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中東情勢の緊迫化に伴い、原油価格が1バレル=100ドルの大台を突破。さらにフィリピン・ペソが対ドルで60ペソ台まで下落するという「ダブルショック」が、新興国市場を揺らしています。かつて「アジアの優等生」と呼ばれたフィリピンですが、この未曾有のコスト高騰に対し、企業の明暗は驚くほど鮮明に分かれています。一般社団法人フィリピン・アセットコンサルティングのエグゼクティブディレクター・家村均氏が、激変するフィリピン株式市場の「勝ち組」と「負け組」を解説します。

地政学リスクが招くフィリピン経済の構造変化

中東における軍事衝突の激化、そしてホルムズ海峡の封鎖という最悪のシナリオが現実味を帯びる中、国際原油価格は1バレル=100ドルの大台を突破しました。これに呼応するようにフィリピン・ペソは対ドルで60〜61ペソ台まで急激な減価が進んでいます。

この「原油高・ペソ安」というダブルショックは、フィリピン経済全体にとって看過できない打撃となっています。しかし、その影響は決して一様ではありません。各企業のビジネスモデルやコスト構造によって、市場の明暗は鮮明に分かれています。AB Capital証券による最新の分析を軸に、変動する市場の勢力図を読み解いていきます。

エネルギー・電力セクター:構造的な「追い風」を味方に

マクロ環境の激変において、最も直接的な恩恵を享受するのはエネルギーおよび電力関連企業です。石炭最大手のセミララ・マイニング(SCC)は、世界的な石炭価格の上昇を背景に強力な価格転嫁力を発揮しており、EPS(1株当たり利益)は最大で15%程度押し上げられると試算されています。また、原油価格上昇に伴う精製マージンの拡大が直接的な収益増に直結する石油元売りのペトロン(PCOR)は、今回の局面で+20%という全セクター中最大の増益効果を得る見通しです。

これらの企業は収益構造がドルに連動しているため、進行するペソ安も外貨換算上のプラス要因として働きます。さらに、マニラ・エレクトリック(MER)やアボイティス・パワー(AP)といった電力株も、卸電力市場(WESM)における価格上昇や、燃料コストを電気料金に反映させるパススルーモデルによって、収益性を堅守できる強固な構造を有しています。

通信・食品:ボラティリティを凌ぐ「ディフェンシブの壁」

PLDT(TEL)やグローブ・テレコム(GLO)に代表される通信大手は、生活インフラとしての安定した需要と強固なプライシング・パワーを武器に、収益への直接的影響を最小限(+1%未満)に食い止める見込みです。ただし、これらの企業は設備投資に伴うドル建て債務を抱えているケースが多く、ペソ安に伴う為替差損や財務コストの増大が、将来的な懸念材料として残ります。

一方、食品大手のセンチュリー・パシフィック・フード(CNPF)は、好調な輸出収益と戦略的なドルヘッジ施策が功を奏し、0〜2%程度の微増益が期待できる状況です。不確実性が極めて高い現在の相場環境において、これら「レジリエント(強靭)」と評される銘柄群は、投資ポートフォリオの安定性を保つための「緩衝材」として機能します。

試される耐性:マクロ環境に翻弄される中間層と内需セクター

勝者と敗者のいずれにも分類し難い「Mixed / Macro‐Dependent(マクロ依存・混在型)」セクターは、複雑な収益構造を持っています。このグループの企業は、ポジティブな要因とネガティブな要因が激しく拮抗しており、最終的な業績は今後のマクロ情勢の推移に強く依存することになります。

たとえば、国際港湾運営を担うICTグループ(ICT)は、世界的なドル建て収益が収益の底上げに寄与する一方で、景気減速に伴う貿易量の停滞が成長の足かせとなります。銀行セクターのBDOやBPIも同様です。金利上昇局面における貸出利ざや(NIM)の拡大という恩恵を受ける反面、急激な物価高による信用リスクの高まりや、不良債権比率の上昇という潜在的なリスクを同時に抱え込んでいます。結果としてEPSへの影響はほぼ中立(ゼロ)と試算されており、文字通り「勝ちも負けもしない」均衡状態にあります。

また、フィリピン最大の財閥系小売・不動産複合体であるSMインベストメンツ(SM)は、多角化された事業ポートフォリオがリスク分散に寄与するものの、インフレによる消費者マインドの冷え込みが国内小売事業を直撃するリスクが高まっています。EPSは▲1%〜▲3%の小幅な悪化が見込まれており、決して「安全圏」とは断言できない状況です。投資家には、各企業の収益におけるドル比率や、バランスシート上の負債構造をこれまで以上に緻密に精査する姿勢が求められます。

消費関連企業:物価高騰が招く「静かなる危機」

対照的に、国内の内需と消費に深く依存する企業群は、極めて厳しい局面を強いられています。大手食品メーカーのユニバーサル・ロビーナ(URC)は、原材料コストや物流費の全般的な上昇に晒され、▲3%〜▲5%の減益が予想されます。

さらに深刻なのは外食大手のジョリビー・フーズ(JFC)で、食材価格の高騰に加え、可処分所得の減少による外食需要の減退という「ダブルパンチ」に見舞われ、▲5%〜▲8%の大幅な利益圧迫が懸念されます。ファッション小売のSSIグループ(SSI)や、大手小売のロビンソンズ・リテール(RRHI)も、▲4〜▲9%という無視できないダメージを被る見通しです。

最大の打撃…不動産セクターと過剰債務の「三重苦」

本分析において「Worst Hit(最悪の影響)」と断定されているのが、不動産セクターおよびレバレッジ比率の高い企業群です。大手ディベロッパーのSMプライム(SMPH)やアヤラランド(ALI)は、金利上昇によるローン需要の減退、資材コストの上昇、そしてペソ安によるドル建て債務の支払い負担増という「三重苦」に直面しており、EPSはそれぞれ▲8%〜▲12%、▲7%〜▲10%という大幅な下落が想定されています。

メガワールド(MEG)にいたっては、膨大なドル建て債務と、インフレの影響を最も受けやすい中間所得層向け事業が主力であることから、▲9%〜▲13%という壊滅的な下押し圧力を受ける予測です。さらに、巨大コングロマリット(財閥)のアヤラ(AC)、アライアンス・グローバル(AGI)、JGサミット(JGS)も、事業の多角化がかえって裏目に出る形で、▲3%〜▲6%の複合的な業績悪化を免れないでしょう。