日本バスケは「トムさん」の遺産をどう生かすか HC電撃交代、別れは突然…苦楽を共にした常連組2人の想い
退任の知らせを聞いた瞬間の「驚き」と「感謝」
FIBAワールドカップ2027のアジア地区予選Window2に向け、直前合宿を行うバスケットボール日本代表が2月18日、沖縄サントリーアリーナで公開練習を行った。この日は桶谷大新ヘッドコーチ(HC)が就任後、初の練習日。招集された16人の選手たちは、新たなスタッフ陣とコミュニケーションを取りながら汗を流した。程よい緊張感と和やかさが共存した雰囲気ではあったが、前HCのトム・ホーバス氏が突然の退任となっただけに、苦楽を共にしてきた常連組の心中は気になるところだ。取材に応じた西田優大と馬場雄大の言葉には、「トムさん」への敬意と、残した遺産を未来に引き継いでいく決意がにじんだ。
「驚きました」。ともにホーバス体制を長く経験してきた2人は、退任の知らせを受けた瞬間の心境を異口同音に振り返った。
それも当然だろう。2021年9月にスタートしたホーバスジャパンは2023年のFIBAワールドカップで48年ぶりに自力でオリンピック出場権を獲得し、パリ五輪では準優勝国のフランスをあと一歩のところまで追い詰めた。昨夏のFIBAアジアカップ2025こそ準々決勝進出決定戦で敗退したが、昨年11〜12月に行われたアジア地区予選Window1のチャイニーズ・タイペイ戦で2連勝し、次回ワールドカップにつながる予選を良い形でスタートさせていた。
西田はチャイニーズ・タイペイ戦の結果に触れた上で、「まさかこのタイミングで終わるとは思っていませんでした。トムさん自身から連絡がありましたけど、すごくびっくりしました」と述べ、突然の別れに驚きを隠さない。
自身は学生の頃からA代表の合宿に招集されていたが、公式戦デビューはホーバス体制になってから。「フル代表はトムさんに選んでもらった身。ここで成長させてもらいました。本当に、トムさんには感謝しかないです」。端的な言葉に、共に過ごした4年超の濃度の高さがうかがえた。
馬場もまた、ホーバス氏の指揮について、日本バスケットボール協会(JBA)が当初は「2028年のロサンゼルス五輪までを視野に」と説明していた経緯を念頭に、「驚きました」と率直に語った。
一方で昨年9月、会長に島田慎二氏(Bリーグコミッショナー)、強化委員長に伊藤拓摩氏(長崎ヴェルカGM)が就任してJBAが体制変更したことに触れ、「(HCの交代も)ありえるかなって想像はしていた」とも述べ、現実を受け止める視線も持ち合わせる。
感情の揺れと冷静さの先にあったのは、西田と同じく感謝の思いだった。
退任発表の前に本人と電話で話し、「バスケの世界ではこういう形で離れ離れになるけど、今まで培ってきた経験はお互い一生忘れることはない。バスケ抜きにしても友達だし、何かあったら連絡して」と言葉を交わしたという。その上で、馬場は「僕は、感謝の意を述べました」と続け、柔らかい笑みを浮かべた。
ホーバス体制の遺産をどう生かすか
桶谷HCが、選手に対して「トムさんのバスケットからいい部分を引き継ぎ、個の良さを出しながらチームとしてまとまっていこうという話をしました」と言ったように、ホーバス体制の遺産をどう次に生かしていくかは重要なポイントだ。スペース&ペース、積極的なペイントアタックと3ポイントシュート、アグレッシブなディフェンスなど、全体のサイズが小さい日本が世界と戦う上では欠かせない要素は多い。
西田と馬場も、今後に生かすべきポイントははっきりしている。
西田が強調したのは「役割の明確さ」だ。シューターやハンドラー、ディフェンダーなど、主たる役割が時々で変わっても順応し、与えられた仕事に応えることで代表における居場所を築いてきた。「役割が明確なのはトムさんの良かったところ。そこを理解した上で、淡々と忠実にやってきました」と成長の糧にし、新体制でも「求められたことに応えたいです」と意気込む。
桶谷体制では「ポジションレス」という言葉も聞かれ、各々が担う役割の幅が広がると見られるが、西田の引き出しの多さがあれば十分に存在感を発揮できるはずだ。
一方、馬場はホーバス氏について「日本のバスケは世界で戦えることを証明してくれた監督」と評する。国際舞台で得た自信は、体制が変わっても揺らぐことはない。「彼とやってきたことに自信を持ち、それが、さらなる飛躍の土台になったらいいなと思っています」と次のステージを見据える。
16チームを4グループに分けてリーグ戦を行うFIBAワールドカップ2027アジア地区1次予選において、現在日本はグループBで2勝0敗の首位。勝敗数は2位の韓国と並ぶ。沖縄サントリーアリーナで2月26日に3位の中国、3月1日に韓国と対戦するが、7月には両国とアウェーで試合をするため、今回のホーム2連戦は是が非でも白星が欲しいところだ。1次予選の戦績は2次予選に持ち越されるため、なおさら重要度は高い。
体が強い中国と韓国の選手に対して、西田は「フィジカルで負けちゃいけない。FIBAの笛にアジャストしながら、自分から当たりに行きたいです」と気合を入れる。馬場は長崎ヴェルカのチームメートであり、韓国代表のエースでもあるイ・ヒョンジュンに対するディフェンスについて「自分が守れないんだったら、負けるくらいの思いでやっていきたい」と強い気持ちで挑む。
桶谷HCの下で再始動したアカツキジャパン。これまでの積み重ねを途切れさせることなく、さらなる進化につなげるためには、西田や馬場らホーバス体制の継承者が担う役割は大きいだろう。
(長嶺 真輝 / Maki Nagamine)
