「日本は置いてけぼり状態」すでに世界は”アメリカ弱体化”前提で動いている…それでも第3次トランプ政権誕生がささやかれる理由

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自らを「神の子」に模すトランプの陰には、清らかな心で神を信じる人々がいる。世界一の大国はなぜ、理解の及ばぬ言動を続けるのか。

【前編記事】『トランプの岩盤支持層「白人福音派」の頭の中をのぞいたら…「イスラエルを救うのは我々の役目」と盲信か』よりつづく。

加藤喜之(かとう・よしゆき)/立教大学教授。'79年、愛知県生まれ。東京基督教大学准教授などを経て、現職。'25年発売の著書『福音派 ―終末論に引き裂かれるアメリカ社会』(中公新書)が新書大賞2026の3位にランクイン

会田弘継(あいだ・ひろつぐ)/共同通信客員論説委員。'51年、埼玉県生まれ。'76年に共同通信に入社し、ワシントン支局長などを歴任。著書に『それでもなぜ、トランプは支持されるのか』など

アメリカ内部で深まった溝

加藤:アメリカとイスラエル、はたしてどちらが「真のイスラエル」なのか――この戦争を巡る対立軸は、ここにあると思うんです。カールソンはじめ反シオニスト的なMAGA派は、「アメリカ=イスラエル」と考え内政を重視して反対するのに対し、ホワイトら福音派の多くは、「イスラエルこそ神の国」だと信じて賛成しています。

会田:ただし、ごく普通の福音派の信者が、現実のイスラエルと聖書に書かれた「イスラエル」を同一視するのは、政治的な運動の産物でもあると思うんです。つまりイスラエルを支持する政治家が、自分たちの利益に沿うように福音派の信仰心を誘導している面もある。実際に共和党保守派は、'70年代から白人福音派を政治に動員し始め、'80年にはレーガン大統領当選という結果を残しました。

'70〜'80年代にその背後で起こっていたのが、アメリカでの階層分化と固定化です。グローバル化が進み、ニューヨークやシリコンバレーには世界中から有能な人材が集まって、その中から大富豪が生まれる。さまざまな宗教やジェンダーの人々と触れ合ったエリートの間では、多様性こそが先進的だというリベラルな価値観が形成されます。

一方で中西部や南部に住む「取り残された人々」は、低賃金のサービス業に従事し、アメリカン・ドリームは望めない。そこにエリートからリベラルな価値観を一方的に押しつけられて、信仰を含む自分たちの古き良き暮らしを否定された結果、大きな反発が生じました。経済的な格差に文化摩擦が絡み合い、そこに生じた底辺の怒りが政治家に利用される―それが現在のアメリカの基本構造です。

加藤:現在の保守派も、細かく思想を見ていくとかなり幅があります。にもかかわらずトランプ支持でまとまっているのは、「反リベラル」「反エリート」という共通目標があるからでしょう。同じく福音派がずっとトランプを支持しているのも、彼が反リベラルだからです。

「トランプは内政で何もできなくなります」

会田:思うにアメリカ社会は、'60年代以降に急速に変わりすぎました。そこから取り残された人たちには、「エリートがやっていることをすべてぶち壊してほしい」という破壊的な欲求がある。そうした不満がなければ、ヘグセスのような人物が国防長官になれるはずがありませんから。

加藤:その時期の急激な変化が宗教的な反動、つまり保守的な価値観を重んじる福音派の興隆をもたらしたとも言えそうです。ただ誤解しないでほしいのですが、すべての福音派が過激な思想の持ち主というわけではありません。ヘグセスのように考えている人はごく一部に過ぎない。

会田:おっしゃる通り、福音派の多くは常識的な人たちです。しかも宗教的な態度というのは、その人の一側面に過ぎません。

加藤:戦争の先行きはまだまだ不透明ですが、会田さんは今年11月に行われる中間選挙をどう見ていますか?

