国税庁

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 税務当局が近年、税金滞納者の暗号資産の差し押さえに動いている。

 ここ数年で暗号資産の利用が急速に広がったためだが、滞納者の管理方法によっては現行法で徴収できない「抜け穴」があり、国は実効性を高めるため、法整備を進めている。(増田尚浩、高松総局 植村卓司)

円で払い戻し

 関係者によると、四国の個人事業者は2015〜17年の3年間、所得を申告しなかった。高松国税局に指摘され、分割納付を行っていた途中で亡くなった。

 同国税局がこの人物の財産を調べる中で、「ビットコイン」「イーサリアム」などの暗号資産を保有し、交換業者が管理していることが判明。親族が相続放棄していたため、同国税局は昨年2月頃、暗号資産を差し押さえた。

 金額は取材上、わかっていないが、今回の差し押さえに最低限必要な費用約100万円を差し引いても、滞納分の回収につながる金額だったとみられる。

 国税庁の統計では、国税の新規滞納額は19年度の5528億円から増加傾向で、24年度は9925億円。同庁徴収課によると、数年前から、滞納者の暗号資産を調べ、保有が判明した場合は差し押さえ、交換業者から「円」で払い戻しを受けている。ただ、そうしたケースはあまりなく、差し押さえ件数は少ないという。

 地方税についても同じ状況だ。大阪市では、市税の滞納者に対する預金や不動産などの差し押さえは24年度、約2万4100件で、このうち暗号資産は1件、25年度(3月6日時点)も3件にとどまった。市収税課の担当者は「交換業者によって照会の手順が違い、個別にやり取りしていくため、預金に比べ、差し押さえに手間がかかる」と話した。

拘禁刑・罰金へ

 現行制度では徴収できない場合もある。

 滞納者が保有する暗号資産は、一般的には交換業者の管理下に置かれ、国税徴収法上、滞納者の銀行預金と同様に差し押さえることができる。

 一方、暗号資産は、財布にあたる「ウォレット」として、本人がスマートフォンなどで管理することもできる。この場合、徴収手続きの規定がなく、税務当局は対応できなかった。暗証番号にあたる情報は本人しか知らず、滞納者が差し押さえを拒むと、それ以上の手立てがなかった。

 財務省主税局によると、数億円の所得を申告していなかった滞納者について、暗号資産を保有していたが、個人管理だったため、差し押さえられなかったケースがあったという。

 個人管理による保有方法が税逃れに使われている可能性もある。昨年11月、納税に関する国の検討会で、個人管理分が徴収できない課題が報告されると、X(旧ツイッター)では、「ウォレット最強説」「国家権力が介入できない」といった投稿がみられた。

 同省は2月、暗号資産を「特定電子移転財産権」と定め、個人管理でも差し押さえられるようにする同法の改正案を国会に提出し、3月に成立した。

 改正法では、税務当局が滞納者に対し、職員が管理するウォレットに暗号資産を移すよう命じることができる。滞納者が応じない場合、3年以下の拘禁刑か250万円以下の罰金、またはその両方が科される。来年4月に施行される予定。

 同省主税局の担当者は「適正な納税につなげたい」としている。

「逃げ得」許されず

 暗号資産に詳しい国税OBの坂本新税理士の話「暗号資産の価格変動が大きいことや、交換業者が税務当局の問い合わせに慣れておらず対応が遅いことなどから、差し押さえを躊躇(ちゅうちょ)してきた面がある。法改正で個人管理分の『逃げ得』が許されなくなり、今後、差し押さえが増える可能性がある。税務当局は、暗号資産などの新たな財産のあり方に都度、対応しないといけない」

 ◆暗号資産=インターネット上で取引される「仮想のお金」。交換業者に口座を登録し、入金すると購入できる。日本暗号資産等取引業協会の統計によると、暗号資産の口座開設数は1月時点で約1400万口座で、4年前から約2・5倍に増えている。