「なんと叔母も、親戚の誰も、その女性のことを知らなかったのです」

 周囲が困惑からざわつきながらも、時間となり、棺は炉の中へゆっくりとスライドしていき、参列者一同が合掌します。炉が閉まった後に顔を上げ、再び辺りを見回すと、その時には既にその女性の姿はどこにもありませんでした。

◆小声でつぶやいて去っていった

 結局、いったい叔父とはどういった関係だったのかは分からずじまいでした。もちろん、精進落としの席でもその話題でもちきりだったそうです。

「謎の女性の隣に立っていた甥っ子の話によると、その女性は涙混じりの小声で『〇〇さん、ありがとう。本当に今までありがとう』と言って、足早に立ち去ったとのことでした」

◆女性関係が派手だった叔父の最後の一騒動

 親戚の間では、きっと親しい仲だったに違いないと様々な憶測が飛び交いました。

 叔父は女性関係も派手で、叔母さんもそれでだいぶ苦労してきたそうです。これで最後だという安堵と、最後の最後まで振り回された叔母の複雑な面持ちが今も頭から離れないそうです。

「でも、叔父らしいといえば叔父らしいですけどね。私はそんな叔父のことが今でも大好きです」

 睦美さんはそう話を締めくくりました。

<文/浅川玲奈>

【浅川玲奈】
平安京で生まれ江戸で育ったアラサー文学少女、と自分で言ってしまう婚活マニア。最近の日課は近所の雑貨店で買ってきたサボテンの観察。シアワセになりたいがクチぐせ。