畜産業、特に牛肉の生産は多くの温室効果ガスを排出してしまうため、食肉の消費を控える人が増えていますが、人はバランスのいい食事で十分な栄養を摂取しないと健康を維持できません。イギリス・オックスフォード大学で食の未来の研究に取り組んでいるマルコ・スプリングマン教授が栄養素、環境への配慮、コストの3つの観点から肉の代替品として最も優れた食材を分析しました。

A multicriteria analysis of meat and milk alternatives from nutritional, health, environmental, and cost perspectives | PNAS

https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2319010121

The best and worst meat replacements for your health, your wallet and the planet - new research

https://theconversation.com/the-best-and-worst-meat-replacements-for-your-health-your-wallet-and-the-planet-new-research-245089

スプリングマン氏は2024年12月2日にアメリカ科学アカデミー紀要(PNAS)で発表した今回の研究で、肉類や乳製品、大豆やテンペ、代替肉など合わせて24種類の食品が健康や環境にもたらす影響とコストを定量化して比較しました。

◆研究方法

まず栄養素は6つの主要な栄養(カロリー・タンパク質・脂肪・炭水化物・糖分・繊維)、5つの脂質(飽和脂肪・一価不飽和脂肪酸・多価不飽和脂肪酸・トランス脂肪・コレステロール)、9つのミネラル(カルシウム・鉄・ヘム鉄・マグネシウム・リンもしくはフィチン酸・カリウム・ナトリウム・亜鉛・銅)、9つのビタミン(ビタミンC・チアミン・リボフラビン・ナイアシン・パントテン酸・ビタミンB6・葉酸・ビタミンB12・ビタミンA)の合計29種類で評価しました。

多価不飽和脂肪酸・繊維・カリウムの摂取量が多いことや、コレステロール・ナトリウム・ヘム鉄の摂取量が少ないことは慢性疾患の発症率や死亡リスクと密接に関係するため、これらの成分が健康にもたらす影響も分析対象になっているとのこと。



環境への影響については、温室効果ガス排出量、土地利用、水の利用に関するライフサイクルアセスメントで評価しました。

また、コストはイギリスのオンラインスーパーでの販売価格と国際的な市場価格を組み合わせ、経済協力開発機構(OECD)が発表している消費者物価指数(CPI)や購買力平価(PPP)などで調整して算出しました。

◆豆類が圧勝

分析結果は以下のとおり。左から総合評価、健康評価、環境評価、コスト評価を表しています。まず大豆(soybeans)やエンドウ豆(peas)、その他の豆類(beans)といった伝統的な未加工の植物性食品は100点満点中93〜97点を獲得して他の食材を圧倒し、ほぼあらゆる面で最も優秀なパフォーマンスを示しました。



スプリングマン氏によると、特に大豆は栄養価とコストで、エンドウ豆は死亡リスクと温室効果ガス排出量を低減させる効果でそれぞれ最高の食材だったとのこと。

スプリングマン氏は、豆類を積極的に食事に採り入れる方法として、豆をふんだんに使ったチリコンカーンやひよこ豆のカレー、テンペの炒め物を作ったり、煮てから軽くつぶしたエンドウ豆を黒パンにのせて食べたりすることを提案しました。



◆2位は植物ベースの加工食品

豆に次いで好成績だったのがベジバーガーや植物性ミルクといった加工済みの植物性食品で、肉や乳製品の代わりを探している人にとっては有用な選択肢でした。

ただし、温室効果ガスの排出量削減効果や健康への貢献度は、加工されていない豆類に比べて5分の1から3分の1で、コストは従来の食材に比べて10%増と、味や料理での使い勝手などの点で取り入れやすい分、若干の代償が伴いました。

具体的には、テンペは100点満点中82点、ベジバーガーとベジソーセージはそれぞれ74点と70点、豆腐は62点、ベジベーコンは46点でした。



◆ビリは培養肉

大方の予想通り鶏肉、豚肉、加工肉などの肉類は46〜59点と評価が低めで、特に牛肉は13点と健康への影響、温室効果ガスの排出量、土地利用、水利用の項目でパフォーマンスが最低でした。

そして、本物の動物の肉よりもさらに評価が厳しいのが、動物の細胞を培養して生産する培養肉です。



まだ市場にほとんど出回っていないので上記の分析には含まれませんでしたが、スプリングマン氏によると現行技術で生産する培養肉の温室効果ガス排出量はビーフバーガーと同程度で、生産コストはなんと4万倍にもなるとのこと。牛肉を培養すると栄養価も牛肉と同様になるので、健康面でも課題があります。

生産工程がもっと効率的になれば、コストと温室効果ガスの排出量が減少する可能性がありますが、それには多大な投資と技術の進歩が必要になると、スプリングマン氏は指摘しました。

2023年に発表された別の研究でも、同様の結果が得られています。

実験室で育てる「培養肉」は本物の牛肉の最大25倍も環境に悪いことが判明、安価かつ低エネルギーで培養する技術に課題 - GIGAZINE



◆まとめ

この研究により、「畑の肉」として重宝されてきた大豆などの豆類が肉の代替品として優れていることが改めて示されましたが、単純に食事中の肉を豆に代えればいいというわけでもありません。

例えば、肉を大豆に置き換えると全体的な栄養価は改善しますが、植物性食品が中心の食事で不足しがちなビタミンB12などの特定の栄養素が不足するおそれがあります。

また、肉や乳製品を一気に特定の食品に置き換えると、それらの食品を生産している地域の農業に負担がかかり、天然資源や生物多様性が損なわれる可能性もあります。

スプリングマン氏は論文に、「食事全体を見ながら代替食品を多様化し、栄養面、環境面、コスト面でバランスを取ることで、特定の食品に過剰に依存する問題に対処できるでしょう」と記しました。