悪代官と言えばこの人「川合伸旺」 悪代官以外の出演でも「いつか裏切るんじゃないかと思われていた」
ペリー荻野が出会った時代劇の100人。第40回は“ミスター悪代官”こと川合伸旺(かわい・のぶお=1932〜2006)だ。亡くなって20年が経つが、彼ほど眼光鋭いインパクトのある悪代官にはなかなかお目にかかれない。その一方で、吹き替え声優としてマーロン・ブランドやポール・ニューマンといった名優を演じた。彼の素顔とは――。
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【写真を見る】“ミスター悪代官”川合伸旺さんの出演作といえば?
川合伸旺といえば数々の時代劇で悪役を演じた俳優として知られ、没後20年となる今も“悪代官といえばこの人”“ミスター悪代官”と時代劇ファンにはおなじみの存在だ。ちなみに、悪代官フィギュアのモデルにもなっている。

のど飴のCMに同じく知的な悪役として知られる田口計と出演した際は、袖の下の小判を見て「お主も悪よのう」という名セリフを遺した。そのセリフは、もともと別のものが用意されていたが、川合と田口がアドリブで変更したのだった。
1932年に愛知県の豊橋市に生まれた川合は、52年に劇団青俳に入所。仕事について悩んだ時期もあったが、青俳の立ち上げメンバーで後に“2代目黄門様”となる西村晃に励まされたという。その後、映像作品にも出演するようになり、62年のドラマ「献身」(日本テレビ)でヒロイン(小畠絹子)をいじめる実業家役で注目され、悪役を演じることが増えた。
TBSの「水戸黄門」(ゲスト出演回数は49回で歴代2位)、同じく「大岡越前」、テレビ東京の「大江戸捜査網」など多くの時代劇で演じた悪代官や悪殿様はまさに十八番という感じだが、個人的にはボスとか黒幕以外の役も強く記憶に残っている。
刀も扱えなかった
たとえば、萬屋錦之介の主演で人気を博した「子連れ狼」(日テレ)第1シリーズ第1話「子貸し腕貸しつかまつる」(73年)。一子大五郎を箱車に乗せて旅をする凄腕の刺客・拝一刀(萬屋)は、元武家の遊女(太地喜和子)に頼まれ藩を牛耳る城代家老と側近の2人を斬ることになる。その側近・振杖外記が川合だった。外記は長くて極太の杖をぶるんぶるんと振り回し、不利になると大五郎を人質に。「いいのか、俺がこの子を殺しても」と言い放つ。「子連れ狼」シリーズには大五郎を狙う強敵が次々と現れるが、その第1号が川合の演じる杖振り男だった。
他にも「暴れん坊将軍」(テレビ朝日、79年)では、徳川吉宗(松平健)が将軍になったことで出世できなかったと逆恨みし、吉宗の側近・加納のじい(有島一郎)を拉致監禁する悪旗本・内藤采女。平幹二朗・主演の長編ドラマ「薩摩飛脚」(フジテレビ、82年)では、薩摩藩に潜入した元お庭番・神谷金三郎(平)を執拗に狙って幾度か剣で戦うが、ついには腕を切り落とされて飛び道具まで使って襲い掛かる藩の剣士・伊集院玄八郎。なかなかにすさまじい役だ。
「新劇の出身だから、時代劇に出始めたころは殺陣どころか刀の扱いもできなくて苦労しました。京都には時代劇の伝統があるし、撮影のテンポは速い。『できません』なんて言えない。厳しい中で学ぶべきことがたくさんあった。必死に勉強しましたよ」
「悪役じゃないのに…」
興味深いのは、「子連れ狼」の振杖外記は眉毛がつり上がり顔には大きな傷跡、「暴れん坊将軍」の内藤采女は目張りも入って眼力がものすごく、「薩摩飛脚」の伊集院玄八郎は顔が真っ青なゾンビのようになって現れる。外見もド迫力にしているという点だ。
「悪はやっぱり強く見えないと面白くない。悪は第二の主役で必ずしっかり映るわけだから、スタッフから『こうしたらもっと迫力が出る』とアイデアを出されると『よし、やってやるか』という気になるんだよ(笑)。身分が高い役をやるときは、着物の下にたくさん着込んで恰幅よく見せることもよくありました。暑くて大変でも存在感が大事。街を歩いていて、『水戸黄門』で観たとか、『暴れん坊将軍』で怖かったとか言われると、みなさんの心に残ったんだと実感しました」
忘れられないのは、「水戸黄門」と同じTBSのナショナル劇場枠で放送された「翔んでる!平賀源内」(89年)で、西田敏行が演じる源内と知り合う町奉行・能勢甚四郎だ。
実験に失敗して長屋を爆破したり竹製の飛行機で空を飛ぼうとしたりする源内は、お白州にウソ発見器(!)などの発明品を持ち込んで事件解決に一役買う。能勢はお白州に出る前に手鏡で髪を気にしたり、源内の実験にハラハラしたり、田沼意次(藤岡琢也)に叱られてしょんぼりしたりとお茶目な顔を見せ、番組ファンには隠れた人気者だった。
もっとも、放送中は「まったく悪役じゃないのに、いつか裏切るんじゃないかって、みんなに思われていたみたいだねえ」だったらしい。
画家としても活動
私は出身地が近かったこともありローカルな話題で盛り上がり、いつも気さくに話をしてもらった。マーロン・ブランドやポール・ニューマンの吹き替えでも知られるあの声だ。
高校時代は美術部に所属し、俳優になってからは童の絵を中心に個展を開くなど画家としても活動した。自然の中で遊ぶ童は可愛らしく、作者の優しさが伝わってくるような作品ばかりだ。
最後に取材したのは舞台「友情〜秋桜のバラード〜」の楽屋だった。白血病の副作用で髪が抜け落ちた仲間のため、クラスメイト全員が頭を丸めて励ましたという米国の実話をもとにした作品で、病院長役には川合を含め内容に共感した俳優陣が多数友情出演している。
「こういう作品は家族みんなで観てほしい。生徒役の若い人たちとの共演も刺激になる。楽しいですよ」
穏やかな笑顔だった。
「時代劇でやるならその後の長谷川平蔵とか、全盛期を過ぎた主人公を演じてみたい。史実でもみんな知らないと思うし、僕が演じたら面白いと思うんだよ」
2006年、70代での旅立ちは残念だったが、今も多くの出演作で強烈なインパクトを残し続けている。大事にしてきた「存在感」は生きている。
ペリー荻野(ぺりー・おぎの)
1962年生まれ。コラムニスト。時代劇研究家として知られ、時代劇主題歌オムニバスCD「ちょんまげ天国」をプロデュースし、「チョンマゲ愛好女子部」部長を務める。著書に「ちょんまげだけが人生さ」(NHK出版)、共著に「このマゲがスゴい!! マゲ女的時代劇ベスト100」(講談社)、「テレビの荒野を歩いた人たち」(新潮社)など多数。最新刊は三谷幸喜との共著「もうひとつ、いいですか?」(新潮社)。
デイリー新潮編集部
