松本若菜

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 NHK BSとBSプレミアム4Kで放送中の「対決」(日曜22:00〜22:45)をご存じだろうか。松本若菜と鈴木保奈美が対決する社会派ドラマで、メディア文化評論家の碓井広義氏は今期イチ押しという。全5話の最終回を前に、その魅力を語って貰った。

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 松本若菜・主演のドラマ「対決」から目が離せないでいる。原作は月村了衛の同名小説で、脚本は昨年放送の「恋は闇」(日本テレビ系)などの渡邉真子が手がけた。

 物語の軸となるのは統和医科大学が入試において女子受験生の点数を一律に減点していた問題だ。真相にたどり着くべく新聞記者の檜葉菊乃(松本)がアプローチしたのは、事務職員から理事に抜擢された神林晴海(鈴木保奈美)。檜葉は同じ女性として「女性差別」を見過ごせないはずだとの判断から神林に証言を求めるが、撥ねつけられる。

松本若菜

 やがて檜葉たちの取材が核心に迫ってきたことを知った神林は、医大志望である檜葉の娘・麻衣子(豊嶋花)を裏口入学させることを条件に記事の掲載を取りやめるという取引を申し出る。これを檜葉は断固拒否した。これまでの“対決”は互いに一勝一敗。さらに、医学部教員の女子学生に対するセクハラ問題も浮上中だ。

 檜葉は調査報道の矜持を背負い、制度的不正を暴こうとする。一方、大学組織の中枢に立つ神林は、医療現場の逼迫や人員配置の現実を知り尽くしている。夜勤、当直、長時間労働といった制度が男性医師を前提に作られている以上、女性医師が増えると現場が破綻する。その“構造の暴力”を神林も分かっているがゆえに、彼女は不正を「組織防衛」として受け入れてきたのだ。

実話をモチーフに

 物語全体の核は“女性差別”にあると言っていい。しかし、ドラマは「女性=被害者」「男性=加害者」という単純な構図を採らない。女性が組織の中でどのような“役割”を与えられ、どのように組織の論理に“加担”させられていくのかを丁寧に描いていく。神林も差別を肯定しているのではなく、制度の中で“合理性”を認めざるを得ない立場にある。その姿は痛みを伴うリアリティを視聴者に突きつける。檜葉はそこに切り込む。「制度が間違っているなら変えるべきだ」と。

 このドラマには「モチーフ」がある。2018年に発覚した東京医科大学などの医学部不正入試事件だ。女子受験生の点数を一律に減点し、合格者数を抑える操作が長年行われていた。背後には、女性医師は出産・育児で離職することが多く、そのため医師の確保が困難になる現場の事情があったという。当時、女性差別として社会的に大きな批判を浴び、司法により断罪された。

胸に残る演技

 本作が優れているのは事件の再現ではなく、事件を生み出す“空気”を描いた点だ。違和感を覚えながらも沈黙した人。自分には関係ないと目をそらした人。組織の論理に従った人。こうした行為が積み重なることで、制度的不正義は温存される。ドラマはその構造を可視化していく。

 社会派ドラマはしばしば「白」か「黒」かを明確にし、正義と悪を対立させる。しかし、「対決」は違う。「グレー」のままにしておく罪に踏み込むことで、視聴者自身の姿を映し返す。私たちはどれだけの場面で見て見ぬふりをしてきただろうか。どれだけの瞬間に沈黙を選んできただろうか。

「正しい道とは何なのか」……主演の松本は、その問いを押しつけがましくなく、しかし確実に、胸に残る形で投げかける。「対決」は、彼女のキャリアにおいても、現代の社会派ドラマにおいても、“グレーの時代”を照らし出す作品として記憶されるのではないだろうか。

 最終回となる第5話は5月3日(日)午後10時からの放送だ。

碓井広義(うすい・ひろよし)
メディア文化評論家。1955年生まれ。慶應義塾大学法学部卒。テレビマンユニオン・プロデューサー、上智大学文学部新聞学科教授などを経て現職。新聞等でドラマ批評を連載中。著書に倉本聰との共著『脚本力』(幻冬舎新書)、編著『少しぐらいの嘘は大目に――向田邦子の言葉』(新潮文庫)など。

デイリー新潮編集部