなと思ったのがきっかけです。それで小6でこのジム(渡嘉敷ボクシングジム)に入ったんです。

――『ろくでなしブルース』といえば、不良漫画でもありますが、竜虎選手自身もヤンチャだった?

小学生の頃からケンカっ早いところはありました。年上相手に食ってかかったりして母親もどうしたものかって悩んでたみたいです。ボクシングを始めてからはちゃんと話し合いができるようになりましたが(笑)。

――不良がボクシングの道を目指し更生するのはボクシング漫画あるあるですね。

不良ではないですよ(笑)。それにプロになろうなんて微塵も思ってないどころか、プロの存在も知りませんでした。ちょっとやってみたいな、くらいの感じだったんですが、入ったら他の子どもたちがやってるような遊びのプログラムには混ぜてもらえず、会長にガチ練習させられて……。

――モノが違ったということでしょうか。

わらからないけど真剣にやる気がなかった僕にとっては、ほかの人たちが羨ましかった(笑)。

――本腰を入れてボクシングに向き合い始めたのはいつ頃から?

中2くらいです。それまであまりマジメに練習してなかったから週2回のスパーリングでは疲れるし血だらけになるしで、本当にイヤだった。会長からは熱心に「お前はプロになれ」と言われてましたが、ピンときてなくて。

でも、YouTuberで井上尚弥選手や畑山(隆則)さんのタイトルマッチを見て、やっぱりプロってカッコイイなと、マジメに練習するようになりました。

――本腰を入れて1年でJCL(ジュニア・チャンピオンズリーズ)U-15の66キロ級で優勝、UJ(アンダージュニア)との統一戦(キッズボクシング統一王座決定戦)にも勝利して世代ナンバーワンに輝いています。

そこまではよかったんですけど、レベルが上がれば強い人がドンドン出てくるんです。

――減量もキツそうです。

日本ではスーパーライトまでグローブが8オンス(片方227グラム)で、ウェルターから10オンス(片方283.5グラム)なんです。会長からはウェルターを強く勧められたものの、8オンスで出たい気持ちがあってスーパーライトでプロデビューしたんですが、減量が本当にキツくて。

普段、僕は体重が76キロくらいなのにスーパーライトは63.5キロなんで、12.5キロの減量をしなくちゃいけない。2カ月に1回は試合があるから食事は常に減量食、それでも落とせるところがないから水分を抜くという生活でした。

尊敬するボクサーはマイク・タイソン

――プロデビューは高3ですよね? 育ち盛りでその減量はキツイ……。

空腹で体を動かせないから体育は全部見学です。弁当の時間も減量で食べることができないので、ひたすらみんなを睨んでました(笑)。

――怖い(笑)。

高3の5月にやったプロデビュー戦はドローだったんですが、2ラウンド目で拳が折れちゃって2日後の学校の定期テストは腕を吊りながら受けました。

ちょっとこれじゃ普通の学校に通いながらボクシングをやるのはムリだなと思い、高3の夏に通信制に切り替えて週1で学校に通いながら試合に出てました。

――減量苦がありながらも東日本スーパーライト級新人王で決勝へ進出。しかし、そこで初のKO負けをしてしまいます。

人生初の負けでしたし、ショックでしたよ。

これから本気で強くなりたいなら、食べたいとか遊びたいって欲を全部捨てなきゃいけない。だから、一回ボクシングを辞めて、やりたいと思ったことを今のうちに全部やっておくことにしたんです。

好きなものを食べて、バイトして車とバイクの免許を取って、当時の彼女と遊び行って、友達と朝までカラオケして。学校はちゃんと卒業したしトレーニングは続けてましたけど、1カ月で16キロは太りましたね(笑)。

――青春を謳歌してますね。

それである日、もうやりたいことがなくなったんで、LINEを全部消して会長のところに行って「すみません、もう一度やらせてください」と。

――最終的に体重はどのくらいになったんですか?

86キロくらいですね。会長の言うとおりウェルター級(66キロ以下)に転向しても20キロ落とさなきゃいけないから、それから2年はひたすら減量と練習の日々。会長から言われたことを全部やって、練習量はスーパーライト時代の2倍以上になってました。

――そして、全日本ウェルター級新人王に。竜虎選手の強みは?

パンチ力でしょうか。小学生の頃からどうやったら強く打てるかは意識して練習してきたし、中学生から今までも勝ち試合は全部KOなのでそこが自分の一番の魅力だと思います。

――目標とするボクサーは?

マイク・タイソンです。自分より20センチも背が高くて体重も重い相手選手を平気で倒すから、見てて面白いんです。

それにパンチ力ばかりに注目されるけど、ステップもうまいしテクニックもある。パンチを当てる技術やコンビネーションも持っているから、YouTubeで試合を見ていても参考にしている部分は多いです。

――研究のために昔の試合動画をよく見る?

そうですね。今のボクシングはアマチュアあがりの選手が主体でみんなテクニックがスゴイんですけど、昭和のボクシングは不良が成り上がるって感じで見てて熱くなるんです。

僕自身も、そういう闘争心溢れるスタイルで闘いたいです。

――名前負けしないファイトスタイルですね。6月10日には後楽園ホールでマーロン・パニアモーガン(31=フィリピン)戦が決まっていますが、最後にボクシングファンにメッセージをお願いします。

KOを見たい人は僕の試合を見に来てください!

後編では、その渡嘉敷会長を交えた師弟インタビューをお送りします!

取材・文/武松佑季 撮影/矢西誠二