原油高で日本を待ち受ける「悪夢のシナリオ」とは? 「100円ショップの商品はほとんどすべて…」
わが国の生命線である「ホルムズ海峡」が封鎖されて1カ月がたつ。原油の約9割をペルシャ湾からの輸入に頼る日本にとっては、まさに死活問題である。さらに、政府は何が起こるか予想のつかない中で、虎の子である石油備蓄を放出。ガソリン価格を1リットル170円に抑える補助金を支出している。こんな愚策を続けたら本当の危機がやって来る。そう警鐘を鳴らすのは、石油流通システムに詳しい小嶌(こじま)正稔氏(桃山学院大学経営学部教授)である。
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これまでホルムズ海峡は、一度たりとも長期的に封鎖されたことはありませんでした。1980年から8年間続いた「イラン・イラク戦争」でも、400隻以上の船が被害を受けて保険料が高騰しましたが、完全には封鎖されなかったのです。

今回、ホルムズ海峡の封鎖が1〜2カ月間続いたとしても、日本では政府と民間が備蓄している石油で、数量的には不安なく国内へ供給されると思います。
すでに政府は、約250日分(約8カ月分)あった国と民間の石油備蓄を放出し始めました。過去に最も多く備蓄が放出されたのは東日本大震災での25日分でしたが、もしホルムズ海峡の封鎖が通算で4カ月を超える事態になると、備蓄量が半分を切ることになります。
そうなれば、石油の生産調整にとどまらず不要不急の外出に自粛を促すなど、需要を適切に制限するような事態になりかねません。私たちの生活の広範囲に影響を及ぼすことになります。
ところが、日本政府は補助金を出してガソリン価格を一定額に抑えようとしています。財源不足となれば円安を加速させてしまう制度的な問題も大きいのですが、懸念されるのは消費者に対して石油の消費を抑制させない方向で動いていること。ゆくゆくは大きな問題になってしまうでしょう。
100円ショップのほとんどの商品が影響を受ける
そもそも原油は精製される過程でさまざまな製品に変化しますが、私たちの生活に不可欠な三つの重要な役割を担っています。
一つ目は「ガソリン」に代表される自動車や船舶、航空機を動かす燃料としての役割。二つ目は暖房器具やボイラーなどに欠かせない「灯油」や「重油」などに代表される温める役割。三つ目は「ナフサ」といって、プラスチックやエチレン、プロピレンなど、さまざまな工業製品の原材料としての役割です。
実際、日常生活を見渡せば、ビニール袋から食料品の容器、パソコン、自動車の部品などに至るまで、われわれはプラスチックだらけの中で生活しているようなものです。こうした製品の原料が十分に調達できなくなれば、たちまち私たちの暮らしは立ち行かなくなる。例えば100円ショップにある商品のほとんどが、影響を受けると言っても過言ではありません。
それなのに、政府はイラン危機の先行きが見通せない中、補助金でガソリンの使用を促し、石油備蓄を放出しているわけです。
悪夢のシナリオ
ナフサだって代わりの利かないものですし、前述したように産業を支える上で重要な役割を担っています。本来なら万が一のためにガソリンの消費を抑えて、その分の石油備蓄をナフサに回すという政策を取ってもいいはずです。
しかも原油から精製されるガソリンはほぼ100%国産ですが、ナフサは6割を輸入に頼ってきました。海外で作った方が安価だったからです。
ナフサは輸入元として中東への依存度が高く、約5割がUAEやクウェート、カタールなどのアラブ諸国で、他に韓国やインドからも輸入しています。今や後者の二国も原油の供給量が足りていない状況では、“どうして日本に輸出しなくてはいけないのだ”と間違いなく断られてしまうでしょう。
他国から調達するにしても価格上昇は避けられません。そうなれば製品の価格に転嫁されて物価も上がる。まさに八方塞がりです。
このままでは、73年の第1次オイルショック時に生じた「狂乱物価」が日本の高度経済成長を終わらせたように、再び“悪夢のシナリオ”が現実味を帯びてくると思います。
小嶌正稔 桃山学院大学経営学部教授
「週刊新潮」2026年4月2日号 掲載
