エイプリルフールは炎上案件に?

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 町を歩いていても喧嘩を目にすることなど滅多にない平和な日本だが、毎日のように激しいバトルが繰り広げられている場所がある。それはSNSだ。具体的な名前を挙げれば、Xである。Xのポストをめぐり、毎日そこかしこで“炎上”が起こっている。著名人、一般人、企業、自治体まで、とにかく何かしら炎上しているのである。

 以前のネット炎上といえば、飲食店のアルバイトが食べ物を粗末にしたり、ヤンキーが悪さやいじめを自慢するなど、明らかに不謹慎な動画がバッシングされるケースが多かった。ところが、最近は「なぜ、これが炎上するのか」と首をかしげたくなる炎上も少なくない。その一つが、エイプリルフールに関連する投稿である。【取材・文=山内貴範】

【写真】エイプリルフールネタで炎上した「アニメイト」の店舗

今年はアニメイトのXが大炎上

 エイプリルフールに関するポストは、毎年“炎上”騒動が起こっている。今年は、4月1日にアニメショップ「アニメイト」のポストが大炎上した。アニメイトは架空の“乙女ゲーム”のプロデュースを行ったとして、動画と併せてポストしたが、その内容に「乙女ゲームを馬鹿にしている」と批判の声が上がったのである。ちなみに乙女ゲームとは、女性が主人公(プレイヤー)の、女性向け恋愛ゲームのことを指す。

エイプリルフールは炎上案件に?

 炎上したのは、動画内の「学園もの、異世界転生、BL展開などなんでもありの乙女ゲーム」というナレーションらしいが、筆者はこのポストのどこが問題なのか、さっぱりわからない。しかし、一部の人から言わせれば、「乙女ゲームにBL要素を混ぜるのは不適切」なのだという。「だから何?」というレベルの、相当どうでもいいクレームである。

 しかし、アニメイトは「配慮を欠く表現があった」として投稿を削除し、不快な思いをさせたということで、お詫び文を発表する事態になった。販売した商品に欠陥があったわけでもない。本来であれば単なる遊びで、面白半分でやるはずのエイプリルフールのポストが炎上し、企業が謝罪しなければいけなくなったのだ。

 アニメイトはわざわざ動画まで制作し、手間をかけて準備したにもかかわらず、結果として謝罪に追い込まれてしまった。エイプリルフールに面白ネタをポストする風潮は、SNSの普及とともに盛んになったが、近年は「炎上のリスクしかない」として、ポストを取りやめる企業が増えているという。

SNS民が面白がるネタを提供しただけ

 あるゲーム会社に勤務するS氏は、脚本家だった経歴を生かし、毎年エイプリルフールのネタを考えてXにポストしてきた。その内容はファンから好評だったそうだが、昨年から投稿を取りやめているという。理由はやはり、炎上を不安視したからだった。

「2010年代のTwitter(現:X)はまだ牧歌的で、ネタを楽しめる雰囲気がありました。ところが、最近はピリピリしているのが見ていてわかるんですよ。うちのポストは結構ファンに人気があったのですが、他の企業のポストが炎上したり、攻撃的なリプが返されたりしているのを見て、これはヤバいと思ったのです。

 上司と話し合い、スッパリと止めました。幸いにも、SNSでは当社がエイプリルフールのポストを止めたことが、まったく話題にもなっていません(笑)。振り返ってみると、今までやっていたことも結局、タダでSNS民が面白がるネタを提供しただけ。当社の宣伝にはそれほど効果がなかったんだなあと、切ない気持ちになりましたが……」

 S氏によると、近年、エイプリルフールは多くの企業が参戦してきているため、「よっぽど面白いネタじゃないと話題にならない」という。ネタを考える側の負担も大きいと思われる。「僕は脚本を書いていたのでネタ作りは好きですけれど、押し付けられて渋々やっている担当者もいそう。ちょっと気の毒ですね」と、S氏は言う。

「エイプリルフールのネタ、本当じゃないんですか!」

 S氏はまた、このような苦悩も打ち明ける。

「一時期から、エイプリルフールに発表した商品や企画が“実は本当でした”と発表する、いわばマーケティングの手法を取り入れる企業が増えました。そうなると、当社のように本気でネタを考えていた企業が、消費者から“どうして御社は(エイプリルフールのネタの)商品を発売しないのか”とお叱りを受け、失望されてしまうんですよ。

 当社のメールフォームにも“発売されると思っていたのに”とか、“期待を裏切られた”という趣旨のクレームが来たことがあるのです。どこから突っ込めばいいのかわかりませんが、本当に発売されていたら、そんなのエイプリルフールじゃないでしょう」

 ネタだと思ったら本当だった――こうした投稿は最初こそ新鮮だが、あまりに追従する企業が増えすぎると、途端に陳腐化してしまう。S氏の詩的に会ったように、要はエンタメではなく、新商品を手っ取り早く宣伝できる場として、エイプリルフールが活用されているのだ。

 企業の公式Xは個人アカウントとは違い、あくまでも宣伝目的で運用されているのだから、新商品の宣伝に使うのは正しいし、問題はない。しかし、ステマっぽい雰囲気をSNS民は総じて好まない。近年、商業主義的な匂いが強まったことも、エイプリルフールのネタが嫌厭され、炎上するようになった原因の一つだろう。

ネタをネタとして楽しめないのは問題

 S氏は古参の2ちゃんねらーであり、mixiやTwitterも開設直後からアカウントを開設するなど、ネット文化を好んできた人である。そんなS氏は、「ネタをネタとして楽しめない雰囲気が、今のネットには蔓延している」と嘆く。

「もはや、企業がエイプリルフールのネタをやることは、リスクでしかありません。というより、XなどのSNSをやること自体がリスクだと思うんですよね。炎上したら一気に権威が失墜してしまいます。

 上場企業だと、Xのポストが株価に影響してしまう事例は発生していますよね。ましてや、当社のような中小企業が炎上騒動を起こすと、下手したら命取りになりかねません。表現の自由を狭めているのは、何か不満があればすぐにクレームを書き込み、炎上に追い込むオタク自身だということに気づいてほしいと思いますね」

 Xでは連日、謝罪が繰り広げられている。SNS民も些細なことに噛みつくのをやめて、ネタをネタとして楽しんでほしいものだ。ネタが楽しめない人が増えてしまうと、ネット文化は衰退してしまいそうだし、当たり障りのないものばかりが蔓延る退屈な空間になってしまいそうである。

ライター・山内貴範

デイリー新潮編集部