身近な人との関係を良好に保つにはどうすればいいか。産業カウンセラーの大野萌子さんは「相手に怒りを感じたときはまずは大きく息を吐いて深呼吸をしてほしい。そして不満や要望はできるだけ具体的に伝え、『デンジャラス・クエスチョン』は避けるべきだ」という――。

※本稿は、大野萌子『1ステップで気分があがる↑気持ちのきりかえ事典』(扶桑社)の一部を再編集したものです。

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※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kieferpix

■いかに仲が良くてもすれ違いは起きてしまう

Case1:パートナーから文句を言われたとき
用意した料理を「味が薄いね」と言われた。「だったら自分で作れば?」といつもケンカになってしまう……。

忙しい時間をぬってせっかく料理を用意したのに、「味が薄い」「量が少ないね」などと言われると、まるで自分が批判されたように感じてしまうもの。

「一生懸命作ったのに、どうしてそんなことを言うの!」と言い返したくなりますが、相手はあくまで文句を言っているつもりはなく、ただ感想を言っただけ……という可能性もあります。

少し前の時代では「手料理のほうがすぐれている」という風潮があったせいか、買ってきた総菜を夕食のテーブルに出すことに罪悪感を抱き、パートナーから「今日は総菜なんだ」と言われただけで文句を言われている気がしてイライラするとの意見もよく聞きます。

ここでぜひ覚えておいてほしいのが、「夫婦であっても他人同士」だということ。いかに仲が良くても、なにもかもわかり合えるわけではありません。感情的で瞬間的に発した何気ない一言を、相手がどんな気持ちで言っているのかはわかりません。それを探るためには、冷静な会話が必要でしょう。

■怒りを鎮めるには「深呼吸」が効果的

なので、怒りを交えず、具体的に「ちょっと味が薄かった? じゃあ醤油をかけて、味を調整してくれる?」「今度はあなたが作った料理が食べてみたい」と、相手に提案してみましょう。感情を交えずに具体的な言葉を伝える分には、決してケンカにはならないはずです。

もし「そんなに冷静に話ができない」と思うようであれば、怒りを瞬間的に鎮めるための効果的な方法として深呼吸を実践してほしいです。弛緩のために大きく息を吐き出すことが大切です。

ただし、相手の前では避けてください。これみよがしな行動ととらえられ、さらなるトラブルに発展することもあるからです。

■大きく息を「吐く」ことで自律神経が整う

人間のストレス状態と呼吸は密接に結び付いています。

人は怒りやストレスを感じると、自律神経が興奮モードに入るので、無意識のうちに呼吸が浅くなります。そして、呼吸が浅くなると、ますます身体がストレスを感じる……という悪循環にハマってしまいます。

パニックになったとき、息がうまく吸えなくなる過呼吸に陥ってしまう人がいるのは、こうしたメカニズムが関係しているのです。

怒りで興奮状態になると、深呼吸をして心を落ち着けようにも、深く息が吸えなくなります。なので、まずは大きなため息をついて、息を「吸う」のではなく、「吐く」ことに集中してください。

「ふ―――っ」と大きく息を吐き出してため息をついた後に吸い込むことで、深い呼吸になり、自律神経が整い、気持ちも少し落ち着くはずです。

写真=iStock.com/RyanKing999
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■ため息をつくと、むしろ幸せが訪れる

深呼吸をするときには、姿勢も重要です。

前傾した体勢だと、空気がうまく肺の中に入らないので、肩を回して力を抜いてから、胸を開いて全身を使って深呼吸することで、より効果が感じられるはずです。

昨今はスマホやパソコンと向き合う時間が増えたせいで、姿勢が前かがみになってしまうことが多く、日常的に肺が圧迫されている人が多いです。空気が肺に入りづらい体勢は、余計に呼吸が浅くなりがちなので、猫背の人ほど注意しましょう。

なお、ため息は気持ちが落ち着くまで、何度でも繰り返してください。息と一緒にイヤなことを全部出しきってしまいましょう。

「ため息をつくと、幸せが逃げるのでやらないほうがいい」というジンクスがありますが、実際には正反対です。イヤな気持ちをため息と一緒に吐き出してしまったほうが、心も落ち着き、幸せが訪れると思います。

