「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」南沙良

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 春から初夏へ、さわやかな風が吹く季節となった。いつまでもこのままで……と願ってしまうが、短いからこそ心地良さを強く感じるのかもしれない。まるでティーンの青春時代のようなこの時期には「悩める高校生」を描く映画が良く似合う。映画解説者の稲森浩介さんがとっておきの5本を紹介する。

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歌うことで繋がる

〇「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」(2018年)

 連載時に大きな反響を呼んだ、押見修造の漫画の実写化。

 高校入学式の日、吃音の症状がある志乃(南沙良)は、クラスの自己紹介でどもってしまい笑われてしまう。授業の時に当てられてもうまく答えられずに、自分の殻に閉じこもり、外に出て1人でお弁当を食べる日々だ。

「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」南沙良

 加代(蒔田彩珠)は常に冷めた態度で、1人でいる同級生。あることから加代と知り合いになった志乃は、カラオケルームで「翼をください」を歌う。歌はどもらずに歌えるのだ。その歌声に感動した加代から、2人でバンドを組んで秋の文化祭で歌うことを提案される。何かが変わる予感がした……。

 2人のバンド「しのかよ」が路上ライブで歌う曲は、「あの素晴らしい愛をもう一度」だ。何かを見つけたい、誰かと触れ合いたい。2人の歌声を聴いているとそんな思いが伝わってくるようだ。そして文化祭の日を迎える。

 きれいな歌声を披露している南は「幼な子われらに生まれ」(2017年)で俳優デビューし、翌年の本作で早くも初主演をはたした。鼻水をずるずると垂らし号泣する演技は、ブルーリボン賞など数々の映画賞を受賞する。

 近年も「愛されなくても別に」(2025年)、「万事快調〈オール・グリーンズ〉」(2026年)「禍禍女」(2026年)など主演作が続く、いま最も注目されている若手女優だ。今年6月公開の「マジカル・シークレット・ツアー」では有村架純、黒木華と共演。金の密輸の闇バイトに手を染める、未婚で妊婦のキャバ嬢役が話題になっている。

あの時の少女は今

〇「時をかける少女」(1983年)

 1980年代の「アイドル映画」の代表作の一つで、原田知世のスクリーンデビュー作だ。

 満開の桜が校庭に咲き誇る4月。高校2年生の和子(原田知世)は、理科の実験室でフラスコから立ち昇る煙に包まれ意識を失う。クラスメイトの吾朗(尾美としのり)と一夫(高柳良一)に、それはラベンダーの香りだったと告げる。和子はそれ以来、不思議な現象に襲われるようになった。時空を超える能力を身につけたのだ。

 本作が成功した理由の一つは、広島・尾道を舞台にしたことだろう。クラシカルな街並みは、詩情あふれる物語と相性がいい。「転校生」(1982年)、「さびしんぼう」(1985年)と合わせて大林宣彦監督の「尾道三部作」と呼ばれ、ロケ地には多くのファンが訪れた。

 原田は、この後も「天国にいちばん近い島」(1984年)、「早春物語」(1985年)、「私をスキーに連れてって」(1987年)と立て続けに主演し、バブル期へ向かう日本映画界を疾走する。

 同じ角川映画の薬師丸ひろ子がしっかりした優等生的ヒロインだったのに対し、原田知世は少し頼りなげで、はかなさを感じさせるイメージだった。ファンからすると「守ってあげたくなる少女像」だろうか。

 昨年原田は、読み書きができない夫(笑福亭鶴瓶)が妻にラブレターを書くという、「35年目のラブレター」に妻役で出演した。これを観るとかつての透明感のある少女が、とても素敵な女性に成長したことがわかり何とも感慨深い。

 デビューから43年、ファンは今でも原田を追いかけていることだろう。

ひたむきな同級生

〇「のぼる小寺さん」(2020年)

 高校に入学したのはいいが、どこかやる気がでない。でも一つの出会いから新しい世界が見えてくることもある。

 新入生の近藤(伊藤健太郎)は、何となく入部した卓球部で目標のない日々を過ごしていた。5月のある日、同級生の小寺(工藤遥)がボルダリングをする姿を見かけ、そのあまりにも真剣な姿に見入ってしまう。

 近藤以外にも、不登校気味の女子生徒や周りに馴染めない髪の長い男子生徒、カメラ雑誌に投稿している女子生徒などが、小寺を見ているうちに自分自身を見つめ直し、新たな目標を持つようになる。