会田:上院は共和党が多数を維持すると思いますが、下院は民主党に奪われるでしょうね。そうなるとトランプは、内政では何もできなくなります。おそらく残りの2年間、下院はずっと大統領の弾劾裁判を続けるでしょうから。

追い込まれた彼は、大統領の権限が強い軍事と外交で成果を残すしかない。ますます深く中東にはまり込み、後戻りできなくなるでしょう。最後にほくそ笑むのは、アメリカを利用しきったネタニヤフだけでしょうね。

ささやかれる「第3次トランプ政権」

加藤:中間選挙については、会田さんのおっしゃる通り共和党が負ける可能性が高い。そのうえで、'28年には大統領選も待ち受けています。

会田:共和党の候補としてよく名前が出るのはヴァンスですが、イラン攻撃で経済が混迷を続けると、出馬しても損と見て見送るかもしれません。

加藤:そもそもヴァンスやティール、キャスが目指している保守主義は、トランプ的なものとは大きく異なるはずです。おそらく彼らはトランプを手段としか見ておらず、彼に'60年代以来のリベラルな価値観を破壊し尽くしてもらって、更地に理想のアメリカをつくろうとした。ただそう簡単に懐柔できるはずもなく、今や逆に振り回されています。

会田:トランプもそれを見抜いているはず。だから最近はイラン攻撃に否定的なヴァンスに代わって、何かとルビオを頼っていますよね。

加藤:中には「トランプが3期目の大統領をやる」と予想する人もいます。もちろん憲法の規定上かなり難しいですが、それでも話題に上るのは、トランプ以外に候補がいないから。個人的には、政治評論家のカールソンのような庶民受けしそうな人物が出れば、保守の統一候補になりうると思います。

少し前にワシントンで現地の研究者と話したとき、「トランプとカールソンはどちらも、ええとこの坊ちゃんだから好かれるんだ」と言われて、妙に納得しました。ヴァンスは生い立ちが悲惨なので、ハングリー精神が強すぎて、人々の共感を集めにくい。

民主党の対抗馬は、弱冠36歳の元教師

会田:一方の民主党は、クリントンやオバマのようなエリート候補が出てもまず勝てない。社会主義者のサンダースや、「家賃をゼロにする」などの政策を掲げるニューヨーク市長のマムダニみたいな、極端な再分配論者が登場すれば、人々も熱狂して左に流れるかもしれません。

あるいは、テキサス州で民主党から連邦上院選に出る36歳のジェームズ・タラリコも、ダークホースとしてありうるかもしれない。'92年にクリントンがスッと現れてブッシュに勝ったように、戦争に飽きた人々がフレッシュな候補を求める可能性は考えられます。

加藤:ここでもやはり、情勢を左右する一因は福音派です。'08年にオバマは、福音派の中でも比較的リベラルな人々を取り込むことに成功して、中西部の接戦州で票を伸ばしました。当時以上にリベラル化した民主党から出馬して、タラリコにそれができるかどうか、ひとまず11月の上院選の結果次第ですね。

会田:いずれにせよこれからのアメリカ政治は、ますます大きく左右に振れるはずです。そうなると日米関係も再考を迫られるでしょう。

加藤:戦後80年にわたって、日本とアメリカはリベラルな価値観を共有してきました。ところが当のアメリカが現在の秩序を自ら破壊し、かなり異質な国へと変貌を遂げている。それにただただ追従していくというのは、合理的でも戦略的でもないでしょう。今後アメリカとどう付き合うのか、どのラインまでなら妥協できるのか、しっかりと考える好機とも言えます。

会田:以前からトランプは「NATO脱退」をほのめかしているけれど、ヨーロッパはすでにアメリカが「いない」前提で動いています。もちろん日米同盟とは事情が異なりますが、日本も彼らのように「同盟後」を見据え始めないといけないのかもしれません。

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「週刊現代」2026年5月11日号より

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