『風、薫る』写真提供=NHK

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 NHK連続テレビ小説『風、薫る』に、主人公・一ノ瀬りん(見上愛)の幼なじみ・竹内虎太郎役で出演している小林虎之介が、初回から視聴者の心を捉えた。「朝から爽やかだ~~~!!」「想像以上に恋するピュアボーイでちょっとワクワク」「『だべ?』だけで初恋泥棒すぎませんでしたか?」。SNSに飛び交ったのは容姿への反応よりも、虎太郎というキャラクターから滲み出る純粋さ、誠実さへの共鳴だった。

参考:小林虎之介が『風、薫る』で得た確かな手応え 見上愛とは「あえてたくさんは喋らない」

「虎太郎は、心から純粋な男の子で、自分より相手を優先する優しさを持っています。それ故に自分の気持ちにブレーキを踏んでしまうことも多く、気付いたときには取り残されていたり」(※1)

 本人がインタビューで語ったこのキャラクター解釈は、そのまま演技として画面に滲み出た。元足軽の家の長男として身分の差を痛感しながら、それでもただひたむきにりんを思い続ける不器用な好青年を、小林虎之介は台詞の少ない場面でも、まなざしと佇まいだけで表現してみせた。

 父を亡くし、望まぬ縁談を受け入れたりんを第2週にこっそり逃がす場面――荷車にりんと娘・環を隠して船着き場まで送り届け、「りん、俺……俺……」と思いを飲み込んで大きく手を振る別れのシーン。「本当にピュアな人なんだろうな……というのが、画面越しに伝わってくる」と評する声が上がったのも自然だった。演じているのか、存在そのものがそうなのか、境界線がわからなくなるような誠実さ。それが小林虎之介という俳優の本質的な魅力である。

 インタビューで小林はこう語っている。

「台本を読んだ時は、『ちゃんとキュンとさせないといけないな』くらいで、そこまで深く考えていなかったんです。でも実際に演じてみると、『虎太郎って本当にタイミングが悪いな』と思いました」(※2)

 飾らない言葉の端々から浮かび上がるのは、虎太郎とどこか重なるような、実直でひたむきな姿だ。小林虎之介は役を「解釈する」のではなく、役の人生を自分のものとして丸ごと生きようとするタイプの俳優なのである。

 ここで注目したいのは、インタビューで語った本人の言葉だ。「恋愛が絡む役自体も初めての僕に、そんな役が来るんだ!?」と驚きを明かしたほど、初の朝ドラ出演はさまざまな「初めて」を重ねた挑戦だった。しかも自分の名前「虎之介」と役名「虎太郎」の“虎”の字が一緒という縁も感じながら臨んだという。

 この「初めて」が、小林虎之介という俳優を理解する上での鍵である。

 1998年2月生まれ、岡山県出身。2021年にゲスト出演でドラマデビューし、2023年秋、日曜劇場『下剋上球児』(TBS系)で連続ドラマに初めてレギュラー出演を果たした。小学校から12年間野球を続けてきた本物の実力を持ち、「絶対役を取る」と周囲に宣言して実技審査のオーディションに挑んだ。第3次審査に向けて体重を4kg増量し、キャッチャー向けの身体を作って臨んだという。

 演じたのは越山高校野球部に1年生の秋から入部し正捕手となっていく日沖壮磨。野球部のキャプテンを務めてきた3年生の兄・誠(菅生新樹)の弟でありながら、思春期ゆえになかなか素直になれない、本音を言えない複雑な内面を抱える少年だ。赤髪のまま不良仲間とつるんでいた壮磨が、兄の無念を背負って坊主頭になり涙ながらに入部を宣言するシーンは、小林の人物構築の密度が一気に放出された瞬間だった。塚原あゆ子監督からの「ドラマにおいてキャラクターの個性を失ってはいけない」という言葉を胸に刻み、チームワークの和の中で壮磨の“尖り”を守り続けた。兄役の菅生新樹は最終回後、自身のXに「とらが演じる壮磨のお陰で、日沖誠を思う存分楽しんで演じることができた。壮磨役が小林虎之介で本当に良かった」と投稿した。自分の芝居が共演者の芝居を最大限に引き出す――後の作品でも繰り返される小林の特質が、すでにここに現れていた。

 2024年夏、テレビ東京の深夜枠ドラマNEXT『ひだまりが聴こえる』で、中沢元紀とのW主演という形で地上波連続ドラマ初主演を果たした。難聴の大学生・航平(中沢元紀)に明るくずかずかと踏み込んでいく、同級生の佐川太一役である。それまでの問題児・ヤンキー系の役柄とはまるで異なる。「太一はとにかく子犬のような男の子で、パワフルな一面もあれば繊細な一面もあって」と本人が語ったキャラクターで、18歳の役だが「小学生の頃の感じを思い出して手の動きやセリフの言い方を考えた」という。役作りにあたっては「今までの作品で一番台本を読み込んだ」一方、太一は親に捨てられた傷を心の奥に抱えているという役の背景から「前半はあえてキャラクターっぽさを強めに出して、後半になるにつれて省いても人間ストーリーとしてまとまると計算しながら組み立てていった」と語っている。(※3)外側からではなく、内側から、しかも全体の設計図まで意識して役を作るアプローチへの、それまでにない挑戦だった。

