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厚生労働省が2025年7月に発表した『令和6年簡易生命表』によると、2024年の平均寿命は女性87.13年、男性81.09年となり、国際比較では、女性は40年連続で世界1位を維持し、男性は6位となったそうです。そんな中で、東京大学名誉教授である血液学者の北村俊雄さんは「100歳を超えても、元気で楽しく健康に生きられる――。近未来の医療でかつてない長寿社会が実現します」と語ります。そこで今回は、北村さんの著書『東大名誉教授が教える 死なない生き方 科学でひもとくアンチエイジングと健康寿命』より一部を抜粋し、「『健康寿命100歳』を手に入れるための対策」をお届けします。

【書影】最新の研究成果とともに「健康寿命100歳」を手に入れるための対策をご紹介!北村俊雄『東大名誉教授が教える 死なない生き方 科学でひもとくアンチエイジングと健康寿命』

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酒は百薬の長?

古来、適度のアルコールは健康に良いとはよく言われたことである。しかしながら、最近では全く飲まないのが一番いいという反対の意見の方が優勢である。これは、アルコールに強いか弱いかにもよるので、一概に言えない。多くの人が知りたいテーマなので、科学的に解説していきたい。

少し飲む方が健康にいいことを示す論文は多い。たとえば1日に20グラム(男性では30グラム)くらいのアルコールを飲む人の方が、全く飲まない人に比べて死亡率が若干低いという。

このデータは欧米のデータであり、日本人は欧米人より平均体重が少ないこと、アルコールに弱い人が多いことを考慮すべきである。

20グラムというのは、ビールのアルコール度数を5%とすると、ちょうど500ミリリットルの缶ビール1本の量だ。計算の仕方を説明すると、500×0.05で25ミリリットルのアルコールが含まれていて、アルコールの比重は0.8なので25×0.8と計算すると、ちょうど20グラムとなる。

健康に悪影響をおよぼさないアルコール量

フランスのグループから、ワインの成分が細胞に良いという論文がNatureに発表されたこともある。細胞を培養する時に、培養液に少しワインを添加すると細胞の調子が良かった、という論文だった。20〜30年前だったと思うが、ワイン好きのフランス人の自己防衛的な論文だったのかもしれない。

一方、2018年にThe Lancetに発表された論文では、アルコール摂取量とアルコール関連疾患の発症リスクを比較している。

この結果は、1日のアルコール摂取量が20グラムくらいまでは問題なさそうだが、それ以上になるとアルコール関連疾患のリスクが高まることを示している。

いずれにしても、健康に悪影響をおよぼさないアルコール量は1日20グラムと、かなり少ない量であることは確かなようだ。

日本人にはアルコールに弱い人、飲めない人が多い

アルコールを飲むと顔が赤くなる人と、ならない人がいる。赤くなる人はアルコールに弱い人であり、強い人は飲んでも赤くならないということは周知である。

顔が赤くなるのは、アルコールではなくアルコールがADH(アルコール脱水素酵素)という酵素によって代謝された(変化した)アセトアルデヒドによる。


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アルコールは胃から20%、小腸から80%吸収されて肝臓に行き、肝臓で代謝される。代謝産物であるアセトアルデヒドは顔を赤くするだけではなく、悪酔い、頭痛、二日酔いの原因となる。加えてアセトアルデヒドには、細胞を傷める作用、遺伝子変異を誘導する作用もある。

アセトアルデヒドは、アルデヒド脱水素酵素(ALDH)によってさらに代謝され、酢酸(つまり酢)になる。そして酢酸は分解されて水と二酸化炭素になる。アルデヒド脱水素酵素には1と2があり、主として働くのは2の方だ(ALDH2)。ALDH1はアセトアルデヒド濃度が高くなった時に補助的に働く酵素と考えられている。

体内に吸収されたアルコールがALDH2で速やかに代謝されずに、身体の中で長い時間にわたって滞留すると、細胞やDNAを傷めることによって、肝硬変や種々の癌のリスクが上昇する。

2つのALDH2

ところが日本人では、このALDH2に変異があり機能しない人が多い。遺伝子は染色体2対に1つずつ、計2つ存在するのだが、2つのALDH2が共に変異を持っている人は欧米では少ないが、日本人では3人に1人もいる(10人に1人という報告もある)。

片方だけ正常の人も、両方正常の人に比べると強くはないが、あまり問題なくアルコールが飲める。両方の遺伝子とも変異がある人は、とてもアルコールに弱い体質である。

今回紹介したデータは欧米人のデータであり、アルコールが弱い人では、アセトアルデヒドの体内での滞留時間が長いために、問題はより大きくなる。

10年以上前になるが、ALDH2が2つとも変異がある人がアルコールを飲むと、食道癌の発症率が13倍に上昇することを、私の中学・高校・大学の後輩が論文で報告している。この結果は、アルコールが少しは食道からも吸収されていることを示唆すると同時に、ALDH2に変異がある人は飲酒を控える方が無難であることを示している。

※本稿は、『東大名誉教授が教える 死なない生き方 科学でひもとくアンチエイジングと健康寿命』(日経BP 日本経済新聞出版)の一部を再編集したものです。