現実問題、これ以上消費増税には頼れないから…「健康保険財政の歪み」と世代間格差を解消するための手段と思考法

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「高齢者」とは何であったろうか

思い出して貰いたい。僕は昭和21(1946)年生まれの団塊の世代として高度成長期を過ごした。その時代のことだ。そのころ中学卒業、つまり15歳で大量の集団就職者が地方から大都市に集められ、就業者となった。一方、定年年齢は長く55歳で、身の回りでも60歳を超えれば老人。70歳を超えればご長寿と見られていた。15歳から64歳が生産年齢と定義されてもそれほどおかしなこととは思わなかった。

しかし、現在はどうだ。高卒、大卒が当たり前になって人の就労年齢ははるかに上がり、また、定年は60歳に延長されたものの、寿命はもっと延び、70歳代の就労は年々、当たり前の風景になっている。15〜64歳という生産年齢の定義、そして「高齢者」「引退」といった制度の枠組みが日本社会の実態から取り残されてしまっている。

今、年々、膨張を続ける社会保障費が日本の財政、いや日本の社会を押し潰そうとしている。令和8年度の国の一般会計予算での社会保障費関係費は約39兆円、歳出に占める割合は約56%に達する。平成18年度は20兆5700億円だったものが、20年でほぼ倍増した。

原因は明解、高齢社会化である。医療、年金、介護などで制度的に支えられる側の「高齢者」の人口が団塊の世代の高齢化により、急速に増加したことによる。一方、税や保険料の形でこれらの制度を財政的に支える勤労層である「現役層」の比率は下がり続けている。

消費税率の引き上げなど小手先の調整は続いているが、必要な社会保障費と税収のギャップは開くばかり。選挙の結果にかかわらず財務当局の増税圧力は続き、現役層への保険料負担も重くなるばかり。「現役層」「高齢者」の枠組みを実態に合わせ大きく組み直さなければ、このままでは、現役層が耐えられなくなり社会が成り立たなくなる。

磯野波平さんの時代

僕は、3月17日の参議院予算委員会の質疑で、高市早苗総理に、3月7日に誕生日を迎え、見事に64歳から1つ歳をとって生産年齢人口を超えましたね、と指摘した。そしてテレビアニメ「サザエさん」で出てくる主人公の父親「磯野波平さん」の年齢が54歳という設定になっていることも説明した。

今、高市総理の65歳は、政治家としてそれほど「年寄り」とはみられていない。ご存じのように彼女はハードワークをこなす現役政治家である。一方、波平さんは55歳の定年を間近に控えている。「サザエさん」は1946(昭和21)年に新聞連載が始まり、1969(昭和44)年にはテレビアニメ化された。戦後の高度成長期には55歳定年が一般的であった。僕の子どもの頃の男性の平均寿命は68歳ぐらいだった。そして60歳を迎えると還暦ということで赤いチャンチャンコを着て長寿を祝ったものだ。

60年代から現役層は生産年齢人口で15〜64歳と定義されてきた。50代、60代というのはやはり年寄りと見られていて、70代なら相当の長寿であった。55歳定年というのはそれなりに合理的だった。

また、高度成長期は、中学卒業生が「金の卵」と呼ばれた集団就職にみられるように、15歳から大量の勤労者が供給されていたことから、生産年齢人口の始まりが15歳というのも妥当性があった。

しかし、現在では、高校進学率が99%、大学進学率が60%。15歳から生産年齢というのは明らかに早すぎる。

高齢側も、60歳定年制が敷かれ、しかも65歳まで雇用延長が義務づけられている。その一方この20年間で、高齢者の就業率は男性では70〜74歳で29%から43%に、75〜79歳で19%から26%に上がっている。年金も支給開始が原則65歳に。諸外国をみてもアメリカ、イギリス、ドイツなどは67歳が支給開始年齢になっている。男性の平均寿命は81歳。70代は十分に健康に活動している。

■年齢階層別就業率の推移

現在の生産年齢人口で「現役層」「高齢層」を定義としてしまうと明らかに現実から大きく乖離してしまう。社会保障は年齢によって負担と受益の立場がはっきり分かれる制度であり、現実を反映していない制度設計や社会通念のうえで動かしても矛盾が広がるばかりである。

