トランプ氏が“まさかの削除”…SNSにアップした「一枚の画像」がアメリカで猛批判された理由
〈「トランプは狂った犯罪者」支持者は離れ、他国からも批判…トランプ大統領が発した“禁句”とは〉から続く
4月20日までにロイター通信が行った世論調査で、ドナルド・トランプ大統領の支持率は36%と、第2次トランプ政権としては過去最低水準が続いている。前編(#1)ではイラン攻撃をきっかけとした“トランプ離れ”について取り上げたが、さらに今月、トランプ氏がSNSに投稿した“一枚の画像”が世界中から猛烈な非難を浴びる事態に。アメリカのリアルな反応とは? 在米ライターの堂本かおる氏が寄稿した。(全2回の2回目)
【画像】トランプ氏がSNSに投稿し、猛批判された「一枚の画像」

2026年3月19日(現地時間)、ホワイトハウスで日本の高市早苗首相と会談したドナルド・トランプ米大統領 ©CNP/時事通信フォト
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戦争を諫める教皇
トランプは自分を批判する者は、それが誰であれ、攻撃する。
ローマ教皇レオ14世はかねてより戦争に批判的であったが、トランプがイラン戦争をエスカレートさせるに伴い、トランプの名を出さないまま戦争批判のトーンを強めてきた。それを知ったトランプは教皇への攻撃を始めた。
4月5日、イースター(復活祭)の日にトランプは「ファッキン海峡を開けろ」「クレイジーなクソッタレども」「地獄で暮らすことになるぞ」に加え、「アッラー」の名さえポストした。
この日、教皇はバチカンにあるサン・ピエトロ大聖堂にて復活祭ミサを執り行っていた。その祈りの中で教皇はトランプおよびアメリカ/イスラエル/イラン、ロシア/ウクライナの名は出さず、しかし戦争を諌めた。
「武器を持つ者はそれを捨て去りなさい! 戦争を引き起こす力を持つ者は、平和を選びなさい! 力によって押し付けられた平和ではなく、対話を通じた平和を! 他者を支配したいという欲望によるものではなく、他者と出会いたいという願いによる平和を!」
移民問題を始め、社会問題に強い関心を持つことで知られる教皇は、戦争が死、憎しみ、分断だけでなく「経済的・社会的影響」をもたらすことも語った。ホルムズ海峡の封鎖による原油の供給停止を指していると受け取れる。
2日後にトランプがイランについて、「今夜、一つの文明が滅び、二度と復活することはないだろう」とポストすると、教皇はこれを「容認できない」とコメントした。
「戦争はもう十分だ」
4月11日、教皇はサン・ピエトロ大聖堂で「平和のための夕の祈り」を行った。ここでもトランプとアメリカの名は出さず、しかしさらに明確なイラン戦争批判があった。
「傲慢は他者を踏みつけ、愛は他者を高める。偶像崇拝は私たちを盲目にし、生ける神は私たちを照らす」
「自己と金銭への偶像崇拝はもう十分だ! 力の誇示はもう十分だ! 戦争はもう十分だ!」
さらに教皇は「戦争という狂気」「ドローン」「殺戮行為」「国際法の絶え間ない違反」といった言葉を使い、戦地にいる「子供たちの声に耳を傾けよう!」と訴えた。
教皇の言葉が自分に向けられていることを知ったトランプは、4月12日の夜に教皇を攻撃する長文をポストした。そこには「俺は教皇より、教皇の兄のルイ(MAGAを公表)のほうが好きだ」などに加え、「彼は教皇候補のどんなリストにすら載っておらず、アメリカ人であるという理由だけで教会に推されたに過ぎない」「もし俺がホワイトハウスにいなかったら、レオはバチカンにいないだろう」と、傲慢と侮辱の限りを尽くしている。
翌日、このポストについて記者に質問されたトランプは「教皇は間違っている」「謝罪するつもりはない」と言い切った。
教皇も11日間にわたるアフリカ訪問に向かう教皇専用機の中でトランプのポストについて質問され、以下のように答えている。
「私はトランプ政権を恐れてはいない」
「私は今後も戦争に強く反対し、平和を促進し、国家間の対話と多国間主義を推進して問題の解決策を見出していく」
