パナソニックホールディングスには、プロダクト解析センターと呼ぶ組織がある。

長年に渡って蓄積してきた解析評価技術により、パナソニックグループの各事業会社の競争力強化を下支えする役割を担っている組織だ。3回に渡って、プロダクト解析センターの取り組みを追ってみる。

取材に応じてくれたパナソニックホールディングス プロダクト解析センターのみなさん

そもそも解析評価技術とはなにか。

パナソニックホールディングス プロダクト解析センターでは、解析評価技術を、「モノ、コトの出来栄えを、原理原則に基づいて、数値化、見える化する技術」と定義している。

たとえば、同センターが持つ解析評価技術のひとつに、握り心地を解析し、評価するといったものがある。モノを握ったときの把持圧分布と、人の心地よい感じ方の関係性を紐解き、定量化することで、握り心地のいい商品の設計につなげることができるというわけだ。ここでの解析、評価の成果は、メンズシェーバーのラムダッシュシリーズや、シャワーヘッドのエステケアシャワー、電動工具であるインパクトドライバーなどのグリップの設計に生かされている。

解析評価技術は「モノ、コトの出来栄えを、原理原則に基づいて、数値化、見える化する技術」

評価の成果はシェーバーのグリップの設計など、実際の製品に生かされている

プロダクト解析センターは、2005年に松下電工が設置した松下電工解析センターが発端となっている。2012年には、パナソニック(松下電器)、パナソニック電工、三洋電機の統合にあわせて、3社の解析、評価技術に関連する社員を集結し、約150人体制で解析センターを設置。2016年に、現在のプロダクト解析センターの名称に変更している。

組織は、ユーザビリティソリューション部、材料ソリューション部、安全・EMCソリューション部、デバイス・空間ソリューション部、くらし・環境ソリューション部の5つで構成。大阪府門真市の守口・門真地区、兵庫県丹波篠山市の篠山地区に解析拠点を設置している。

現在は、約100人の社員によって構成。人間工学、化学・物理学、電気工学、機械工学、生物学など、専門知識を持った幅広い人材が集まっている。

プロダクト解析センターの位置づけ

パナソニックホールディングス プロダクト解析センター安全・EMCソリューション部の渡邊竜司部長は、「プロダクト解析センターは、モノだけでなく、コトを含めたプロダクトを、よりよくすることを目指した組織になる」と位置づけ、「これだけ幅広い領域の専門人材が集まっている組織はあまり聞いたことがない。今後は、AIの専門知識を持った人材などが加わることになるだろう」とする。

パナソニックホールディングス プロダクト解析センター安全・EMCソリューション部の渡邊竜司部長

創業者である松下幸之助氏は、「お客様の番頭たれ」という言葉を使い、顧客の立場で、性能、品質を自ら試し、再吟味することの重要性を徹底してきた。

「この考え方をベースに、すべての製品開発プロセスにおいて、顧客視点で科学的なソリューションを提供し、『番頭』になることを目指している。解析技術と評価技術により、顧客要求品質適合、価値創造、商品評価、トラブル解決などの役割を担っている」とする。

製品開発プロセスにおいて、顧客視点で科学的なソリューションを提供し、「番頭」になることを目指している

パナソニックグループだけを対象にした活動だけでなく、これらの技術を活用して、社外に対するサービスも提供しており、現在、2割弱を社外向けサービスが占めている。また、パナソニックの事業会社からも収益を得ており、自立した組織運営としているのも特徴だ。

プロダクト解析センターでは、8つのコア技術を持つ。

プロダクト解析センター、8つのコア技術

ひとつめは「ユーザビリティ」だ。利用者の五感や気持ちを可視化し、真意を汲み取ることにより、生活者が本当に欲しいと思う製品開発をサポートする役割を担うという。

人の感性を定量化したり、感情を推定したりする技術であり、デジタルヒューマンを活用したシミュレーションによって、人にかかる負担を評価するほか、カメラ映像をもとに感情を分析したり、状態を推定したりといったことも可能だ。「心と身体を科学することができる技術」と位置づけている。

