ウクライナによるドローン攻撃を受け、製油所から炎を伴う激しい煙が立ち上った=18日、モスクワ/Reuters

(CNN)被害の知らせは間違いなく、外界から最も隔絶された地下壕(ごう)の中にも届いたはずだ。

ロシアのプーチン大統領はこれまで、悪化の一途をたどるウクライナ侵攻の現実から自らを隔離していると非難されてきた。しかし、首都モスクワの空を捉えた18日の衝撃的な映像は、クレムリン(ロシア大統領府)のトップを囲む分厚い防護壁でさえ、わずか16キロほど先で繰り返し響く爆発音からプーチン氏を守りきれない瞬間が来たことを如実に示している。一連の爆発で精油所は破壊され、モスクワ上空には濃い黒煙が漂った。

ロシア国民がSNSに投稿した動画は、二つのことを物語る。第一に、首都の防空網――三重に張り巡らされているとみられる防空網の全て――が、安価な量産型ドローン(無人機)によって突破された。かつてのウクライナはこうしたドローンに手を焼かされる側だったが、今や毎晩のようにロシアにドローン攻撃を仕掛けている。製油所の屋根は吹き飛ばされ、クレムリンから16キロ程度の場所でいくつも激しい火の手が上がっている状況だ。環境災害が起きているのは間違いない。燃料供給にも影響が出る見通しで、クレムリンが戦争の影響から守ろうと長年躍起になってきた都市モスクワでも、ガソリンスタンドに長蛇の列ができる事態になるかもしれない。

二つ目は、モスクワ市民の間で広がる不満と、それに伴う政情不安だ。ロシア当局による制限にもかかわらず絶え間なく動画が投稿されている現状からは、反発の高まりと情報統制の機能不全ぶりがうかがえる。2023年5月に小型ドローンがクレムリンを襲って以来、モスクワの空はウクライナによって脅かされ続けており、先月には「戦勝記念日」のパレードまで大幅に縮小された。18日の衝撃的な映像の数々――火災現場の上空にウクライナのドローンが波のように押し寄せ、次々と追撃を加えている――は、ロシアが真の苦境に立たされていることを世界にはっきり印象づける瞬間となった。

ウクライナのゼレンスキー大統領は今回の攻撃を、ロシアの執拗(しつよう)な夜間爆撃への報復と形容した。首都キーウでは15日、最も古く神聖なキリスト教施設も爆撃にさらされた。ゼレンスキー氏は仏エビアンで開催された主要7カ国首脳会議(G7サミット)でさらに意を強くしたようだが、トランプ米大統領がサミットで示したのは、ウクライナの窮状への無関心と支援が入り混じった姿勢だった。

ゼレンスキー氏はトランプ氏への期待値をゼロに引き下げた様子だ。とはいえ、かねて求めていた重要な成果を一つ手にした。米国や欧州が製造しているものの、在庫が底を突きかけ、代替品の製造も遅れている防空システムやミサイルをウクライナの側で大量にライセンス生産できるかもしれないという提案だ(現状ではまだ不透明だが)。

G7でのトランプ氏の揺れ動く態度からは、今でも和平を追求する意欲があるのかうかがい知ることはできない。クレムリンがこれまで消極的だったことはトランプ氏でも分かるはずだ。

欧州諸国は、「中堅国」(メローニ伊首相の表現)からの使者が再び交渉の起爆剤となる可能性に希望をつないでいる。英仏独は11日前に発表した声明で、合意へ向けた以前からの基本方針を改めて強調したが、そこにはロシア政府にとって最初から受け入れがたい提案である一方的停戦が含まれる。

戦場での深刻な膠着(こうちゃく)状況や領空防衛の難しさを踏まえ、プーチン氏が何らかの出口を模索するかもしれないとの期待は尽きないようだ。実際、プーチン氏は方針転換をほのめかす曖昧(あいまい)な発言を何度か口にしている。和平合意とドンバス全域の制圧は「相互排他的な」概念ではない(それが何を意味するにせよ)、戦争は近いうちに終結するだろう、ドイツのシュレーダー元首相が欧州の仲介役になれば歓迎する、といった発言だ。もっとも、ウクライナの先週の攻撃による経済的損害を認めた時でさえ、プーチン氏はさらなる報復を示唆した。

