■海外メディアが報じた「Airbnbトラブル」

世界的な旅行需要の回復に伴って、海外で長期休暇を楽しむ機運も高まってきている。

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宿泊費をホテルよりも安価に済ませ、その分アクティビティーに回したいという人々には、Airbnbが人気だ。Airbnbは、世界展開するアメリカ発の民泊仲介サービス。サイトやアプリからの予約により、現地の人々が所有する空き家に有償で宿泊したり、ホスト宅の一室で寝泊まりしたりすることができる。

だが、世間が旅行再開へ動き出している今年、Airbnbの物件(「リスティング」と呼ばれる)のオーナーたちの状況は厳しい。コロナとは別の問題も絡みゲストが戻らず、稼働率80%だったリスティングの予約がゼロになる悲惨な例まで報じられている。

背景にはホスト間の過当競争に加え、家主独特のルールが多すぎるなど、ホテルと比べた利便性の悪さを嘆くゲスト側の不満があるようだ。

■女性宅に男が無断でチェックインを試みる

リスティングが存在する地域の住民からも、困惑の声が上がる。米シアトル・タイムズ紙は10月、ノースカロライナ州で起きた信じられないような一件を報じている。ゲストがわが家に勝手にチェックインしようとしていたという事件だ。

住民女性はこの土地に家を買ったばかりで、初めてのマイホームとあって気分も高まっていた。ところが外出から戻った彼女が見たのは、彼女の玄関先に大きな荷物を下ろし、邸内に入ろうとしている男性の姿だった。

男は彼女の家の中のAirbnbを予約したと主張し、悪びれる様子もなくチェックインの方法を聞いてきたという。だがもちろん、家主である彼女には、Airbnbのリスティングを運営している覚えなどない。住所が間違っていると確信した彼女だったが、男性がAirbnbのアプリを提示すると、そこにはチェックイン先として紛れもなく彼女の自宅住所が示されていた。

出所=Airbnbホームページ

後日調べてわかったことだがこの物件では、彼女が購入する前からしばしばトラブルがあったようだ。以前は貸家だったが借り主の態度が好ましくなく、家主に無断でAirbnbに登録して転貸することがあったという。

■英紙「Airbnbが村を台無しにした」

この住人はすでに退去したが、Airbnb上でリスティング登録を削除しなかったため、依然として新規ゲストの予約を受け入れる状態となっていた。チェックインに訪れた男性としては何の悪意もなく、予約したはずの宿を訪れただけだったというわけだ。

だが、女性にとっては身の危険すら感じかねない、寝耳に水の出来事だ。かなり特殊な例ではあるが、一般の住宅やその一部の部屋を他人に貸し出すビジネスならではの厄介事となった。

トラブルは後を絶たない。英テレグラフ紙は11月、「Airbnbが村を台無しに」との記事を掲載している。記事で問題となっているのは、イギリス南西部はコーンウォールに位置するブラウントンという魅力的な田舎町だ。

人口7000人ほどの小さな町であり、「イングランド最大の村」としても知られる。愛らしい町並みを楽しみビーチで憩いのひとときを過ごそうと、町を訪れる観光客も決して少なくはない。

のどかだった町だが、Airbnbが急速に浸透したことで異変を来した。記事によると周辺地域では、1600ポンド(約27万円)を稼げる見込みとなっている。少なくともAirbnbが提供する収益予測ツールでは、そのように表示されるという。

■4軒に1軒が貸し出されている地域も…

田舎町の貴重な収益源とあって、ホストに登録する家主が相次いだ。いまでは人口7000人(世帯数換算ではさらに少ない)ほどの同町において、1000件以上のリスティングが登録されている。イギリスのほかの地域に目を向ければ、たとえば北部スコットランドのセントアンドリューズでは、町の4軒に1軒がAirbnbの物件として貸し出されている。