ユーザビリティ

2つめは、「材料分析」である。

原子スケールで微細構造分析を行うほか、材料組成分析、化学構造解析などを行い、材料設計に生かすことができる。さらに、トラブルが発生した際の原因究明にも活用している。表面分析や破断面解析、非破壊観察、異臭・腐食ガス分析などの技術を有している。

材料分析

3つめが「EMC」だ。

電気的なノイズを評価、解析する技術であり、民生機器や車載機器、半導体に関するEMC試験を実施し、各種の関連認証に対応することができる。また、ノイズの発生が確認できた場合には、課題を解決するための設計対策支援も行う。篠山地区には、10m電波暗室や車載用電波暗室、全無響電波暗室など、目的に応じた電波暗室を多数保有している。

EMC

4つめの「電気・人体安全」は、電気火災の試験を実施したり、電気的な故障の予兆検知に対応したりする技術で、家電や業務用機器、住宅設備などで培った電気・人体安全のノウハウを、様々なモノづくりに活かしている。電気安全試験、難燃性試験、大電力試験などを実施する。ここでは、ロボットが人と共存して稼働するための安全性の評価やコンサルティングも行っている。

電気・人体安全

5つめが「デバイス創造」である。シミュレーションをベースに幅広い物理現象を可視化するとともに、電磁場解析、熱流体解析などにより、新たなデバイスの創出や快適空間の実現を支援する。大学との共同研究によって構築した独自のシミュレーション技術を用いて、物理現象を組み合わせた連成シミュレーションによって、複雑な現象も解析できるという。昨今ではAIとの組み合わせにより、人の発想や経験を超えるようなデバイス設計も可能にしている。

デバイス創造

「電子回路解析」では、電子部品や回路、ノイズ、高周波に関する専門家が集結した組織によって、電子回路に関する課題を的確に分析、診断し、根本原因の解決策を提案することになる。回路の設計診断やリバースエンジニアリング、非破壊解析装置などを用いた故障解析や良品解析のほか、高速伝送インターフェースの設計やプロトタイプの設計を通じて、新しい価値の提案にもつなげている。

電子回路解析

「信頼性」では、部品や材料の「健康状態」を診断。製品寿命に関わる設計の課題を浮き彫りにし、適切な解決方法を提案することで、製品不良を未然に防止する。温湿度試験、振動試験/地震試験、燃焼試験、耐腐食性試験、耐候性試験といった環境試験のほか、ひずみの可視化などによる物性情報の取得、物性変化を捉えた加速試験による製品寿命予測などを行う。最近では、中古家電の寿命予測を行う技術を開発し、サーキュラーエコノミーへの貢献につなげている。

信頼性

そして、8つめの「バイオ解析」は、商品を使用する生活環境を想定し、最適な試験方法を提案し、見えない生き物の評価をもとに、製品価値に結びつけ、健康・清潔空間を実現する役割を担う。具体的には、アレル物資抑制効果、美肌や美髪の効果、除菌・防カビ効果、ウイルス抑制効果、脱臭効果などの試験を実施することになる。美容家電の効果や、ナノイーによる除菌、脱臭効果などの測定とともに、効果を実現するメカニズムの解析も行っている。

バイオ解析

パナソニックホールディングスの渡邊部長は、「プロダクト解析センターは、これらの8つのコア技術を活用して、7つの価値を提案している」と述べ、7つの価値として、「世界にまだない価値を」、「キレイを語れる商品に」、「誰もが安心できる商品を」、「商品づくりを支える人づくり」、「商品のSOSに迅速対応」、「タフな商品をめざして」、「他社の商品より一歩先に」をあげた。

8つのコア技術を活用して、7つの価値を提案

今回は、「バイオ解析」の取り組みについて、もう少し詳しく見てみよう。

プロダクト解析センターでは、美顔器の製品化に向けて、バイオ解析による支援を行ってきた。

従来から、人肌への美容成分の浸透量評価などを行ってきた経緯があるが、2017年にはヒアルロン酸の浸透性の可視化技術を開発。さらに、2018年には人工皮膚を用いた評価法を開発し、2022年には皮膚モデルによる生体安全性評価法を開発しており、社内ラボを通じた評価サービスを提供している。

