ついに、という感じである。サッカー界にもビデオ判定の波が、本格的に押し寄せてきた。現在開催中のクラブW杯で、試験的に導入されている。

 成果はさっそく表れた。鹿島対ナシオナルの準決勝で、ビデオ判定がペナルティエリア内のファウルを明らかにしたのだ。
 
 ラグビーのトップリーグでは、ビデオ判定が取り入れられている。バレーボールやテニスにも「チャレンジ」がある。サッカー界でも欧州の一部リーグで、テスト的に実施されたりしている。サッカーにおける1点の重みを考えると、FIFAの対応は少し遅かったぐらいかな、という印象もある。
 
 鹿島対ナシオナルでも、ビデオ判定によってPKが掘り出された。ペナルティエリア内で意図的に足を引っ掛ける動きが、はっきりと確認された。これまでならば試合の流れに埋まっていたファウルが、しっかりとジャッジされるのは悪いことではない。
 
 気になるのは“待ち時間”か。

 主審がビデオをチェックしている間は、選手も観衆も手持ち無沙汰になる。選手同士でゲームの修正ポイントを話したり、監督が選手に指示をしたりする時間が生まれる、と解釈すればその後の試合のクオリティアップにつながるかもしれないが、プレイングタイムを伸ばすことに注力してきた近年のサッカー界の流れには重ならない。時間にすれば30秒か1分でも、何となく落ち着かない空気が漂う。
 
 まあそれも、“慣れ”の問題なのだろう。シュートがゴールラインを越えたか、PKにつながる反則があったかどうか、といった場面が1試合に何度も起こるとは考えにくい。ビデオ判定に頼るとしても、1試合に1度か2度か、多くても3度だろう。夏場の給水タイムも、少しずつ馴染んできている。ビデオ判定で正しいジャッジが担保されるなら、本格的な導入も視野に入るのではないか。
 
 主審の見る映像がスタジアムのビジョンにも映し出されれば、手持ち無沙汰でなくなる。ジャッジの精度をその場にいる全員が共有できるので、選手たちが無駄に抗議をすることもないだろう。
 
 僕自身は「ミスジャッジもサッカーの一部」という立場だ。当事者からすればたまったものではないだろうが、それによって選手が闘志をかきたてられ、ピッチ上の攻防が激しくなり、スタンドの熱が高まる、というゲームを何度も目撃してきた。ミスジャッジが作り出した因縁もある。それを20世紀のノスタルジーと言われたら、返す言葉はないのだが……。
 
 ビデオ判定が正式に導入されたら、主審を欺く行為は次々と暴かれていくことになるだろう。そのとき、マリーシアの本場に生きる男たちはどうするのか。南米のアスリート(サッカーだけではない)が得意とし、ヨーロッパの一部の国にも根づくマリーシアにも、変化が生じるのだろうか。実はそれが、個人的には興味深いのである。