(左から)黒木華、野呂佳代

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出だしは鈍かった

 政治ドラマはまず当たらない。ドラマ界の定説である。過去の作品は現実味が乏しかったり、エンターテインメント性に欠けていたりしたからだ。黒木華(36)が主演しているフジテレビ系「銀河の一票」(月曜午後10時)はどうなるだろう。【高堀冬彦/放送コラムニスト、ジャーナリスト】

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【写真】ミニスカから“生脚”があらわに…「野呂佳代」の意外な一枚

 20日に放送された「銀河の一票」の第1回の個人視聴率は2.9%(世帯5.0%)。民放プライム帯(午後7〜11時)に15本ある春ドラマの第1回の中で、10番目だった。

 制作は関西テレビ。各局とも系列局がつくったドラマの事前PRは手薄になりがちだが、それを割り引いても好スタートとは言いがたい。

(左から)黒木華、野呂佳代

 政治ドラマというだけで敬遠した人もいるのではないか。これまでの政治ドラマの多くは現実味、あるいはエンタメ性に疑問符が付き、面白くない作品が多かったからだ。「サバイバー 宿命の大統領」(2016年)など政治ドラマの大ヒット作が次々と生まれる米国とは事情が異なる。

 ここ数年だと、櫻井翔(44)が疑惑の政治家を演じた同「笑うマトリョーシカ」(2024年)の視聴率が低迷した。香取慎吾(49)が区長を目指す男に扮したフジ「日本一の最低男」(25年)も同じだった。

 どちらも現実味に難があったのが大きな理由だろう。視聴者はニュースなどで政界の様子をかなり知っている。現実味の乏しい作品は歓迎されない。

「銀河の一票」の佐野亜裕美プロデューサー(43)も過去に政治ドラマをつくっている。政界とテレビ局の堕落、冤罪の怖ろしさを描いたフジ系「エルピス−希望、あるいは災い−」(2022年)である。

 このドラマは一部で高く評価されたが、幅広い支持を得るには至らず、視聴率は低かった。この作品も現実味に難があったことなどが理由と見ている。

 たとえば冤罪物でもありながら、主体的に関係するはずの検察の影が薄かった。なにより、警察出身の大物政治家が警察組織を自由に操れてしまったところに無理を感じた。

 警察組織は巨大だから、一枚岩ではない。権力闘争がある。1人のOBの思惑で冤罪を隠蔽するのは不可能。現実に警察出身の大物政治家だった後藤田正晴さんですら、警察組織内にアンチが存在し、暗闘を繰り広げていた。

「銀河の一票」はどうかというと、現実味もエンタメ性も十分感じられる。実際の政界へのメッセージと受け取れる言葉もあり、気骨もある。硬軟のバランスも良い。政治ドラマの転換点となる作品ではないか。

 どうして、このドラマには現実味があるのか。確認したい。まず主人公の星野茉莉(黒木華)は与党・民政党の幹事長秘書を務めていた。父親の星野鷹臣(坂東彌十郎)が幹事長だからである。幹事長室のある民政党本部がどこにあるのかは開示されなかったが、衆参議員たちの事務所のある東京・永田町の議員会館ではなかった。

 多くの政治ドラマは与党の幹部であろうが、議員会館を拠点にしてしまう。面倒だからかも知れないが、あり得ない。議員活動と党務は別。こういった部分で手間を惜しむと、全体の現実味が損なわれてしまう。

「笑うマトリョーシカ」は厚労相、官房長官を歴任する清家一郎(櫻井)がほとんど議員会館にいた。非現実的だった。厚労相が省内にいないと、決裁を待つ職員が困ってしまう。

リアリティーは十分

 今回の物語では東京都知事が辞任する。理由は毒まんじゅう(不当な献金)を食ってしまったから。「本当に食っちまうとはなぁ」(鷹臣)。過去にあった本当の話だ。ある法人から不透明なカネを受け取った都知事が、議会の追及を受けて辞任した。もちろん制作側はこの一件を意識しているはず。この点も現実味は申し分なかった。

 知事辞任による選挙は50日以内に行うと公職選挙法は定めている。都知事選について民政党の若手有力議員・日山流星(松下洸平)は茉莉にこう言った。「実質、人気投票だからね」。ドラマが都知事選を人気投票と言い切ってしまうのは前代未聞だろうが、これも現実的だった。