 小寺は進路調査票の第一志望に「クライマー」と真面目に書き、教師にあきれられる。でも、校庭の隅に放置された花壇に水をやる、誰にでも親切に接する裏表がないまっすぐな性格。どこか間違えば、いじめの対象になるかもしれないと心配するほどひたむきな人なのだ。

 ひたすらボルダリングに打ち込む生徒を演じるのは、モーニング娘。出身の工藤遥だ。2018年から俳優に軸足を置き、本作が初主演映画だった。ボルダリングはまったくの初心者で、3カ月の特訓をし、ほとんどスタント無しで取り組んだという。小寺自身の心の内が語られることはなく、クライミングウォールを登る姿と表情で「小寺さん」というキャラクターを演じている。

 そういえば、高校時代に小寺さんのような人がいたような気がする――そんな懐かしい気持ちになる清々しい作品だ。

恋・友情・スポーツの青春映画

〇「春待つ僕ら」(2018年)

 次に紹介するのは、友人を作れずに悩む女子高生が、四天王と言われる男子生徒たちと出会い変わっていく物語だ。

 高校に入学した美月(土屋太鳳)は、友だちを作れなかった中学時代を繰り返したくなかった。しかし、何をやっても報われず、相変わらずの一人ぼっちだ。そんな美月のバイト先に、同じ学校のバスケットボール部員、永久(北村匠海)、恭介(磯村勇斗)、竜二(杉野遥亮)、瑠衣(稲葉友)が現れる。

 美月は派手な彼らを敬遠していたが、次第に心を許し始める。特に永久の真面目な人柄に惹かれ始めた頃、幼馴染みの亜哉(小関裕太)と再会する。亜哉は高校バスケット界の期待の選手で、4人のライバルだった。

 学内の生徒たちが美男美女ばかりで現実味がないとか、設定がありきたりだという声もあるかもしれない。しかしこの作品、意外にも物語に引き込まれるのだ。

 その理由の一つは、今や誰もが主役級の俳優に成長した実力者を揃えていることだろう。土屋は「私にとって制服ものはこれが最後かなと思って、女優の卒業試験のつもりで臨んだ」と公開当時に語っている。

 もう一つはバスケットの試合のリアルさだ。スポーツ場面がある作品は、実際の競技の迫力が再現できずに興ざめしてしまうことがある。しかし本作は本物の試合を観戦しているように楽しめる。

 それもそのはずで、小関を除く4人はバスケ経験者。それでもクランクインの数カ月前から特訓を続け、日を追うごとにチームの一体感が出来上がったという。

 恋、友情、スポーツと、青春映画の必須アイテムが揃った王道映画を楽しんでもらいたい。

開演までの2時間

〇「櫻の園」(1990年)

 4月の創立記念日に、毎年チェーホフの「櫻の園」を上演する女子高演劇部が舞台だ。

 開幕2時間前の早朝の部室、部長の由布子(中島ひろ子)がパーマをかけた髪で登校し部員たちは驚く。紀子(つみきみほ)はタバコを吸って補導されたことがわかる。知世子(白島靖代)は、主人公のラネフスカヤを演じることが不安だったが、由布子が優しく励まし2人の間にある感情が芽生えた。やがて幕が開こうとしている。

 ほとんどの場面が部室で撮影されていて、作品自体が舞台劇のよう。少女たちの葛藤や揺らめきが淡い光の中に映し出される。

 本作で注目したい役者は、麻紀役の梶原阿貴。冷めた口調で学校や他の部員たちを批判する大人っぽい生徒役だ。現在は脚本家で、高橋伴明監督の「夜明けまでバス停で」(2022年)や「『桐島です』」(2025年)などを手掛けた。

 梶原は昨年「爆弾犯の娘」(ブックマン社)を上梓。1971年12月24日、新宿・伊勢丹前の交番が爆破される「クリスマスツリー爆弾事件」が起きた。彼女の父親はその犯行に加わった過激派の1人で、妻と娘と共に逃亡生活を送った。その後、父親は出頭して刑に服するが、彼女は逃亡中や刑務所訪問などの苦しくて奇妙な日々を綴っている。犯人の家族がこのような手記を書くことはとても珍しい。

 やがて梶原は役者を目指し「櫻の園」のオーディションを受ける。その時の様子や撮影時のエピソードが細かく書かれているので、作品ファンには一読をお勧めしたい。

 高校生映画の名作と誉れ高い本作は、特に男性ファンが多いという。それは、女子高とは男性が踏み込めない“園”という思い込みからくるものかもしれない。

稲森浩介(いなもり・こうすけ)
映画解説者。出版社勤務時代は映画雑誌などを編集

デイリー新潮編集部