「『地獄に堕ちるわよ』は凡庸」ネトフリドラマの参考文献「魔女の履歴書」著者が語る、「ドラマで描くべきだった《細木数子の過去》」【溝口敦×鈴木エイト 特別対談】
Netflixオリジナルドラマ『地獄に堕ちるわよ』の参考文献にもなった『細木数子 魔女の履歴書』がいま再注目される暴力団取材の第一任者・溝口敦。
山上徹也と4回計90分にわたって接見し、その人物像や国民の多くがまだ気づいていない「安倍晋三元首相銃撃事件」の犯行動機を新刊『アンビバレント 山上徹也が私だけに明かした謎の核心』で解き明かした鈴木エイト。
暴力団とカルト宗教…社会のタブーに斬り込んできた二人のジャーナリストが語り合った特別対談をお届けする。
構成/平原悟
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ドラマと事実との乖離
エイト Netflixのドラマ『地獄に堕ちるわよ』は、溝口さんの『細木数子 魔女の履歴書』も参考文献になっていますが、雑誌でドラマについて語られているのを読むと、あまり納得されていない感じでした。
溝口 そうですね。
エイト 僕も『魔女の履歴書』を読んだ上でドラマを見たんですが、「全然違うじゃないか」と感じました。特に前半は、普通の大河ドラマみたいでかなり辛かったですね。
溝口 あの作品は、事実として確定しているものとフィクションを両掛けしているから、どうしても曖昧さが出るんですよ。特に前半は、既視感のある「戦後闇市ノスタルジー」みたいな描き方になっている。でも彼女は、ああいう極端な貧しさは経験していないんです。
エイト ドラマではミミズを食べるシーンまでありましたが、そんなことはしてなさそうですね。
溝口 彼女は、関東大震災後に発展した渋谷の百軒店で育っている。実家は、女給に買春の相手もさせるような店でした。しかも彼女自身、小学生の頃からポン引きをやっていた。客から取った金を売春婦と折半していたらしいけど、それでも一日1400円くらいになった。当時、日雇い労働者の日当が240円くらいの時代だから、相当な金額ですよ。
エイト ドラマでは、麦茶を米軍放出のビールと偽って売るような描写もありましたが、そんなことをしなくても食べていけたわけですね。
溝口 つまり、細木の金儲けというのは、子供の頃から性風俗的なものと結びついていた。時代背景を描くなら、そこを描かなければいけなかったと思うんです。それがないから、全体が凡庸になってしまった。
連載中に細木数子から6億円の訴訟
エイト 後半、細木が占い師としてメディアに出始める頃から、やっと溝口さんが暴いた事実も出てきますが、それでもかなり遠慮している感じはありました。
溝口 細木にとって本当の“大殺界”が何だったかと言えば、『週刊現代』で僕がやった連載と、その後の6億円訴訟ですよ。結果的に我々が実質的に勝って、細木はテレビのレギュラー番組を失い、露出も激減した。あの裁判にほとんど触れていないのは、「事実に基づくフィクション」としても片手落ちと言わざるを得ないですね。
エイト 溝口さんは『魔女の履歴書』の連載中、細木数子さんから6億円訴訟を起こされました。
溝口 6億円もの金を講談社にふっかけて、恐れ入らせようなんて、とんでもない話ですよ。
エイト 僕も今、3件やられていて、合計3600万円くらい請求されています。今のところ全部勝ってはいますが、請求額が高いほど全面棄却されて勝ってもその差額が経済的利益として弁護士費用が計算されるので、もう何百万円もかかっています。資金力を武器に、訴訟を使って言論封殺をしてくる構図自体は、当時から全く変わっていませんね。
溝口 しかも、細木の訴訟では僕を被告から外してきた。僕が暴力団に情報パイプを持っていたから、自分と暴力団との関係が、僕の証言で表に出ることを警戒したんでしょう。だから仕方なく補助参加した。実質的には我々が勝ったから、本当は反訴したかったんだけど、補助参加ではできないと言われた。あれは悔しかったですね。
エイト 「なんで自分を被告に入れてくれないんだ」というのも珍しい話ですが(笑)、結局、日本には反SLAPP法がない。金の力で自分に不利な言論を潰そうとする側に対抗する制度が弱いんですよね。
溝口 しかも訴訟って、向こうが勝手に仕掛けてくるものなのに、「訴えられた時点で、こちらにも何か問題があるんじゃないか」という空気になる。そこも連中の狙いなんです。
エイト 僕もその空気が嫌で、統一教会から訴えられた時、向こうが司法記者クラブで開いた会見に、自分で取材に行ったんです。その様子が『サンデー・ジャポン』で流れました。劇場化することで、「こいつら、こんなことやってるんだ」と視聴者に伝わった。訴えられたら隠れるんじゃなく、むしろ全部公開していく方が強いんじゃないかと思いました。
溝口 アメリカの最高裁判事の言葉で、「殺菌には日の光に晒すのが一番」というのがある。まさにその通りですよ。
連載を止めるために札束入りの封筒
エイト 『魔女の履歴書』の連載中、細木数子さん本人には会わなかったんですか。
溝口 会ってないし、会おうとも思わなかったね。知り合いの暴力団幹部から、「俺の名前を出さなくても会えるようにしとく」と言われたことはあったけど、断りました。
エイト 最終的に向こうから接触してくる前に、訴訟になったと?