写真=iStock.com/Orietta Gaspari
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レンタル用の物件が増えるにつれ、本来の住民が住処を探すことが難しくなっている。自閉症を抱えた6歳の息子と共に町に住むある女性は2021年の夏、それまで借りていた物件の大家側の都合により、退去を余儀なくされた。しかし、Airbnbのリスティングに占拠された町において、引っ越し先を探すのは絶望的だったようだ。

「彼(息子)を学校に送り届けた帰り道、私は泣き出してしまいました。自分が故郷だと思っていた場所で、住む場所がどこにも見つからない。それが胸を締め付けたのです」

旅先で手軽に宿を見つけられることは喜ばしいことだ。だが、訪れる先の地域によっては、その宿は根っからの住民が本来住みたかった家なのかもしれない。そのような現実を知ると、旅行者としても心情は複雑だ。

■頭を抱える民泊オーナーたちが続々

急拡大するリスティング数だが、反面、ホスト登録したオーナーのすべてがばら色の生活を送っているわけではない。昨今はむしろその逆であり、集客に頭を抱えるオーナーが目立つようになった。

豪ニュースサイトの「news.com.au」は、「『予約がまったくない』:Airbnbのホストがパニックに」との記事を掲載している。

記事によるとFacebookの非公開グループ内で、予約の急減に青ざめるホストの書き込みが増加しているのだという。米カリフォルニア州パームスプリングスにリスティングを構えるあるホストは、次のように窮状を訴える。

「ここ3〜4カ月で予約が大幅に落ち込んだという人はいませんか? 私たちの場合、最低でも50%を超える稼働率があったところ、ここ2カ月は文字通りゼロになりました」

パームスプリングスは砂漠部に広がるリゾートの街として知られ、歴史をひもとけば温泉をきっかけに栄えてきた。現在ではゴルフや水泳などのレクリエーションを目的に多くの旅行客が訪れる。そのパームスプリングスで予約急減となれば、相当の異常事態と言っていいだろう。

■稼働率80%からゼロに、ホテル回帰の動きも

米ダウ・ジョーンズが提供するニュース情報サービスのマーケットウオッチは10月、稼働率80%から0%に転落したという米コロラド州デンバーのホストの例を報じている。

ホスト男性はリスティングで大金を稼ぐことを夢見てAirbnbを始め、これまでに約6万ドル(約880万円)の収入を得た。しかし10月時点で今年11月の予約数はゼロという状況で、男性は頭を抱えている。デンバーがスキー客でにぎわうはずの12月から来年1月でさえ、文字通りまったく予約が入らない状況だという。

困惑するホストたちに対し、厳しい意見も聞かれる。豪ニュースサイトnews.com.auは、空室率の急上昇に心を痛めるホストらに対し、次のようなネット上の反応を取り上げている。

「ホテルにはコンシェルジュ、ハウスキーパー、屋上スペース、バー、レストラン、警備員、プール、タクシー乗り場があり、常連になれば部屋のアップグレードも受けられる。けれど率直に言ってAirbnbは、隠しカメラ、清掃料、差別的なホストが存在し、また、ゴミ出し、シーツ類の取り外し、退去前の風呂掃除を要求される」

写真=iStock.com/davit85
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すべてのリスティングでこのような条件を定めているわけではないが、ホテルと比較してどうしても煩雑なルールが存在しがちだ。

ホテルと比較して料金面での優位性が消えつつある。宿泊料とは別に清掃料金を払わされたり、退去時に掃除を課されたりするとなると、敬遠しがちなゲストが増えているのにもうなずける。

■ホスト間で客の「奪い合い」が起きている

予約急減がこれらのホストだけの現象であれば、ホスト自身に悪いレビューが付いたなどの固有の問題が原因と考えられる。だが、稼働率の急減に直面しているのは決して一部のホストだけではない。