パナソニックホールディングス プロダクト解析センターくらし・環境ソリューション部の勝山美紗部長は、「電気刺激を与えたときに、肌にどんな作用があるのか、遺伝子としてどんな成分が増えているのかを解析している。また、安全性の観点から、やけどに対する評価なども進めている」という。

パナソニックホールディングス プロダクト解析センターくらし・環境ソリューション部の勝山美紗部長

美顔器に関しては、テープストリッピングの手法を用いた化粧品成分浸透量評価を行うなど、化学的アプローチによって、効果や効能を可視化している。これらの評価の結果、パナソニックの美顔器に搭載されているイオンブーストでは、イオンの力によって、美容成分が、肌の奥や角質層にまで届くことを、可視化および定量化し、角質層への高浸透ケアと、リフトケアを両立し、毎日のスキンケアが本格的なエイジングケアに変わるという商品特性を訴求できるようになった。

ヒアルロン酸の浸透性評価では、蛍光試薬を用いて、ヒアルロン酸を発酵させて浸透度を可視化。肌の汚れ落ちには比色法を用いて、効果を実証した。

人肌への美容成分の浸透量評価などから発展

また、パナソニック独自のナノイーの効能に関しても、バイオ解析チームが検証を進めている。

たとえば、におい評価では、人間の感覚だけでなく、化学的な原理に裏打ちされた評価を実施。6畳チャンバーなどのり試験空間を利用し、たばこ臭やペット臭、生乾き臭などの臭気強度の変化を検証し、評価を行っている。

プロダクト解析センターでは、臭いを捕集し、試験用の臭いを作り、試験空間を用意し、試験装置を開発するといった細かな作業を経て、効果を実証。なかには、臭いを嗅ぎ分けることができる分析者が、臭いを感知し、原因物質を特定することで対策につなげるといった取り組みも行っている。

さらに、検査済み再生品であるPanasonic Factory Refreshにおいて、使用済みの食洗機の臭いを分析したり、脱臭方法を検証したりといったことも、プロダクト解析センターで行っている。

現在、研究開発用途で使用しているのが、培養細胞による生体安全性評価法である。

2024年に開発したもので、表皮や真皮の細胞をそれぞれに培養。複数の細胞や試薬を組み合わせることで、細胞を分化させ、人工的に皮膚構造を再現する。完成するまでに3〜4週間かかるという。

プロダクト解析センターで作製した人工皮膚。左が表皮だけのもの。右が表皮と真皮を重ねたもの。完成するまでに3〜4週間かかる

プロダクト解析センターで、人工皮膚を内製化できるようになったことで、細胞の組み合わせや作製手法を用いて、カスタマイズが容易に行えるメリットも生まれている。例えば、メラニンを増やした人工皮膚の作製や、外国人を想定した人工皮膚の作製が行えるなど、様々な皮膚を対象に検証が行える環境が整う。

「人工皮膚を用いることで、角質層、表皮層だけでなく、真皮層までの浸透効果を評価できるようになる。具体的には、ヒトに近い状態で、コラーゲンが増えているかどうかを検証でき、生きた細胞の状態変化も追跡できる。皮膚肌のハリや弾力改善の原理を研究できる」(勝山部長)

人工皮膚。内製化できるようになったことで、細胞の組み合わせや作製手法を用いて、カスタマイズが容易に行えるメリットも生まれている

細胞・遺伝子解析によって、若返り成分の増加や、皮膚を丈夫にする表皮維持遺伝子の効果なども評価することができるという。

「細胞生存率の評価により、生細胞率を定量化。開発したデバイスが、肌に悪い影響を及ぼしていないかを評価したり、人工皮膚を用いて、炎症性を評価したりといったことも可能になる」

今後は、カスタマイズできる強みを生かし、筋肉細胞の活用なども視野に入れており、筋肉に刺激を与える健康、美容製品への応用も想定できるという。

生物学を生かした取り組みは、パナソニックグループのなかでも珍しい存在だ。こうした最先端技術が、特徴を持った理美容家電や健康家電の商品化を下支えしている。