激しい非難を浴びた“AI画像”
トランプは教皇批判の長文ポストとほぼ同時に、自身をキリストとして描いたAI画像もポストした。画像はキリストを思わせる衣装を着たトランプが黄金の光を発しながら病人(白人男性)の額に手を当て、病を癒している。その周囲を星条旗、自由の女神、戦死したと思われる米兵、戦闘機、アメリカの国鳥である白頭鷲などが取り巻いている。
この絵はトランプにとって痛恨のミスとなった。人間が自身を神として描くのは大いなる冒涜であるとして、信仰も支持政党も問わず、全方向からの激しい非難を浴びたのだった。
トランプの最も強力な支持層がキリスト教の福音派であることは周知だが、アメリカにはカトリック信者も多い。米国の成人人口のうちキリスト教徒は62%を占めるが、教派別では福音派の23%に次いでカトリックが19%となっている。
加えてレオ14世は史上初のアメリカ人教皇だ。当然ながら祖国アメリカの文化や社会を知っており、その政治動向にも強い関心を持っている。祈りはラテン語で行うことが多いが、アメリカのメディアにマイクを向けられれば英語で答え、メッセージはアメリカにダイレクトに伝わる。また、教皇の発言はカトリック系のメディアを通して全世界14億人のカトリック信者にも即座に伝えられる。
そもそも教派以前の問題として、自身を神にたとえたことをトランプは激しく批判された。当初トランプは、「絵の中の自分は神ではなく、医師だ」と苦しい言い訳をしたものの、翌日に画像を削除した。トランプはこれまで自分のポストをどれほど批判されても削除したことはなく、今回のキリスト画へのバッシングの強さが分かる。
ちなみに、米国の歴代大統領のうちカトリック教徒はジョン・F・ケネディとジョー・バイデンの2人だけだ。しかし現政権には大統領を目指すカトリック信者がいる。
国務長官のマルコ・ルビオは2016年の大統領選に立候補し、トランプと競り合っている。副大統領JDヴァンスは、ほぼ確実に2028年の大統領選に出ると見られている。ヴァンスは自身がカトリックであることを有権者に納得させる必要があり、プロテスタントからの改宗の経緯について綴った伝記『Communion: Finding My Way Back to Faith』(聖体拝領:信仰への道を見いだす)を6月に出版する。
トランプも教皇への攻撃を始める前より「神」の名を口にすることが増えており、これも政治的な意図によると思われる。トランプは「聖書の好きな一節」を聞かれても答えられないなど、敬虔なクリスチャンでないことは過去の言動から明白だが、表紙に自分の名を記した聖書を売り出したり、新たに「信仰局」を設置してホワイトハウスでの祈りのシーンを公開するなど、キリスト教徒の票を掴むために躍起になっている。いずれもアメリカの社会と政治に宗教がどれほど深く関わっているかがわかる事例と言える。
そのトランプは4月15日に再度、キリストの画像をポストした。トランプのフォロワーがポストしたもののリポストだが、今回は敬虔な表情のトランプがキリストに抱かれている姿だ。
精神疾患を疑う声も
トランプのあまりの暴言と奇行により、その精神状態を疑問視する声が強まっている。
「Fuckin'」「basterd」「低IQ」「retarded」など常軌を逸した罵倒語の乱発は大統領という地位を認識できていないだけでなく、他者への攻撃性の強さを表している。ローマ教皇への執拗な攻撃も然り。自国アメリカを含む世界中に経済的混乱を招いてもなお、イラン戦争で「勝つ」ことに執着しているのも同じと言える。
「彼が死んでくれて嬉しい」
他者への共感性、特に死に対する感覚が欠落している。
自身の2016年の選挙運動とロシアとの関連を捜査した元FBI長官ロバート・マーラーが今年3月に亡くなった際、トランプは「よかった、彼が死んでくれて嬉しい」とポストした。
昨年末、著名な映画監督でトランプ批判でも知られたロブ・ライナーが妻と共に精神疾患を持つ息子に殺害された事件では、「死因はトランプ錯乱症候群(TDS)と呼ばれる、精神を蝕む重篤で不治の病による激しい怒りだったとのこと」と、非常に不謹慎なジョークを書き込んだ。