■不満が改善されない原因は「あいまい」だから

Case2:パートナーへの不満があるとき
夫(妻)や恋人に少しでも気に入らないことがあると不満に思ってしまう……。

誰かと長く一緒にいればいるほど、どんなに仲が良い相手であっても、不満は生まれるもの。いくら長い時間を共にした大切な相手でも、パートナーはあなたとは別の人間です。感覚は他人同士なので違うのも当たり前です。

建設的な未来のためにはお互い理解し合うことが大事です。そのため、夫や妻、パートナーに対して抱いた不満は、きちんと相手に伝えることがそれぞれの関係を円滑に進める大切な一歩だと私は思います。

ただし、多くの方のお話を聞いていると、なかなか難しいのが「伝え方」です。

自分が感じる「もっとこうしてほしい」という不満を、いくら伝えても改善しないとおっしゃる方の大半は、実は言い方が「あいまい」であることが非常に多いのです。

相手に解釈を委ねるような言葉で伝えても、自分が期待する行動を相手が取ってくれないのは当然のことです。

「パートナーだからこそ、細かく言わなくても察してほしい」という気持ちから、ついあいまいな言葉で伝えたくなってしまうものですが、具体的に伝えない限り、相手と意思疎通することはどんなに親しい間柄であっても難しいです。

■理由と数字を交えて具体的に要望を伝える

だからこそ、相手に対する要望は、できるだけ具体的に伝えることが重要です。

たとえば、夫に「子どもを見ていてね」とお願いして家を出て、妻が帰ってきたら「スマホをいじりながら本当にチラチラ見ていただけだった」ということが往々にして起こりえます。

この場合は、

「最近は遊具遊びが好きみたいだから、1時間くらい公園に連れていって一緒に遊んであげて。他の子とケンカしないように注意してね」
「いま、この子はブロックに興味があるから、30分間ブロックで遊んであげてほしい。最近はロボットを作るのが好きみたいだから、一緒に作ると喜ぶかも」

など、できるだけ具体的に伝えないと、相手にはあなたがしてほしいことの意思が伝わりません。

「細かく伝えるとイヤがるから」と、相手に気を使うあまり、ついあいまいな言葉で伝えてしまうこともあるでしょうが、そのあいまいさが逆に揉め事やケンカの種を生みます。

だからこそ、「本当にしてほしいこと」を具体化して、それをはっきり言葉で伝えていきましょう。

■「こうあるべき」と「なんで?」は危険

相手に不満を伝えるとき、気を付けたいフレーズもいくつかあります。

大野萌子『1ステップで気分があがる↑気持ちのきりかえ事典』(扶桑社)

その一つが、「家族なんだからこのくらい当たり前」「もっとちゃんとして」などのキーワード。「こうあるべき」という価値観を押し付けることは、相手を否定することにつながり、関係を悪化させてしまいます。

そのほかに避けたいのが、「なんで?」「どうして?」などのキーワードです。

これらの言葉は「デンジャラス・クエスチョン」と呼ばれ、相手からすれば責められていると感じてしまうので、避けてください。

一生を共に過ごすパートナーだからこそ、今後も上手に付き合っていくために、「自分はこうしてほしい」という要望を具体的にお互いが話し合える状態を作る。

一度や二度、気持ちを伝えただけでは人は変われるものではありませんので、繰り返し伝え合っていく必要はあるでしょう。しかし、不満が生まれた際に、お互いに「微調整」を続けていくことが、パートナーとの関係性を維持する大切なコツなのです

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大野 萌子(おおの・もえこ)
産業カウンセラー
法政大学卒。一般社団法人日本メンタルアップ支援機構(メンタルアップマネージャ資格認定機関)代表理事、2級キャリアコンサルティング技能士。企業内健康管理室カウンセラーとしての長年の現場経験を生かした、人間関係改善に必須のコミュニケーション、ストレスマネジメントなどの分野を得意とする。現在は防衛省、文部科学省などの官公庁をはじめ、大手企業、大学、医療機関などで年間120件以上の講演・研修を行う。著書に『よけいなひと言を好かれるセリフに変える言いかえ図鑑』(サンマーク出版)、『1ステップで気分があがる↑気持ちのきりかえ事典』(扶桑社)など。
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(産業カウンセラー 大野 萌子)