父親に“タコ殴り”にされ、骨を折ったら「自転車で転んだと言いなさい」と…『バキ童』ぐんぴぃが明かす、つらい記憶の中で“唯一救われた瞬間”とは〉から続く

 人材育成・組織強化のサポートを専門とし、ビジネスメディアを中心に今最も注目されている起業家・坂井風太さんと、YouTubeチャンネル登録者数200万人を誇る大人気お笑い芸人「バキ童」ことぐんぴぃさん。

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 そんな異色のコンビが、会社や仕事にまつわる「理不尽」の対処法を指南する『理不尽仕事論 「クソが!!」と思った時に読む本』(文藝春秋)より一部を抜粋して紹介します。

 2024年のM-1で令和ロマンが披露したネタに気になるセリフがあったという坂井さん。“自己啓発界隈”が「よく言ってくれた!」と沸いた、そのセリフとは?(全4回の3回目/最初から読む)


坂井風太さん、ぐんぴぃさん ©平松市聖/文藝春秋

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M-1の令和ロマンのネタで自己啓発界隈が沸いた

坂井 今日のテーマは令和ロマンですよ。

ぐんぴぃ やめてくれ!! もういいよ、みんな語り尽くしてる!!

坂井 2024年のM-1の一本目のネタの中に結構気になるセリフがあって。「やらない後悔よりやって大成功」。

ぐんぴぃ はいはいはい、ボケでありましたよ。

坂井 “自己啓発界隈”の人たちが「よく言ってくれた!」ってなっていましたよ。

ぐんぴぃ いや、なってるかぁ!(笑)

坂井 あれはビジネス的にすごくいい言葉だなと思っていて。

ぐんぴぃ 嘘だろ!? 肩肘界隈からは輝いて見えたんですか?

坂井 肩肘界隈からは分析しがいのあるテーマでしたよ。まず「現状維持バイアス」というものがあるんです。ここから説明を始めます。

ぐんぴぃ 「何か挑戦したいけど今のままでいいじゃん」っていう。挑戦もちょっと億劫になっちゃう、みたいな感じですか。

坂井 まさにその通りで、今のままではちょっとまずいかもなと思いつつ、現状維持を選択してしまうというのが現状維持バイアスで、ビジネスでもよくあるわけですよ。「この事業はやった方がいいけど、新しいことをやるのは面倒くさいな」とか「転職や起業をした方がいいと思っているけど、今の勤務先の年収や仕事のやりやすさを考えると、ここにいるか……」みたいな。ちなみにぐんぴぃさんは、これは現状維持バイアスだなと思うことはあります?

ぐんぴぃ ダイエットしなきゃなと思うんですけど、いろんな理由をつけてやらない。歌舞伎町にある、セクシーな女性が胸をたゆんとさせながら僕らの腹筋を見てくれるジムに行きたいけど、恋愛に発展しちゃったらどうしよう……みたいな変なバイアスはあります。

坂井 それはバイアスじゃなくて、単なる妄想です(笑)。この現状維持バイアスを打破するヒントが、今回の令和ロマンさんの「やらない後悔よりやって大成功」にあったわけです。

ぐんぴぃ やって後悔じゃなく、大成功なんですか?

坂井 そうですね。今日は「後悔」について理論的に考えようという回なんです。

ぐんぴぃ 「後悔」を理論で考える。

「人が死ぬ時に後悔することランキング」上位は?

坂井 ぐんぴぃさんが今までの人生で一番後悔していることって何ですか?

ぐんぴぃ 一番で言えば、それこそ街頭インタビューで「童貞です」って言ったことですよ(笑)。あの時街頭インタビューを断っていれば、また違ったマシな人生だったんじゃないかなと。後悔はめっちゃしましたね。

坂井 でも、後悔って2種類あるんですよ。

ぐんぴぃ 後悔も2種類あるんですか!?

坂井 逆に、ぐんぴぃさんが死ぬ時に一番後悔しそうなことは何だと思いますか?