2021年、ブッシュ政権の国務長官だったコリン・パウエルの死に際しては、「典型的なRINO(名ばかりの共和党員)」と書いた。パウエルがトランプを批判し、2016年と2020年の大統領選でトランプに投票しなかったことが理由だ。
演説中の“奇妙な言動”
また、トランプは演説や会議の最中に本題と全く関連のないことを、唐突に、かつ延々と語ることが増えている。ニューヨーク・タイムズはその例として、「クリスマスのレセプションでペルーの毒蛇について8分間もとりとめなく語る」「閣議中にシャーピーペン(愛用のマーカー)について長々と脱線」「イラン情勢に関する報告の途中で話を遮ってホワイトハウスのカーテンを称賛」などを挙げている。
問題は、現政権の誰もがトランプを恐れて何も言わないことだ。
トランプの大統領第1期には、多数の精神科医たちが声を上げた。患者を直接診ることなく診断を下すのは医師として絶対的なタブーだが、27人の精神衛生の専門家が敢えてそのタブーを犯し、トランプの精神状態を論じる書籍『The Dangerous Case of Donald Trump: 27 Psychiatrists and Mental Health Experts Assess a President』(ドナルド・トランプの危険な症例:27人の精神科医とメンタルヘルス専門家が大統領を評価する)を出版した。当時、この本は話題となったが、トランプを罷免する法的な力はもちろんなかった。
大統領を辞めさせる動き
今回は、職を履行できない大統領を罷免する「憲法修正第25条」の発動が問われている。直接の理由は、イランの「文明全体を滅ぼす」発言だ。
4月14日、民主党のジェイミー・ラスキン下院議員が筆頭となり、憲法修正第25条を発動すべきかどうかを審査する委員会を設置する法案を提出した。ただし、法案の通過、委員会設置から罷免に至る過程は複雑であり、仮に最終段階までこぎつけた場合も副大統領であるJDヴァンスの承認が必要となる。
ヴァンスは議員となる以前はトランプを激しく批判しており、2016年の大統領選の最中にトランプを「アメリカのヒトラー」「まぬけ」と呼んでいる。同時期にトランプがテレビ番組のリポーターと交わした会話「(自分が)スターになれば女性はなんでもさせる。女性器のわし掴みもできる」という2005年の会話が暴露された時には、「キリスト教徒の皆さん」「主よ、私たちをお助けください」とコメントしている。
しかし、ローマ教皇レオ14世が神の名において戦争反対を訴え、トランプが教皇を攻撃し続ける中、ヴァンスはこう語った。
「教皇が神学について話す際、非常に慎重であるべきだと思う」
副大統領といえども一人のカトリック信者であるヴァンスが、世界14億人のカトリックを代表する教皇に神学の扱いを指図したのだ、トランプを擁護するために。JDヴァンスが憲法修正第25条を発動するとは思えない。
追記:
4月15日:アフリカ歴訪中の教皇レオ14世はカメルーンにて、これまでで最も厳しい戦争批判を行った。
「災いあれ。自らの軍事的、経済的、政治的利益のために宗教や神の名そのものを操り、神聖なるものを闇と汚物の中に引きずり込む者たちに」
温厚な人柄で知られる教皇の口から「災いあれ」が出たことに多くが驚かされた。
イラン戦争は「ちょっとした気晴らし」
4月16日:トランプ大統領はラスべガスでの演説中に、イラン戦争は「ちょっとした気晴らしだ」と言い、世界中からさらなる批判を招いた。もっとも、このセリフはイラン戦争を終わらせる方法がなく、内心は途方にくれていることからの負け惜しみと言える。
4月17日:パリではフランスのマクロン大統領とイギリスのスターマー首相が率い、約50カ国が参加する会議が開かれた。「ホルムズ海峡の完全かつ即時、無条件の再開」を要求するもので、イタリアのメローニ首相、ドイツのメルツ首相もビデオではなく直接参加し、欧州の結束の強さを見せた。アメリカは招かれず、孤立を深めていると言える。
(堂本 かおる)