 都知事選は浮動票が大量にあるから、地盤(組織力)、看板(知名度)、カバン(選挙資金)の3バンが決め手にならない。風を起こせれば誰にでも勝機がある。

 これも実例がある。1995年の都知事選のとき、世界都市博覧会の中止を訴えた青島幸男さんが、自民など与野党5党が推した石原信雄・元内閣官房副長官に圧勝した。都市博への反発もあって、青島人気は一気に過熱。組織力など意味を持たなかった。

 この作品では茉莉がスナックの雇われママ・月岡あかり(野呂佳代)に都知事選への出馬を促す。善意の塊のような女性だ。茉莉はいずれ自分が都知事になり、東京から国政を変えるつもりだったが、鷹臣と対立し、決別したことから、考えを変えた。

 あかりを担ぎ、当選させることで、民政党の旧態依然とした政治を叩きつぶそうとしている。自分よりあかりのほうが人間力で勝ると考えたのだろう。茉莉は副知事になり、あかりを補佐しようとしている。副知事なら政策も実現できる。

 都知事選を題材にしたのはうまかった。3バンが物を言う国政選挙では無名の新人にほとんど勝ち目はない。人気投票の都知事選ならチャンスがある。荒唐無稽な物語にならない。一方で選挙戦を見せればエンタメ性が生まれる。スポーツが熱狂を生むのと同じく、勝負事である選挙は人を惹き付けやすい。

 民政党の対立候補は日山。ごく普通の市民と若手有力議員の激突に有権者は沸くだろう。視聴者も勝ち負けに熱が入るのではないか。

賢治の言葉も登場

 ほかの政治ドラマとの大きな違いは「政治とは何か」まで伝えようとしているところ。それを解き明かすキーワードとして「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない」という言葉がたびたび登場する。宮沢賢治が『農民芸術概論綱要』に遺した一節だ。茉莉の政治信念になっている。

 ぜんたい幸福とは具体的には何か。この作品では社会的に弱い立場の人たちも幸せになることであり、その実現への努力を政治は忘れてはならないということだろう。

 鷹臣の後妻で茉莉の継母である桃花(小雪)は足が不自由。鷹臣は桃花の祖父が元首相だから政略結婚したらしい。鷹臣は桃花を対等に見ておらず、この作品はそれを冷ややかに描いている。

 茉莉は自分と鷹臣は違うと思っている。だから駅のホームで男性が点字ブロックの上にカバンを置いているのを見て、注意する。それでいて鷹臣と揉めて家を出ると、気が動転し、白杖を手にする視覚障がい者の進路を塞いでしまった。自己嫌悪に陥る。どんなときも弱い人の存在は忘れるなという演出だった。

 この作品はハンデのある人の存在をかなり強く意識している。それも旧来の政治ドラマとの大きな差。旧来の政治ドラマはハンデのある人が視野に入ってなかった。

 この作品にはもう1つ、エンタメの柱がある。楢ノ木医科大学の新座値利学部長が転落死を遂げ、直後に鷹臣宛てに「おまえが殺した」と書かれた封書が届いた。同病院では5年前、茉莉の実母・瑠璃(本上まなみ)が病気で息を引き取っている。

 転落死は瑠璃と関係があるのか。それとも鷹臣は厚労相経験者だから、厚労行政に関係しているのか。この件を茉莉が調べ始めたところ、鷹臣は激高し、2人は決別した。何が真相なのだろう。その謎解きがエンタメである。

 黒木は相変わらずうまい。政治の力を信じる純粋な女性にしか見えない。うまいのは当然でもある。2014年、松たか子(48)と主演した映画「小さいおうち」で、世界三大映画祭の1つであるベルリン国際映画祭で最優秀女優賞(銀熊賞)を受賞しているのだから。

 もっとも、黒木はこのところ役に恵まれない嫌いがある。世界が認める演技力を誇りながら、新たなヒット作となかなか出会えない。この作品は成功させたいだろう。

 その条件は整っている。共演の野呂は伸長著しい。この人は性格が演技に出るタイプらしく、親しみやすい好人物を演じたら、ピカイチだ。

 脚本は傑作の呼び声が高かったNHK「舟を編む」(2024年)の蛭田直美氏、チーフ演出はやはり絶賛されたNHK-BS「団地のふたり」(24年)の松本佳奈氏だ。

 これ以上ないほどの布陣が整っている。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社し、放送担当記者、専門委員。2015年に毎日新聞出版社に入社し、サンデー毎日編集次長。2019年に独立。前放送批評懇談会出版編集委員

デイリー新潮編集部