現場となった被害者宅

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 ご存知の方も多いだろうが、強盗殺人罪には極めて重い刑が科せられる。刑法第240条によると強盗が人を殺した場合、「死刑または無期拘禁刑」の2つしかない。実際の裁判では情状酌量などにより減刑が認められる場合もあるが、基本的に拘禁刑30年といった有期拘禁刑の判決は下されないことになっている。だが被告が少年の場合は違う。少年法第51条は「罪を犯すとき18歳に満たない者」なら死刑相当の場合でも無期拘禁刑、無期拘禁刑が相当の場合でも10年以上20年以下の拘禁刑に減刑できると定めているのだ。

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 5月14日の木曜、午前9時20分すぎ、栃木県上三川町の民家に目出し帽をかぶった複数の男が押し入った。

現場となった被害者宅

 住宅1階の窓を割って侵入し、室内にいた69歳の女性が胸などをめった刺しにされて死亡した。遺体には殴られたり、刺されたりした傷が20カ所以上も確認されたという

 女性の長男と次男もバールのようなもので殴られて負傷。女性が倒れていた部屋は物色した跡があり、刃物1本とバールが押収された。栃木県警は16日までに、いずれも16歳で神奈川県内に住む高校生ら4人を強盗殺人の疑いで逮捕した。

 さらに指示役の夫婦も捕まった。海外に逃亡しようとしていた竹前海斗容疑者を東京・羽田空港で、妻の美結容疑者を神奈川県内のビジネスホテルで、それぞれ強盗殺人容疑で逮捕した。美結容疑者は生後7カ月の女児を連れていたという。栃木県警は匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)が関与した可能性があると見て捜査を続けている。

 闇バイトの“リクルーター”が取材に応じるなど、トクリュウの実態が詳細に描かれて話題を集めた書籍がある。『闇バイトの歴史 「名前のない犯罪」の系譜』(太田出版:藤原良著)がそれだ。

理想の人物像は“バカ”

 著者の藤原氏は長年、反社会的勢力の取材を積み重ね、月刊誌などで多数の記事を執筆。著書も『山口組対山口組』、『三つの山口組』、『M資金』(いずれも太田出版)などで、いわゆる“アウトロー”のリアルな生態を描き出してきた。

 藤原氏の取材に応じた“リクルーター”は「普通の人なら、そもそも闇バイトに応募しないし、個人情報を自分たちに送ることもない」と断言する。

 ならば「闇バイトに応募し、合格と太鼓判を押される」人間とは、どんなタイプなのか。“リクルーター”は《社会経験が乏しくて、政治や法律に関心もなくて、働く気はあるけれど来月の給料日まで待てなくて、今日にでもカネが必要な奴》と説明する。

 闇バイトは日当5万円、日当10万円を謳う。普通の社会経験がある人なら「そんな話は嘘に決まっている」と一蹴する。ところが社会経験に乏しく、新聞やテレビのニュース番組にはまったく興味がないという層は飛びついてしまうのだ。

 個人情報を何の疑いもなく送ってしまうのは《法律の知識が常識レベル以下》だからだ。そして“リクルーター”は藤原氏に身も蓋もない事実を指摘する。

「まともな社会人に来られちゃうと、どっかのタイミングで警察に行かれるだけですから、そんなリスクはこっちも負いたくないですから、なるべく“バカ”が来てくれたほうがいいんですよ」

殺し文句は「少年法で罪が軽くなる」

 トクリュウに関する取材を積み重ねた藤原氏は、「今後、闇バイトのリクルーターは未成年者をターゲットにする」と分析し、『闇バイトの歴史』でも警鐘を鳴らした。まさに、それが現実のものになってしまったと言える。

 藤原氏は「トクリュウが未成年者を狙うのは、成人よりも騙しやすく、勧誘が容易だからです」と言う。確かに高校生は大人と比較すると、一般的に社会経験や法律の知識に乏しいだろう。