ぐんぴぃ うわぁ〜「童貞キャラとかやらないで、もっと自由に人生を謳歌すればよかった」とか。呪縛かもしれないですね。都度の後悔はめっちゃあるんですけどね。『あちこちオードリー』[テレビ東京]に出た時に、「佐久間(宣行)さんのせいでお笑いがマニアックになったんじゃないですか」って言おうと思ったけど、俺みたいな若造がこういうこと言っちゃあ……みたいにいろいろ思って結局言わなかった。終わった後に「なんで言わなかったんだろう、今しか言えないことなのに」って。言わなかった後悔の方がやっぱりずっと覚えています。

坂井 ちなみにそれは、2種類目の「不行為後悔」って言うんですよ。後悔には「行為後悔」「不行為後悔」の2種類があるんです。行為後悔というのは「愚かなことをしてしまったな」という後悔です。不行為後悔は「やった方がいいことをしなかった」という後悔。

ぐんぴぃ バキ童のインタビューに答えたっていうのが「行為後悔」ですね。

坂井 でも今、本当はどう思ってます?

ぐんぴぃ インタビューは結局仕事につながったりしたので、そこまで後悔していないですね。

坂井 そうなんですよ。それが大事で。緩和医療の専門医である大津秀一先生が『死ぬときに後悔すること25』[新潮文庫]という本の中で、1000人を超える末期患者が吐露した後悔を25項目に集約しているんですが、そのほとんどが不行為後悔なんです。「◯◯をしなかったこと」で人間は後悔している。例えば、「健康を大切にしなかったこと」「自分のやりたいことをやらなかったこと」「他人に優しくしなかったこと」「故郷に帰らなかったこと」「会いたい人に会っておかなかったこと」「愛する人に『ありがとう』と伝えなかったこと」「自分の生きた証を残さなかったこと」です。ということで、不行為後悔の方が後悔として残りやすいんです。なんでだと思います?

ぐんぴぃ やってないからじゃないですか?

坂井 それでいいです(笑)。理由は2つあって、1つ目が「ツァイガルニク効果」。

ぐんぴぃ 何言ってんだ! 架空の言葉だろ!

坂井 架空ではない(笑)。ググると出てきます。すごくシンプルで、「人は完了した課題はすぐに忘れるが、未完了な課題はよく記憶する」というのがツァイガルニク効果です。「今年のうちにあれやっとかなきゃな」とか「あのタスク漏れてるからメール返さなきゃ」とか。

ぐんぴぃ 未練が残っちゃうんだな、基本的には。

坂井 2つ目が「心理的免疫システム」。要は、辛いことを覚えておくと辛いから、脳が良い経験だったと正当化したり、失敗を挽回する行動を取ったり、忘れようとしたりするわけです。

ぐんぴぃ うわ、おもろい! そうか! バキ童のインタビューを受けたことは辛すぎるけど、「でもそのおかげで坂井さんに会えたから」みたいな感じで無理やり正当化してる。坂井さんに会えたから何なんだ!(笑)

坂井 そうなんですよ(笑)。行為後悔は「あれをやらなかったとしたらもったいなかったから、結果良かったじゃん」と思い込むから忘れちゃうんです。

ぐんぴぃ へえー! じゃあやった方がいいんですね。やって失敗したって気持ちよくなるんだから。

坂井 でも、ものすごく元も子もないことを言うと、結局「自信のある奴」は何も後悔しないんだろうなと。

ぐんぴぃ いいだろ、そんな奴は(笑)。

現状維持バイアスを打破する2つの方法

坂井 この不行為後悔を活用すると、冒頭の現状維持バイアスが打破できるわけです。「死ぬ時に後悔しそうなこと」を考えると一念発起して行動できるというのは、自己啓発あるあるです。スティーブ・ジョブズも「メメント・モリ(死を意識せよ)」と言っていたじゃないですか。現状維持バイアスを打破する方法は本当は2つあって、1つ目は「長期的に後悔しないことを選ぶ」という「後悔最小化戦略」。2つ目が「保有効果を倒す」。

ぐんぴぃ 2つあるよなぁ〜、坂井さんの話って。

坂井 保有効果は興味深くて、自分の今持っているものや地位などを過大評価する傾向のことです。「新たに得たいもの」より「今持っているものを失いたくない」という欲求の方が強い。

ぐんぴぃ あるある! 人間の欲求ってほぼそうですもんね。

坂井 ぐんぴぃさんが今失いたくないものは何ですか?

