金正恩はよく見るとニヤニヤ笑っていた
■「表情分析官」が語る米朝会談、本当の勝者
2018年6月12日に開かれた史上初の米朝首脳会談。日本に数人しかいない認定FACS(顔面動作符号化システム)コーダー(表情分析官)で、微表情研究者の清水建二氏に両首脳の表情分析を依頼し、本当の勝者を探った。
「まずは冒頭、2人が近づき最初の握手をする場面です。米国のドナルド・トランプ大統領は、眉間にシワを寄せ、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長に言葉をかけながらもずっと金氏から視線を逸らしません。眉間にシワの寄る表情は、怒り、熟考、決意の心理を表す。会談が交渉の場であることから、この場合は決意と見るのが妥当でしょう。会談に臨む決意を、非言語で表明してみせたといえます」
シワを寄せる表情は、怒りの表情と認識され、相手に心理的圧迫や脅威を与える。「俺を舐めるなよ」という牽制の意図が込められていたのだろう。金氏はそんなトランプ氏の圧力を受けながらも、視線を時折逸らし、直視するのを避けている様子が見受けられる。
「通常なら、形式的にも笑顔で握手が交わされるはずの場面です。予想外のトランプ氏の行動に一種の戸惑いを感じたためではないでしょうか」
だが、金氏もその意図を読み取った。
「ここで金氏は、軽く口角を引き上げた笑顔を向けています。これは初対面の相手に対する礼儀とも考えられますが、トランプ氏の圧迫的な表情をなだめ、中和するためにつくったものである可能性が高い。なぜなら、トランプ氏と握手を終え正面を向くとき、金氏の表情から笑顔が消えるからです。儀礼的な場としてとらえているならば、笑顔が維持されたままであるはずです」
このようにトランプ氏が圧力をかけるのに対し、金氏が視線を逸らすなど、笑顔でソフトランディングを試みる場面は随所に見られ、目を合わせている場面は非常に少ない。ボディランゲージにおいてもトランプ氏は金氏を心理的に支配しようとしている。
■後半戦の共同声明への署名で形勢は一転した
トランプ氏は会議室に移動するまでの間、金氏を移動するよう促す動作をしたり、背中を触るなど軽いボディタッチを6回ほどし「懐の広さ」をアピールした。金氏はそれに抗うことなく、意外にも受け身を取ることで“圧”を相殺しようとする様子が見て取れる。トランプ氏から半歩下がり、年長者を敬うかのような様子を見せ、儒教国の指導者であることを印象付けている。
また、並んで座る場面ではトランプ氏のほうへ身を傾け「ミラーリング」をしている。ミラーリングは、コミュニケーションを円滑に進めたい場合に有効な手段の1つ。終始トランプ側の優勢で終わるかと思いきや、後半戦の共同声明への署名で、形勢は一転。
「会談を終え、ホテルの中庭を金氏とともに歩いてきたトランプ氏は『我々はこれからサインする』という発言をします。『サイン』と言及した途端、トランプ氏の上唇が引き上げられ、ほうれい線が一瞬、釣り鐘形になります。これは嫌悪の微表情。しかし、本会談・共同声明が、北朝鮮との持続的な対話と交渉のきっかけとなるだけに、これを拒否したいと考えているとは思えません。この場合の嫌悪は、共同声明の内容が自身の期待した水準を満たしていないため、消極的にサインする、不快感の伴うサインであるという感情の表れだと推測できます」
そして反対に、金氏の顔には明らかな勝利のサインが浮かぶ。4冊目の共同声明文にサインし終える場面だ。
「この瞬間、金氏の右側の口角が引き上げられますが、これは軽蔑を意味する微表情です。この場合の軽蔑とは敵対心ではなく、優越感と置き換えることができます。共同声明文を米国よりも北朝鮮に有利な内容にすることができたことについて、満足しているであろう心中が窺えます」
トランプ氏の威圧をのらりくらりとやり過ごし、自国側に有利な共同声明文の発表で勝利の笑みを浮かべた金氏と北朝鮮のしたたかな外交術が数々の表情と動作に集約されていた。ただ、トランプ氏も「共同声明文にサインし終えてもなお、眉間にシワを寄せ厳しい表情を崩さなかった」だけに、今後も米朝関係には一波乱ありそうだ。
(安宿 緑 写真=時事通信フォト)
