Jリーグに“ギフティング”は定着するのか? コロナ禍で急浮上した“投げ銭文化”の可能性
【エンゲート株式会社代表・城戸幸一郎氏インタビュー】スポーツ界でも注目を集める新たなマネタイズ手法
新型コロナウイルス流行下のスポーツ界で話題に上ったキーワードがある。
それが「ギフティング」だ。広く「投げ銭」とも呼ばれており、このステイホーム期間に耳にした人も多いだろう。ウイルスの感染拡大防止のため、Jリーグはリモートマッチ(無観客試合)での再開を余儀なくされ、チケットやグッズ売上の減少でスポーツクラブの収入減少が懸念されるなかで、新たなマネタイズ手法の一つとして注目を浴びた。
しかし、これまでは一般的ではなかった「ギフティング」は、スポーツ界、サッカー界に定着するのだろうか。コロナの影響で一時的にブームとなっているだけなのではないかと、疑問を浮かべている人もいるかもしれない。
今回は、日本でいち早くスポーツギフティングサービスの運営を始めたエンゲート株式会社の代表・城戸幸一郎氏に、ギフティング文化が浸透するための鍵となるポイントを訊いた。
ギフティングとは、一般的に動画の配信者に対してユーザーが金銭やそれに準じたデジタルアイテムなどを送って応援するサービスで、ギフティングを受け取った配信者側はそれに応じた報酬を受け取ることができる。ストリートミュージシャンに小銭を投げるいわゆる「投げ銭」の文化が、デジタル上で再現されている。
大手動画投稿サイトの『YouTube』では「スーパーチャット」と呼ばれるギフティングが定着しているほか、動画配信プラットフォームの『SHOWROOM』や『17LIVE(イチナナ)』といったサービスでも、すでにギフティングによる“小さな経済圏”ができ上がりつつある。
あらゆる分野で変化を余儀なくされているこの時代だからこそ、スポーツ界にも新しい波が来るとの期待は大きい。スタジアムに満員のお客さんが集まることが困難な現状で、エンゲート社代表の城戸氏は「こうしたなかでも、しっかりとクラブとファンとの接点を作りたい」と語る。同社が運営するスポーツギフティングサービス「Engate(エンゲート)」に懸ける思いを明かしてくれた。
エンゲートはコロナ流行以前の2018年10月にサービスが開始され、今ではJリーグ9クラブを含め、プロ野球やバスケットボールのBリーグなど計57のチームで利用されている。サービス名は「Engagement(繋がり)」と「Gate(入り口)」に由来している。クラブがサービス上でライブ配信を行うことができ、ファンはそれを見ながら1ポイント=1円で購入できる「エンゲートポイント」を利用してコメントをしたり、ギフトを送ることができる。また、クレジットカード会社大手の株式会社クレディセゾンとの提携により、同社が発行する「永久不滅ポイント」をエンゲートポイントに優遇レートで交換してギフティングを行うこともできる。
ギフティングはスポーツクラブの新たな収益源として注目を集めているとしたが、城戸氏は「収益を出すことももちろん重要ですが、それを最終目的とはしていません」と語る。同じようなギフティングサービスが次々に立ち上がるなかで、エンゲートは独自の「コミュニティ型」サービスであり、そこで生まれるコミュニケーションこそが最も重要だとしている。
定着の鍵は“コミュニケーション”にあり
「エンゲートではファンの方々から届いたコメントに、選手がスマホで簡単に返信できるようなツールを用意しています。自分宛てのギフティングが来たらスマホに通知が来るようになっていて、自分にどれだけのギフティングが来ているかも確認できますし、たくさんのギフティングをしてくれているユーザーさんのニックネームまで把握できるようになっています。それらを通じて、選手がファンと向き合うことが可能になります」
これまで熱心なファンがチケットやグッズを買ってクラブを応援しても、選手から直にリアクションが届くことはなかった。しかし、デジタル上で完結するこの仕組みは、あらゆるものを“見える化”する。選手にはファンがチームに貢献してくれていることがひと目で伝わり、一方のファンには選手からのお礼が直に届く。この双方向的なコミュニケーションこそが、エンゲートがもたらす最大の価値となる。
少し平たく言えば、“推し”の選手に「ナイスプレー」と声をかけて「ありがとう」と返事が返ってくる。それが嬉しくないファンなどいないだろう。そういった関係性を、サービスを通じて作ることができるのもエンゲートの特徴だ。
コロナ禍で打撃を受けたクラブにファンが支援を行うだけなら、すでにクラウドファンディングなどの既存のサービスが存在していた。実際にJリーグでも複数のクラブが自粛期間にクラウドファンディングを立ち上げ、資金調達に成功している。
そうしたなかで、ギフティングという形が存在する価値とは何か。エンゲートによれば、それはモノではなくコミュニケーションを通じた「共感」が生み出す循環となる。城戸氏は「双方向的なコミュニケーションがなければサービスは成り立たないなと思った」とも話している。選手とファンの距離感がより近くなれることがエンゲートならではの大きな強みでもあり、同時にギフティングが一過性のもので終わらないためには欠かせない重要な要素だったという。
「今、世界が共感経済、共有経済と言われているなかで、自分が感動したものにギフティングを通じて共感を表現する。スポーツはまさに誰かを感動させる力がある、世界最大のエンターテインメントコンテンツ。そんなスポーツの世界に、共感経済の波が来ないわけがないと考えていました」
城戸氏は成功の確信を持っていると、力強く言葉を発した。
実際にエンゲートでは、バスケットボールのBリーグ所属のある選手が1回の配信で約20万円、同月内の1カ月間に計40万円相当のギフティングを受けた例もあるという。ギフティングに大きな可能性があることを、はっきりと示した事例と言えるだろう。もちろん、これは選手がファンとしっかり向き合い、積極的なコミュニケーションを取った結果であることは留意しなければいけないポイントだ。
ファンと選手を繋ぐギフティング、その先の可能性へ
実際にJリーグクラブでは、エンゲートをどのように活用しているのか。すでに積極的に活用しているクラブの一つが、J1のベガルタ仙台だと城戸氏は語る。
「ベガルタ仙台ではスポンサーさんを上手に巻き込んだ使い方をしています。エンゲート上でのライブ配信をスポンサー企業プレゼンツと銘打った形にして、試合に関するトークだけではなく、その企業の紹介コーナーなども行っていました。スタジアムに人が集まれず、スポンサーさんの露出もできないなかで、その代替の場となっています」
ファンと選手を繋ぐギフティングだけでなく、クラブとクラブを支えるスポンサー企業との繋がりを生む場としても大きな役割を果たしている。
「私たちが考えているのは、ギフティングだけに終わらず、様々な形でスポーツチームを支え、経済圏を作るプラットフォーマーでありたいということです。そういう意味ではギフティングは最初の一歩に過ぎません」
エンゲートは今後、海外のファンが日本でプレーする選手にギフティングを行えるような新たなサービス展開も予定しているという。
ギフティングによって、誰でも簡単に個人の小さなスポンサーになることができる。城戸氏が提唱する「マイクロスポンサーシップモデル」という考え方は、これからの時代の新しい応援のカタチの一つとして、スポーツの可能性を広げてくれそうだ。(石川 遼 / Ryo Ishikawa)