ぐんぴぃ 俺はこのバキ童ドリームから降りたくねぇ! このYouTubeの再生数を落としたくねぇ! YouTubeの再生数なんて全く気にしてなかったのに、ここまで伸びちゃったから、いつの間にかYouTubeのことを考えてる。手に入れちゃったものを減らすのが怖い。気にしないようにしてるんですけど。

坂井 それによって、ぐんぴぃさんはどういう行動をとっているんですか?

ぐんぴぃ YouTubeに使う時間を減らしてお笑いに使う時間を増やしたいんですけど、いつの間にか漫才やコントに使う時間が減ってる。「俺、こんなにYouTubeをやりたいんだっけ?」ってぞっとすることはありますね。でも1回手に入れたものを失いたくないという気持ちは誰しもあるだろうなぁ。これが保有効果か!

坂井 保有効果とは、持っているものを過大評価してしまっている現象なわけです。だから、「今持っているものは取るに足らない」と思えるかどうかが重要なんですよ。

ぐんぴぃ うわあ、いいですね! YouTubeも、もともと取るに足らないと思っていたはずなんですよ。

坂井 僕はギリ回避できたと思うんです。30歳の時に起業したのですが、当時DeNAの部長ポジションにいたんです。そこそこの年収があって、そこそこのポジションにいた。その時に「このポジションを捨ててまで起業して、めちゃくちゃ年収が下がるかもしれないし、子どもが生まれる予定もある。どうしよう」という悩みがあったんです。でも、「DeNAの部長って、世の中にとってすげえのか?」って気づいてしまい。別になんもすごくないし、取るに足らないと。

ぐんぴぃ そんなことないですよ(笑)。

坂井 大学時代に、肩肘界隈の頂点みたいな、起業する人たちのコミュニティにいたんです。その人たちの方がメキメキ実力をつけているし、時価総額数千億円の会社の部長よりも、数十億、数百億円の会社の執行役員や取締役の方がすごいと気づいてしまって。「自分が大事にしているもの、本当にいる?」と。唯一自分にとって大事なのは住宅ローンだと思って、速攻で家だけ買って会社を辞めたんですよ。でもぐんぴぃさんのYouTubeは、手放しちゃいけない、かけがえのないものな気がするんです。みんなの居場所ですよね。

ぐんぴぃ みんなの居場所になってますかね(笑)。でも確かに、僕も「取るに足らない」と思い込まないとブックオフを辞められなかったもんなぁ。もともと芸人になりたかったから、芸人にならないと死ぬ前に後悔すると思って、なんとか辞めて芸人になった。今の自分を否定できないと次に進めなかったですね、あの時は。

坂井 あと5年10年、ブックオフにいたらどうなっていたと思いますか?

ぐんぴぃ もっと地位もできて、辞められなかったと思います。

自由に生きるための「全力少年」

坂井 僕も、35歳まで会社に残ったら、キャリアを積み上げすぎちゃって辞められなくなることを一番恐れていたんですよね。

ぐんぴぃ うわあ、ギリギリだったんですね。

坂井 30歳を超えた先輩があんまり辞めないし、「起業しようかな」と言いながら転職もしないでずっといる。なんでなんだ? と思ったら、積み上げすぎているんですね。だから、積み上げる前に壊さなきゃいけない。岡本太郎が言うところの「積み減らす」です。これ、デジャヴだと思ったらスキマスイッチの「全力少年」だったんですよ。

ぐんぴぃ 「積み上げたものぶっ壊して」!(笑)

坂井 そう、これこれ! って。積み上げすぎると壊せなくなるから積み減らすか、限界を迎える前に何か違うことをしなきゃいけない。

ぐんぴぃ 違うことをする。

坂井 僕もある種、このラジオをやっている理由はそれでもあるんです。“肩肘”に寄りすぎているから、そこから積み減らすというか壊した方がいいなと思ったんですよね。

ぐんぴぃ そうしないと、今後坂井さんは自由に活動できないだろうなと。考えていらっしゃいますね。

〈トイレでもNetflixを見続け、忙しくても下北沢の劇場へ…佐久間宣行はなぜ新しいものを生み出し続けられるのか? 人気プロデューサーの“習慣”に学ぶ〉へ続く

(坂井風太,ぐんぴぃ)