モスクワの車に降り注ぐ黒い雨の動画が投稿されているこの状況で、戦争の行方を決める判断を下すのはやはり、開戦した張本人のプーチン氏だろう。ロシアの広大な国土の約0.7%に過ぎないウクライナの一部を奪取するためにプーチン氏が外交を選び、紛争を終結に導くと考えるのは、おそらく楽観的すぎる。西側情報機関によれば、ロシアの戦死者は50万人に上る。

この戦争を通じて、プーチン氏の選択は誤り続きだった。数週間でキーウを制圧できると踏んだこと、22年後半にロシア国内に広がった混乱の中でも軍が補給線を維持できるものと信頼したこと、23年から24年にかけてドンバスでの「肉ひき機」攻撃で兵員を浪費するのを容認し、大国ロシアでさえ兵員確保に苦慮する事態を招いたこと、トランプ氏へのお世辞や甘言を通じウクライナ政府から何らかの有益な譲歩を引き出せると考えていたことなど、挙げればきりがない。

プーチン氏は数十年来、何があっても動じない緻密(ちみつ)な策士というイメージを築き上げてきた。自らを取り囲む壁の外――遠く離れた前線ではウクライナの中距離攻撃が毎日のようにロシアの補給線を揺さぶり、占領下のクリミア半島で燃料不足を引き起こしている――で広がる惨事の規模は、間違いなくプーチン氏の意思決定に影響するはずだ。ただ、それが直ちに解決の要請につながるわけではなく、むしろその逆かもしれない。

プーチン氏はこの局面で弱さを見せるわけにはいかない。これはプーチン氏の戦争であり、ここでの判断が将来や歴史の中での自らの運命を決定づけるだろう。前線での苦戦は明白だが、戦争の帰趨(きすう)においては取り返し可能な落ち込みに過ぎない、ロシアはすぐにウクライナのドローン運用能力に追いつき、領土奪取のペースを加速させることができる、とプーチン氏は自らに言い聞かせている可能性もある。

プーチン氏が最も危険な苦境に陥っているのは国内だ。プーチン氏は先週、ウクライナの攻撃で経済的損害が出ていることを認めざるを得なかった。領土の奪取が望み通りのペースで進んでいない状況を受け入れ、インターネット遮断を巡る不満の高まりに耳を傾けることも余儀なくされた。完全勝利以外の選択肢をほぼ受け入れずに戦争を進めてきたクレムリンにとっては、どれも現実を認めた形だ。

プーチン氏が自らの首を絞めることなく戦況をエスカレートさせようとしても、わかりやすい現実的な手段はほぼ皆無だ。一部の人が警告しているように、東欧のNATO加盟国を攻撃するのは、より小さな隣国の制圧にも苦戦している現在の状況では大きな賭けとなる。戦術核兵器の使用――これについては専門家の間で長年、懸念がささやかれている――は、得られる戦略的利益がほとんどない一方、米国や欧州、場合によっては中国の怒りを買うリスクを伴う(もし悲惨な結果になった場合、力を誇示したところでプーチンが得るものはほぼないだろう)。ロシアはすでに持てる兵器を総動員してウクライナを攻撃しており、恐怖をあおる「オレシュニク」弾道ミサイルの使用は在庫の状況から制限されている。

ロシアでは失敗に終わった過去の戦争後、大きな政変が発生している。モスクワの有力日刊紙「モスコフスキー・コムソモーレツ」は先月、「地政学的損失は時に輝かしい勝利よりも有益だった」と警鐘を鳴らした。第1次世界大戦からのロシアの離脱は過酷な革命につながった。アフガニスタンでの敗北は混乱に満ちたソ連崩壊の前兆となり、ロシアはグロズヌイの大部分を破壊した後の1996年、チェチェンに自治権を与えた。仮に変化が訪れるとしても――その可能性は低そうだが――生やさしい変化にはならないだろう。

プーチン氏がロシアの実権を握ってからの26年間は近年まで、巧みな駆け引きや実利主義、並外れた地政学的影響力が特徴だった。過去4年間のような執拗な軍事的利益の追求とは様相が異なる。モスクワの空に煤煙が立ち込める現在の状況では、ロシアの次の動きは自国の弱さを受け入れ、適応する方法を見つけることにならざるを得ない。一方で、対外的に強さ以外のものを一切見せないことも必要になる。ほぼ不可能な課題だが、プーチン氏がロシアに執拗に課してきたシステムでは、その責任はプーチン氏ただひとりに帰着する。

本稿はCNNのニック・ペイトン・ウォルシュ記者による分析記事です。