社会保障費を巡る構造的な歪みの根本が、じつはこの「生産年齢」「高齢者」という概念に存在しているのではないか。

これ以上、消費税に頼れない

消費税法には「消費税の収入については、地方交付税法に定めるところによるほか、毎年度、制度として確立された、年金、医療及び介護の社会保障給付並びに少子化に対処するための施策に要する経費に充てるものとする」とある。つまり消費税社会保障目的税なのである。

冒頭に解説したように、この約20年間で社会保障関係費は約2倍になった。一方、消費税収はというと、この間、税率が5%➔8%、8%➔10%と引き上げられたが、社会保障関係費とのギャップが開く傾向は止まっていない。しかも、最近の選挙の結果を見る限り、増税に対する国民の忌避感はますます強まっており、社会保障費の増勢に合わせた消費税率の引き上げは困難であろう。

社会保障関係費と消費税収の推移

財源の増加が行き詰まっているにもかかわらず、受益世代の高齢者が急速に増加したことが現役世代の負担感を増しているとするならば、出口はこの高齢者、現役世代という枠組みそのものの見直しに向かうしかいない。

先に解説したように、70代の就業比率が上昇を続けているのであれば、生産年齢の上限の見直し、もしくは取っ払うことを考えても良いのではないか。

70代前半で40%以上が就業している時代に、60歳、延長しても65歳で定年という形の強制解雇を行うことは実態に合っているのであろうか。健康である限り働き続けることができる社会であれば、高齢者の就労はさらに増え、社会保険の応能負担を求めることも可能になりはずだ。

現役世代を押し潰す後期高齢者への「仕送り」

社会保障負担の世代間の不均衡を考えるとき、最も甚だしいのが後期高齢者医療制度だ。75歳以上を「後期高齢者」として現役世代とは別の医療保険に加入している。問題となる窓口負担は、70歳未満の現役層が3割であることに対し、75歳以上は一般所得者が1割、一定以上所得者2割、現役並み所得者が3割となっている(70〜74歳では一般所得者2割、現役並み所得者3割)。

わが国の人口は1億2000万人強で、そのうち75歳以上が16%、65歳から74歳が13%を占めている。国民医療費でみると、さらに全体の40%が75歳以上の後期高齢者に使われていて、その総額は20兆円を超えている。

実際には、後期高齢者自身が窓口での支払いや保険料として負担しているのは、かかった医療費全体のわずか17%。残りの80%は税金と現役世代からの支援保険料、つまり「仕送り」で成り立っている。これはもはや保険の態をなしていない。年齢によらない真に公平な応能負担ということであれば、負担割合を原則一律3割に統一しなければ、現役世代の不満感は収まらないであろう。

社会保障関係費と消費税収の推移

このことには負担の平等化と言うだけではなく、医療費の抑制効果も期待できる。価格弾性値という考え方がある。価格が上昇すれば、その分、支出を控えるとして、抑制効果を計算するものだ。医療の場合、負担割合と受診回数の相関関係がみられる。そこで窓口負担を3割に統一したらどのくらいの医療費が削減できるかという試算をしてみる。鈴木亘・学習院大学教授や津川友介・UCLA准教授の先行研究によるものでは価格弾性値は0.16から0.3。一方、厚生労働省は0.1とみている。

0.1であれば約3兆円。先行研究の数値のざっくり真ん中辺をとって0.2として約6兆円。相当大きな医療費の削減、つまり国庫負担の抑制を見込める。この6兆円というのは食料品消費税を0%に引き下げたときの必要財源が約5兆円と言われており、それをカバーできる規模である。

健康保険財政の「無駄」はまだ存在する。今般の健康保険法改正案で協会けんぽ(独自の健康保険組合を持たない中小企業の従業員が加入する、健康保険法に基づく保険)の準備金から1500億円の国庫返却が盛り込まれている。しかし、協会けんぽは、実に6兆円もの準備金を貯め込んでいる。健康保険は年金と違って基本的に単年度ごとに収支の帳尻を合わせるものであり、積立金などは必要ないはずだ。このため込んだ6兆円は、いわば埋蔵金であり、これを活用して現役世代の保険料率を引き下げたり、国家負担を軽減することも考えられるはずだ。

このように健康保険財政には、まだ多くの無駄や歪みがあり、支出の抑制、世代間の負担の不均衡は是正を続けなければならない。

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