「成人だと配偶者や子供がいる場合もあります。犯罪に加担させる際、家族の存在が“手かせ足かせ”になることもあるのです。神奈川県で働く男性に『明日、栃木へ行け』と命令しても、仕事や家族の関係から『無理です』ということが起こり得ます。一方、高校生なら学校さえサボれば、平日でも休日でも自由に行動できます。そして何よりも大きな影響を与えているのが少年法です。リクルーターは未成年者と接点を持つと最初から『少年法で守られているから罪が軽くなる』と説明するのです。成人には使えない“殺し文句”であり、まさに法律の知識に乏しい高校生たちが『それなら大丈夫だろう』と判断してしまうわけです」

10人のうち9人は脱落

 もともと闇バイトのリクルーティングはSNSなどで不特定多数に呼びかける方法と、知人や友人関係を利用して“口コミ”で誘う方法の2つがあったという。

「最近は警察が闇バイトの捜査に力を入れています。そのため“リクルーター”は目立つSNSの利用を控えるようになっています。実際、今回の強盗殺人事件で逮捕された16歳の4人のうち少なくとも2人は同じ高校に通う同級生だったなど、全く見ず知らずの男たちをかき集めて強盗をさせるという完全な“SNS型”とは異なる印象です。SNSで闇バイトのリクルーティングを行いながら、それに応募した高校生の交友関係を利用したのではないでしょうか」(同・藤原氏)

 だが、いくら社会的経験や法律的な知識に乏しい高校生だといっても、民家に押し入って住民を殺し、金銭を物色することに良心の呵責を感じないのだろうか。

 凶悪犯罪に加担すれば、人生が破滅するリスクがある。16歳の少年なら死刑は免れるかもしれないが、無期拘禁刑の判決が下る可能性はあるのだ。

闇バイトに応募し、実際に犯罪行為に手を染めるうち、良心の呵責を感じる高校生は決して少なくありません。トクリュウ側は最初、特殊詐欺の『受け子』や『出し子』など比較的簡単な仕事を担当させ、応募者の反応を見ます。そして徐々に犯罪のハードルを上げていくわけですが、その過程で脱落者が出ます。例えば10人の高校生が闇バイトに加担したとして、最後に残るのは1人というイメージです。そして、その残った1人は良心の呵責を感じず、命令されたことは何でもやります。『刃物とバールで家にいる女性を殴り、金のありかを吐かせろ』と指示されても唯々諾々と従うのです」

指示役にも厳罰を科すべき

 藤原氏が取材を積み重ねていくうちに、闇バイトの応募者にはある共通した傾向が浮かび上がったという。それは金銭に対する異常な執着だ。

「かつて『若者のクルマ離れ』、『断捨離』、『ミニマリスト』など、消費欲や購買欲が減少した人々が話題を集めましたが、闇バイトの応募者は物欲と金銭欲が非常に強いのです。そして私が気になったのは、なぜ物欲が強く、金銭に執着するのか、取材を重ねても全く分からなかった点です。闇バイトの応募者は、まずカネが欲しいという欲望があり、その次はいきなり『ビッグになりたい』という夢に飛んでしまうのです。おまけに『ビッグ』の具体的なイメージを本人が描けていません。単にモノが欲しい、カネが欲しい、ビッグになりたい、という欲望だけを抱いているのです」

 今回の事件で少年法の見直しを求める議論が高まる可能性は高い。藤原氏は「私は指示役の厳罰化が必要だと考えています」と言う。

「暴力団の組長が組員に指示し、組員が殺人を実行したとします。この場合、組長が現場に不在でも共犯として重い刑罰を科す判決が一般的になってきました。一方、トクリュウの場合は指示役に厳罰が科されない判決が散見されます。トクリュウのグループ幹部でなく、末端の指示役であっても、強盗殺人罪の共犯として起訴され、死刑や無期拘禁刑の求刑が行われれば、彼らにとって指示役は“割の合わない犯罪”になります。抑止力が期待できるのではないでしょうか」

デイリー新潮編集部