モナコは全24戦(今季は中東情勢の悪化でバーレーンGPとサウジアラビアGPが開催中止となり全22戦)のなかで、極めて特殊なグランプリだ。

 もちろん、これほどまでに煌(きら)びやかで格式の高い街中を走るレースもなければ、これほどまでにガードレールに囲まれた狭いコースもない。しかし最も特殊なのは、その速度域だ。


アストンマーティン・ホンダにとってモナコは数少ない入賞のチャンス photo by BOOZY

 100km/h以下の低速コーナーが7つもあり、最もスローなフェアモント・ヘアピンでは40km/h台まで下がる。逆に200km/hを超える高速コーナーはなく、最も長いストレートエンドでも290km/hに達しない。250km/hを超えるのは1周のなかで3箇所しかなく、8速を使うこともない。

 つまり、F1マシン本来の性能とはまったく違う領域で走るのが、モナコだ。

 だからこそ、アストンマーティン・ホンダにとってはチャンスがある。ストレートが短く全開率も低いため、パワー差はラップタイムに響きにくい。高速コーナーがないため、空力性能差もラップタイムに響きにくい。

 マシンの差は小さくなり、ドライバーが腕でなんとかできる割合が高い。それがモナコだ。

 アストンマーティンのチーフトラックサイドオフィサー(CTO)マイク・クラックはこう語る。

「モナコは非常に特殊なサーキットであり、ドライバーにとってもマシンにとっても特殊で、アプローチの仕方も、ほかのどのサーキットとも少々異なる。路面がバンピーで、非常に低速で、ステアリングアングルが非常に深いコーナーもいくつかある。

 その一方で、ウォールに囲まれた間を縫う非常にクイックなコーナーもあり、ドライバーが自信を持ってドライブできる必要もある。だからこそ、時に何人かのドライバーが極めてすばらしいパフォーマンスを見せたりする。今年は我々のドライバーがそうであることを願っているよ」

 低速コーナーからの脱出加速を左右するドライバビリティ(操作性)について、ホンダも前戦カナダGPからさらに改良を一歩進めてきたという。

 折原伸太郎トラックサイド・ゼネラルマネジャー兼チーフエンジニア(GM)はこう語る。

「カナダではドライバビリティに対する改善ダマを投入して、ポジティブな手応えを掴むことができました。ただ、まだ改善の余地はあったので、その作業をHRC Sakuraのダイノ(※)で進めてきています。トルクデリバリーの正確性についてダイナモ上でテストを重ね、新しい発見もあったので、今週に向けてもさらに改善が進められていると自信を持っています」

※リアルビークルダイノ=実車のパワーユニットを搭載して、サーキット走行時の振動や加速度、負荷をベンチ上で再現する高度な試験設備。

【昨年のアロンソは予選7位】

 ドライバビリティが求められるのは、パワーユニットの出力に限らず、車体側も同様だ。

 尖った性能を追求せずとも、ドライバーがドライブしやすいマシンを与えることで、限界まで攻めることができるようになる。それがラップタイムにつながりやすいのがモナコだと、クラックCTOは語る。

「理論的にはラップタイムが遅くなるような変更だとしても、ドライブしやすかったり、挙動が予測しやすいマシンにすることで、実走ではどんどん限界に近づいて、結果として速く走れることがある。

 トラクションの前にコーナーを曲がる必要があるし、その前にブレーキングでのスタビリティが必要だ。つまり、トラクションだけに集中すればいいというわけではないし、とにかくまずはドライバーが自信を持って攻めていける挙動予測のしやすいマシンに仕上げることが重要となる。

 だから、3回のフリー走行でドライバーたちがそういう自信を持てるようにすることが、我々にとって重要なタスクのひとつなんだ」

 フェルナンド・アロンソは昨年も予選7位に入り、パワーユニットにトラブルが発生するまでシーズン初入賞に向けて7位を快走していた。

 前戦カナダGPではシートに問題が発生し、アロンソはリタイアを余儀なくされた。だが、モナコに住んでいることもあって、火曜日からピットガレージでチームとともに新たなシートの調整作業に当たり、問題は解決できているはずだと自信を見せる。

「僕はモナコに住んでいるから、火曜日の午後にピットガレージに来て、4つほどのシートポジションを試した。カナダの時と比べて、かなり変更を加えたんだ。2025年の時にかなり近いシートポジションに戻したから、基本的にどんなものかはわかっている。実験的なことをやるわけではないよ。

 カナダで問題を抱えた時はかなり不快だったし、痛みもあった。だけど、そういった問題はもう解決できている。心配はしていないよ」

【たとえQ3に進出できても......】

 もちろん、ガレージで試して問題がなくとも、実際に激しい前後左右のGのなかで走ってみれば問題が表出することはある。わずかな角度やミリ単位の違いでも、脚部や臀部の神経が刺激されて痛みにつながるという。

 本来は開幕前テストで確認し、調整を済ませておくべきことだ。こんなところにも「出だしのつまずき」が影響していたことになる。

 今のアストンマーティン・ホンダのパフォーマンスでは、普通のレースで入賞のチャンスは皆無に等しい。しかし、モナコなら......。その思いは、アロンソにもある。

「たとえば、マイアミの時のようにダウンシフトに問題があれば、レースをすることすらできないだろう。ブレーキングポイントでダウンシフトの挙動が違えば、クラッシュしてしまうからね。

 カナダGPからの2週間で必死に取り組んできたのは、モナコGPがとても重要な週末だとわかっているからだ。だから、あらゆる細部に至るまで注意を払って取り組んできたんだ」(アロンソ)

 たとえモナコでも、Q3に進出してポイントを獲得するのは極めて難しい。荒れるレースとはいえ、近年は天候の変動さえなければ各車ともコンサバな走りでポジションを守り、そのままフィニッシュするのが通例だ。

 アロンソも過度な期待は抱いていない。

「シーズン序盤戦を見るかぎり、ポイント獲得のチャンスはないと思う。トップ5チーム・トップ10のマシンはそれ以下のチームに大きな差をつけているので、僕らがトップ10に入るのはかなり難しいと思う。

 13位や14位にいるなら、いつも以上にリスクを冒して攻めることで、ポジションを3つか4つ上げられるかもしれない。でも、僕らは20位や21位だから、大きなジャンプが必要だ。それでもトライはするけどね。モナコでは何が起こるかわからないから、やれる限りのことをやるだけだ」

 華やかな夢物語ではなく、現実を直視し、戦う。

 モナコにしかないチャンスをつかむための、モナコだけの戦いが始まる。