溝口 そう、『週刊現代』編集部が何度もファックスで取材申し込みをしても、細木側は面談を拒否して、「書いた内容によっては法的措置を取る」と脅してきた。ああいうやり方自体が、細木の“馬鹿さ加減”なんですよ。
エイト 最初から喧嘩腰だったんですね。
溝口 そもそも連載開始時点では、こちらも「戦後を生きた女の典型」くらいの感じで、淡々と書くつもりだったんです。でも、向こうが高圧的に出るから、こちらの取材もどんどん深くなって、結果的にヤクザとの関係にまで行き着いた。
エイト 『魔女の履歴書』の後書きにも、「自分が相手にするようなタマじゃないと思っていた」と書かれていましたね。向こうの対応が、完全に火に油を注いだ。
溝口 細木は、ヤクザを使って札束入りの封筒まで渡そうとして、そのヤクザがしつこく押しつけてきましたからね。
エイト 連載を止めるために。
溝口 そう、それも封筒の厚さから「100万円かな」と思ったら、50万円だった(笑)。案外ケチだなと思いましたよ。もちろん受け取らずに突っ返しましたが、しつこくて面倒でしたね。金をもらってまで取材対象に会う必要はない。対面取材がノンフィクションの絶対条件ではないということです。
暴力団員に刺されたことも
エイト 暴力団による圧力というと、懐柔だけじゃなく、直接的な暴力もあるわけですよね。
溝口 ありました。『五代目山口組』を出した時です。最初は伊丹十三襲撃事件で知られる後藤組の後藤忠政から、「初版の原稿料を出すから、本を出さないでくれ」と言われた。でも断った。
エイト それはビビりますよ。
溝口 もちろん怖かった。でも、「やるならやれ」と思っていた。『五代目山口組』は10万部売れて、印税が1000万円くらいになったから、冗談で「僕の生命保険は1000万円です」と言ってたんです。つまり、「俺を襲えば、お前らの悪事がもっと世に広がるぞ」という気持ちがあった。
エイト 理屈では分かるけど、殺される恐怖はなかったんですか。
溝口 今振り返ると、当時の僕は相手を少し舐めていたんでしょうね。本も売れていたし、「せいぜい出版社に車で突っ込むくらいだろう」と思っていた。でも実際には、海外取材から帰った直後、事務所を出たところで刺された。襲ってきたのは後藤組じゃなく、五代目山口組の別の組の組員だったようでした。幸い致命傷にはならなかったけど、「次があるのか、これで終わりなのか」が分からない恐怖があった。後ろから子供が走ってくるだけでも怖かったのを覚えています。
エイト 恐怖で相手を縛り付けるわけですね。それって、細木数子の「地獄に落ちるわよ」も、構造としては同じかもしれません。
溝口 「地獄に落ちる」だけじゃなく、「家族が自殺する」みたいなことまで言っていた。あれはヤクザの「かまし」と同じ感覚なんです。相手を恐怖で飲み込んで、自分のペースに持ち込む。細木は、ヤクザと付き合う中で、そういう感覚を身につけた部分もあると思いますね。
報道を続けるモチベーション
エイト 今日は色々と話を伺って、扱っているテーマは近いけれど、知らなかったことも多くて勉強になりました。
溝口 僕の場合、ヤクザを書くのは危険もあるけど、売れるんですよ。だから裕福ではないにしても、生活は維持できる。でもエイトさんの場合、ほとんど手応えもない時代から、ずっと続けてきたでしょう。そこはかなり特殊ですよね。
エイト 実際、実入りもほとんどありませんでしたからね(笑)。
溝口 経済的なメリットがないのに、「これはやり続けなければいけない」と思えたのは、なぜなんですか。
エイト 僕の場合、自分がやらないと誰もやっていなかった。当時は、「自分がやめたら、もう誰も報じなくなる」という感覚がありました。それがモチベーションだったと思います。
溝口 最初からですか。
エイト 元々、勧誘現場で人を騙しているところに遭遇して、そこに割って入ったのが始まりなんです。その時から、「これは見過ごしちゃいけない」という感覚があった。政治家との関係についても、「なんでこれが表に出ないんだろう」「なんでみんな騒がないんだろう」という思いが、ずっとありました。
溝口 なるほど。本当に頭が下がります。あれは、エイトさんみたいにコツコツやれるタイプじゃないとできない。それに失礼だけど、鈴木さんにはどこか山上的な内省の深さみたいなものがある。そういうものが、続ける力になってきたんじゃないかという気がします。
エイト 実は、山上家の世話をしていた奈良の元教会長にも、同じことを言われたんです。「あなたは徹也と同じ匂いがする」って。だから徹也も、あなたとはコミュニケーションを取るんだろう、と。
溝口 日本に鈴木さんみたいな人がいてくれて、本当に良かったと思いますね。
エイト そう言っていただけるだけでも、ありがたいです。
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