 こうした方法論の根っこには、「役の生い立ちを0歳から現在まで台本に書かれていないことも含めてイメージし、その役の思い出と自分の思い出を合体させる。出てこない両親についても田中裕子さんや柄本明さんなど実在の俳優をイメージして、自分はこの人から生まれてきたんだと感じられるように作る」という徹底した役の内宇宙の構築がある(※3)。ただ外側を整えるのではなく、その人物を生きてきた人間として役に入っていく真面目さとハイカロリーな向き合い方こそが、役が「生きている」と感じさせる理由だ。

 撮影後、小林はインタビューで中沢の芝居を「圧倒的に上手くなっていた。航平の儚さだったり、寂しさだったり、そのなかにある太一への好意だったりを出すことが上手で、涙も毎回出せる」と絶賛しながら、「今初めて言いますが、『もう芝居できねえ』と思っていたくらい劣等感を感じていました」と率直に明かした。これに対し中沢は「毎回涙を出せたのは太一の芝居のおかげで、太一の言葉にエネルギーやパワーがあったので、虎だからこそ出せたものだ」と語っている(※4)。互いの芝居が互いを引き出すという好循環――それもまた、小林の反復するパターンである。

 同じ2024年秋、NHKドラマ10『宙わたる教室』で役者としての転換点が訪れた。窪田正孝演じる謎めいた理科教師・藤竹に導かれる定時制高校の生徒の一人、柳田岳人(やなぎだたけと)を演じた作品だ。岳人は発達性ディスレクシア(読み書きの学習障害)を抱え、中学から不登校になり不良として生きてきた21歳。小林は撮影前に歌舞伎町を自転車で何周もした。岳人のつま先を外に向け、重心を低くしてやや大股で歩く身体表現は、歌舞伎町から大久保にかけての夜の街をうろつく男の雰囲気に溶け込んでいた。

 見せ場は第1話、藤竹にディスレクシアの可能性を指摘されるシーン。今まで字が読めないことで散々馬鹿にされてきた岳人が、顔を真っ赤にして怒りをぶつけ、「なくしたものは取り戻せねえ」と吐き捨てる。ぎらりとした眼光に世の中への怒りが滾る。「岳人は発達性ディスレクシアという学習障害を持っていて、周りの人とうまく付き合うために強がらないといけなくなってしまっただけで、根っこは純粋な子なので、そこをうまく表現できなかったらただのチンピラに見えてしまう」と本人は語る。主演の窪田正孝も終了後に「100%のヤンキーじゃなかったのがよかった」と小林に声をかけた。初回でくすぶる岳人を生々しく焼き付けたからこそ、藤竹と出会って学ぶ楽しさを知り本来の知性を解放していく成長が際立つ。回を重ねるごとに岳人の内側から光が溢れ出すような変化は、この俳優が役を0歳から生きている証だった。

 監督の吉川久岳(ランプ)との密度の濃い対話も、この役を成功させた要因だ。「窪田さんが常にリアルさを求めて、監督と『どうやったら自然か』ということを話されていて。その姿を見て、僕も『これはちょっと不自然かも』と思うものは監督と相談させてもらっていました。監督もできるだけ話し合いたいという感じだったので、僕も窪田さん同様、いろいろと相談させてもらっていました」とインタビューで語っている(※5)。

 学会発表シーンの撮影ではエキストラを300人近く集めたが、ドラマ第1話放送直後でストーリーをほぼ知らないエキストラが会場で涙を流したという。「監督もびっくりしていた。なかなかない光景だって」と振り返っている(※5)。『宙わたる教室』はギャラクシー賞2024年12月度月間賞を受賞し、第28回日刊スポーツ・ドラマグランプリでは作品賞と助演男優賞の2冠。助演男優賞を受賞した小林にとって、初レギュラーから約1年4カ月でのことだ。

 2026年1月、同じ吉川チームが手がけるNHK法廷ドラマ『テミスの不確かな法廷』の第1話にゲスト出演し、「また戻ってこられるように、いいお芝居ができるよう頑張りたい」と語った(※6)。

 改めて、この俳優の軌跡を見渡してみよう。壮磨の“尖り”、太一の“子犬の明るさ”、岳人の“怒りと純粋さの共存”、そして虎太郎の“言葉にならない献身的な愛”。演じてきた役柄はどれも異なる方向を向いている。しかし一貫しているのは、役の人生を0歳から構築し、架空の両親をリアルに想像し、その肉体と歩き方まで作り込み、「その場に立って生まれるものしかない」と言い切るほどの全身全霊の向き合い方だ。役を「解釈する」のではなく「生きる」。その真面目さと純粋さが、どんな役柄にも静かに宿り、画面越しに届いてくる。だからこそ視聴者は、虎太郎の「だべ?」の一言に初恋の記憶を重ね、岳人の「なくしたものは取り戻せねえ」に身の切れるような痛みを感じ、太一の歩き方に青春の眩しさを見てしまう。

 デビューからまだ5年余り。しかし毎作品、「今の小林虎之介にしか出せないもの」が確かにある。それが蓄積された代表作として結晶するより前の、削られながら育っていく過程ごと見せてくれる鮮度――それこそが、小林虎之介を「今すぐ追いかけなければいけない俳優」にしている理由だ。

参照※1. https://realsound.jp/movie/2025/08/post-2117130.html※2. https://www.tvguide.or.jp/feature/feature-4616230/※3. https://realsound.jp/movie/2025/01/post-1911308.html※4. https://mdpr.jp/interview/detail/4333635※5. https://thetv.jp/news/detail/1232019/※6. https://realsound.jp/movie/2026/01/post-2268993.html

(文=田幸和歌子)