『雨を告げる漂流団地』監督が作品に込めた「これまでの仕事の総決算」
奇想とリアリティが入り混じった異色のファンタジーを見事に成立させたのは、同スタジオで『ペンギン・ハイウェイ』(2018)を手がけた石田祐康監督。今回初となる完全オリジナル作品はいかにして生み出されたのか、本編完成直後のインタビューをお届けしよう。
▲初のオリジナル長編作品を手がけた石田祐康監督――本作は初めてのオリジナル長編となりますが、現在どんな手応えを感じておられますか。
石田 正直なところを言うと完パケしたばかりで、まだ冷静には捉えられないです。でも強いて言えば、作業の最後に通しで観た時、映像的なところは『ペンギン・ハイウェイ』の時よりもひとつ手応えはありましたかね。自分自身の技術の向上、会社の体制も含めて、前よりももう少し持ち上げられたか……と思います。
ただオリジナルだからこそ問われる内容に関しては、まだ分からないですね(苦笑)。技術は自分でもまだまだと思いますが、自分なりに、時間をじっくりかけて気持ちを込めて取り組んだという感じです。
それこそ『ペンギン・ハイウェイ』公開の翌年(2019年)から始めた企画で、団地が漂流するというネタは早くに決まったんですが、そこからの物語――航祐と夏芽の存在をどう描いていくか、という点に関しては、自分も周りも初めて尽くしな上にコロナ禍もありましたので、いろんな不安の中で作りましたから。
――では、観客の反応が楽しみであり、不安でもあるという感じですね。
石田 そうですね、まさに手応え半分不安半分です。
――今回の企画は、どういう形で決まっていったのですか。
石田 山本幸治プロデューサーからはかなり前から「オリジナル作品をやろう」と言われていたんですが、『ペンギン・ハイウェイ』の時はまだ早かったですし、自分が原作に惚れ込んでいたので、それを進めたわけです。
で、今回もオリジナルという話になりまして、ツインエンジンに持ち込まれた企画を提示されたりしたんですが、何か僕からも出さなきゃいけなくなった時にふと思いついて描いたのが海上を団地が漂流している絵だったんですね。そのイメージボードを提出したら、「これ、何かありそうだからこのまま進めたらいいんじゃ?」と言われて……決まりました(笑)。そこから登場人物やストーリーを決めていきました。

(C)コロリド・ツインエンジンパートナーズ
――今回、団地に焦点を当てたのは、どういう理由から?
石田 団地には以前から思い入れがあったんです。というのも、自分が住んでいたのは平屋の日本家屋だったもので、集合住宅には一種の憧れを持っていました。
あと団地は特に形の潔い素朴さが良いです。郊外の立地を活かして空間もゆとりがある。広い敷地に何棟も立ち並ぶ姿、そして緑の多さは素敵だな、と前から思っていたんです。そういうところがあったせいか、何故かこういう絵を描いちゃったんですよね。で、企画が通ったその勢いで、自分も団地に住み始めてしまったという(笑)。

――何故、団地は「漂流」していなければいけなかったのですか。
石田 繰り返しになりますが、最初のイメージボードは何かを意図して描いたものではないので、逆に自分から出たこのイメージをどう映画という形にしていくのか、というのが本作での作業でした。とはいえ、そうですね……子供たちが自分の居場所とは違う場所に飛ばされたことで協力し合い生き延びていく、という物語が自分は好きなんだと思います。
――では、今回監督が描こうとしたテーマは何になりますか。
石田 先ほどのイメージボードを描いた直後に作った物語がありまして、すでに今のフィルムに近い要素がありました。団地という場所は過去への執着や足枷としての面がありつつ、それを葬り去るにはとても惜しい場所。自分を形作っていた場所だったことは確かで、それと折り合いを付けて別れる勇気を持てるのか……それが現実に帰る方法だった、という話だったんですね。
航祐と夏芽の二人はそれぞれ捨てがたいものを抱えているんですが、それと折り合いを付けなきゃいけなくなる時にどういうことを思うのか――特に夏芽のドラマは重たくなったので自分の技術でどう上手く伝えられるか、と悩みましたが、しぼり出した結果が作品としてまとまりました。テーマと言われると難しいですが……とにかく流れとしてはそういったことを最初から描こうとしていました。
――航祐と夏芽のキャラクターを描くに当たり、どういうアプローチをしていきましたか。
石田 二人を描くにあたって考えたのは「自分に嘘をつかない」ということですかね……スタッフからいろんな意見も聞きましたし、技術的な部分での問題もあったとは思いますが、他所は他所、うちはうち、と言いますか……。「当たって砕けろ」というか、気持ちの上では丸腰で二人の感情にのみ向かっていきました。
作劇のテクニックとして「こう展開したほうが正しくスマート」というものがあるのはわかっているんですが、だからといって映画にひとつの人格を与えるためには教科書的な意見を選ぶことが時に間違いであること。その逆を言えば、ひとつの人格は矛盾や狂気も孕んでいたりするので、度が過ぎると一般性を失っていくこと。その間の綱引きで最終的に着地したところが、今の二人のキャラクターなんだと思います。


――石田監督とアニメージュの関わりは、アニメージュの連載コラムで杉井ギサブロー監督が、石田監督の出世作である短編『フミコの告白』(2009)を絶賛されたところから始まりました。そこから現在までのキャリアを改めてふり返ってみて、どんなお気持ちを抱かれていますか。
石田 僕は「今後アニメを作っていく」という明確な目標を持って京都精華大学に進学したんですが、そこで教鞭をとられていたのが杉井先生でした。あそこで自分なりに学んだことを形にしたのが『フミコの告白』だったと思います。
それから大学を卒業した後は杉井先生の現場のお手伝いをして、スタジオコロリドに入って……あれから10年以上経って、キャリアとしては一回りした感じが自分の中にありますね。今回の作品はこれまでの仕事の総決算というか節目になったような感じがありますし、そう考えると自分はこれから何か違うことにも挑戦していかなきゃいけないな、という風に感じる時もあります。
――新しい挑戦、ですか。
石田 それはこの作品がこれまでのものと違う大変さがあった、というところもあるんですが……作品の作り方なのか、取り組み方なのか、まだ具体的にこれと決めているわけではないのですが、まずは少し休んでから、いろいろと考えていきたいですね。

石田祐康(いしだ・ひろやす)
1988年、愛知県生まれ。高校在学中にアニメーションの制作をスタート、京都精華大学マンガ学部アニメーション科在学中に発表した自主制作作品『フミコの告白』(2009)は、第14回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門優秀賞など数々の賞を受賞。
2012年、スタジオコロリドに参加。2013年に初の劇場作品『陽なたのアオシグレ』を手がける。2018年には森見登美彦原作の『ペンギン・ハイウェイ』で初の長編アニメーション映画の監督を務め、第42回日本アカデミー賞アニメーション部門優秀作品賞に選ばれた。
撮影/荒金大介
(C)コロリド・ツインエンジンパートナーズ
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