大田 京セラでもそうですし、JALやMTGでもそうですが、どんな会社であっても、いつまでも順風満帆なことはなく、必ずいつか大きな壁にぶつかることがある。そのときに落ち込んで低迷してしまう会社もあれば、それをバネにして更に成長する会社もある、と伝えました。

 京セラも創業25周年のときに、薬事法の問題を起こして行政処分を受けたことがありました。そのときに稲盛さんは京都府八幡市にある達磨堂圓福寺のご老師に相談に行きました。

 そこでご老師からは「人生は因果応報。善因善果・悪因悪果である」という人生の決まり事を教えていただいた。それから稲盛さんは「更に善きことに努め始めた」と言っていました。

 ですから我々も今回の件を真摯に反省しつつ、善きことに努め、経営を更に進化させていかなければなりません。そういったメッセージを流しました。もともと素晴らしい社員ばかりです。

 面談してみるとダイヤモンドの原石のような人たちばかりです。ですから「皆さんは磨けばもっと輝きます。共に頑張りましょう」と伝えました。

 ─ とかく人間は失敗を他人や外部の責任にしたがります。

 大田 私もそう思います。だからこそ、天命を感じ、それに従うことが大事なのです。稲盛さんも、不条理と思えるような困難に直面することがあっても、それで天を恨んだり、人を憎んだりしてはダメだ。

 それを乗り越えて、人を大事にする、愛することが大切だと説いていました。その一例がJALの会長になったときでした。

 ─ 当時の稲盛さんは78歳という高齢でしたね。

 大田 ええ。まもなく79歳になる頃でした。しかし、JALの再建を天命だとして受け入れて、JALの社員たちのために命を捧げる覚悟を示されたのです。実際に、老骨にムチ打って現場を回り、社員に声をかけていました。

 私は稲盛さんの生きざまは、まさに「敬天愛人(天を敬い、人を愛すること)」だと思うのです。ただこれは言葉にするのは簡単ですが、実際に行動するのは非常に難しい。しかし、リーダーはそれをやらなければなりません。それが私の信じてきた生き方でもあります。



 投資がマーケティングに 偏重していた反省を生かして

 ─ 小林製薬の強みは、どのような点だと考えますか。

 大田 良さはたくさんあります。その中でも当社の強みは、やはり新しい製品を生み出したいという社員の熱い思いです。これは凄く強いと感じます。

 ─ それは商品開発力があるということですか。

 大田 はい。それともう1つはマーケティング力です。ただし、この5~6年で投資がマーケティングにやや偏重し、予防的な品質管理業務や製造現場の保守・維持管理のための設備更新等への投資は少し後回しになっていました。

 製造業の経営は製造も営業も強くなければなりません。営業だけを強化すれば、製造が疎かになってしまいますし、製造だけが強くなっても売る力がなかったら製品は売れません。

 バランスが大事なのです。そのバランスが悪くなってしまっていたので、これからは製造と営業への投資をバランス良くし、両方に力を入れないといけません。

 ─ そこが紅麹問題の教訓ということになりますか。

 大田 そうですね。そして大事なのは社員全員が自分で考えるということです。事実検証委員会の報告書でも「当事者意識に欠けていることは重大な問題だ」と指摘されています。その意味では、危機意識が少し希薄だったのではないかと。

 品質問題では、いくらたくさんのルールを作っても、現場に当事者意識、さらに言えば、経営者意識がなければ機能しません。少なくとも課長レベルになったら強い経営者意識を持ち、問題が見つかれば自ら率先して提起をする。そういった緊迫感が現場に少なかったという反省があります。