米インサイダー誌は今年5月時点ですでに、夏に向けて予約数の急下降が見込まれており、多くのホストたちがパニックになっていると報じている。

稼働率の急減は、必ずしもパンデミックのせいだとも言い切れないようだ。米フロリダ州にリスティングを構えるある男性は、インサイダー誌に対し、2021年の収益はパンデミック前よりも25%増の好調だったと語っている。その男性さえ、今年は大幅な減収を見込んでいる状況だ。

旅行需要が完全には回復していないことに加え、ガソリンの高騰で旅行を避けている世帯が多いことが響いているのだという。さらに致命的なことに、高騰する自宅の光熱費を少しでもカバーしようとホストを始める家庭が増えたため、同地域内にあるホスト間の競争が激化することとなった。

同誌は「新しくできた大量のバケーションレンタルがゲストを奪い合っている」と指摘する。競争力確保のためには宿泊料を引き下げざるを得ないが、そうすると高騰する光熱費が重くのしかかる。収益性は悪化する一方だ。

自宅の空き部屋を貸しているホストならダメージは少ないが、投資用に物件を取得したオーナーにとっては深刻な問題だ。住宅ローンを組んでまでAirbnb用の物件を購入したという米アリゾナ州の50代男性は、news.com.auに対し、「本当に胃が痛いです」と語る。春時点の予測として、4月も5月もおそらくは赤字になる見込みだと語っている。

写真=iStock.com/FG Trade
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■リスティングが家賃高騰の引き金に

懐事情を心配しているのは、ホストだけではない。記事によるとオーストラリアには100万戸以上の空き家が存在するが、家賃は地域によっては1年間で20%も上昇している。家賃の高騰は、地域住民にとって切実な問題だ。この上昇傾向の一因として、Airbnbのリスティング数の増加が関与しているのではないかとの指摘が聞かれるようになった。

家賃高騰を解消すべく、厳しい規制を導入している自治体もある。ニューヨーク市はAirbnbのリスティングに対して全米でも有数の厳格な制限を設けていることで知られる。Airbnbを家賃高騰の原因とにらむ市は、対立姿勢を強めている。ニューヨーク・ポスト紙によると市は来年1月から、さらに規制を強化する。

新たな規制の下では物件全体を貸し出すことが禁じられるだけでなく、ゲストの部屋に錠を設けることができなくなる。したがって、Airbnbに宿泊するゲストの立場からすると、見知らぬ家主と同一の家やマンションに寝泊まりし、プライバシーのための施錠も不可という条件となる。旅の疲れを癒やすべき宿泊施設として、ゲストが心からくつろげる環境になっているかは疑問だ。

■Airbnbを選ぶ価値は薄れつつある

日本では2018年6月に民泊新法が施行され、グレーゾーンだった民泊ビジネスがひととき盛り上がりの気配を見せた。東京オリンピックでの来日が見込まれた大量の海外ゲストの受け皿としても期待されたが、ふたを開けてみれば五輪は無観客となり、利用は想定ほど進んでいない。

民泊新法では年間の営業日数に180日の上限が課され、オーナーにとって収益性に限界が出ている。必然的に1泊あたりの宿泊料を上げざるを得ず、安価な宿泊が売りだったAirbnbの利点は、ビジネスホテルの存在を前に消えつつある。

海外でも指摘されているように、あえてAirbnbを選ぶ価値は薄れつつある。ホテルであれば常に信頼のおけるフロントデスクが存在し、チェックインできないトラブルに巻き込まれたり、アプリ経由で面倒なメッセージのやり取りを迫られたりする不便もない。

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住宅地にあるリスティングは近隣の騒音源となることもしばしばあり、ゲストとしてもあえて選択する動機は少ないだろう。もちろん豪華な邸宅の貸し切りなどグループ旅行に意義を発揮するケースもあるが、登録されているリスティングの多くがそのような個性ある宿というわけではない。

空き部屋や空き物件の活用というコンセプトでスタートしたAirbnbだが、数々のトラブルを前に、優位性の再確認が求められる厳しい局面に立たされている。

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青葉 やまと(あおば・やまと)
フリーライター・翻訳者
1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。
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(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)