小説執筆の全盲女性に“悲劇”、ペンのインク切れに気付かず白紙。

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英国で昨年、「心を健康にしておきたい」との理由から小説を書き始めた全盲の女性がいる。その前向きな気持ちで想像力は掻き立てられ、ペンはすらすらと走り、ストーリーは次々に生み出された――はずだったのだが、ある日、息子にその原稿を見せた女性は、思いもよらぬ言葉が返ってきたことに大きなショックを受けた。「何も書かれてないよ」。不運にも女性はインクが切れたペンを使っていたことに気が付かず、話を書き進めていたのだ。同じ文章をもう一度書き出すのは、もはや不可能。復元させる方法に考えを巡らせた女性と息子は、鑑識の力で何とかならないかと思いきって警察に相談することにした。

英紙デイリー・テレグラフや英放送局BBCなどによると、この小説を書いていたのは英南西部の街チャーマスで暮らす59歳の女性、トリッシュ・ビッカーズさん。彼女は糖尿病が原因で7年前に視力を失い、全盲の状態になった。「どこへ行くにもとても制約がある」と、日頃さまざまな行動に不自由さを感じていた彼女だが、1つだけやってみたい夢があったそうだ。

それは、自分で小説を執筆すること。以前よりアイデアを膨らませていたビッカーズさんは、昨年から時間潰しと心の健康を考え、ついに夢の実現へ踏み出す決意をした。ペンを手に取った彼女は紙の上に伸ばした輪ゴムで線を作り、それに沿って字を書き進めていく方法で、すらすらと頭の中に収めていたストーリーを原稿化。アッという間に26ページにわたる最初の章を書き終わり、彼女はそこで一度出来を確かめようと、息子のサイモンさんへ原稿を読んでみるよう頼んだ。

しかし、ここで彼女は思いもよらぬ事実を聞かされる。字で埋められたはずの用紙は、実は彼女がペンのインク切れに気付かず書き進めたため、白紙のままだったのだ。息子から「何も書かれてないよ」と言われ、彼女は紡ぎ出した言葉が残っていない事態に大きなショックを受けたという。その落ち込みように心を痛めた家族も、何とか原稿の文字を読み出せないかと話し合い、思い付いたのが警察の力だった。

すると、相談を受けたドーセット警察がこの協力を快諾。鑑識の技術者たちが小説の復元を試み、通常業務外の時間を利用して、紫外線をあてながら原稿に残された字の跡を1字ずつ解読していったという。そして5か月後、空白の26ページはすべての字が復元され、誰もが読める立派な原稿となった。まさか警察がこうした協力をしてくれるとはビッカーズさんも思っていなかったという。一方、今回の“原稿回復”に取り組んだドーセット警察は「原稿が読めて嬉しかった」とコメント。その後、少女を主人公としたこの小説は、完成を心待ちにする警察関係者の声も励みに順調に書き進められており、完成したら出版社へ送るつもりだという。