アーチェリーの競技場では、誰もがほほ笑んでいるのだ。紳士のスポーツだからだろうか、髪を振り乱しオオカミのような顔をして戦う柔道とか、緊張感漂う水泳とは違う、一種独特の空気だ。

チューリップハットをかぶったりもする。楽しげではあるが、実は心理戦が行われている。

選手の横には単眼鏡(スコープ)を据え付けたコーチがつく。一射ごとに覗き込んで結果を確認するのだ。アーチェリーは男女ともなぜか小太りの選手が多い。

「後攻ですが、相手の矢の流され方も参考になりますからね」
解説の池田幸一も低いトーンで冷静に話す。

要するに、アーチェリーは熱くなっては勝てない競技なのだ。

中継は日本テレビの田辺研一郎アナ。サッカーとアーチェリーでは、トーンが全然違うが、田辺アナはあまり変わらない。ひとり元気だ。

しかし、えらいスポーツである。70m先の40cmの的に向けて、矢はまっずぐではなく弧を描いて、しかも、のたくりながら飛んでいくのだ。五輪出場クラスになると、数センチの10点や9点に当てる。

技術よりも集中力とか、かけひきの要素が多そうだ。チェスや囲碁のイメージもある。

池田さんが「よし、いいぞ」といった矢が外れて静かなトーンのままで「あら」というのがおかしかった。

試合は韓国の王が金。五輪も初だ。アテネ、北京に次ぐ3回目の五輪の古川高晴が銀。しかし年齢は王が上。韓国は選手層が厚い。

試合が決した瞬間、王が両手を上げてガッツポーズ。そでの韓国国旗をカメラに見せつけたのは、品がない行為だ。

「(王選手は)本来ならほとんど10点の選手なんですが、心の強さ弱さが出てしまいました」
勝っても、こんな解説をされるのだ。深すぎる。

多くのスポーツは見終わると高揚するが、なぜかアーチェリーは心が静まってしまう。不思議なスポーツである。