娘夫婦とのイタリア旅は、ホテルに向かう車で強盗に襲われ最悪のスタートに。それでも「せっかく来たんだから」と旅を続けたら…
時事問題から身のまわりのこと、『婦人公論』本誌記事への感想など、愛読者からのお手紙を紹介する「読者のひろば」。たくさんの記事が掲載される婦人公論のなかでも、人気の高いコーナーの一つです。今回ご紹介するのは大阪府の70代の方からのお便り。娘夫婦と3人で行ったイタリア旅行で、まさかの事件が起こったそうで――。
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最悪で最高のイタリア旅
旅は非日常というけれど、今回は非日常をはるかに超えた、ドラマのような旅であった。娘夫婦と私の3人でのイタリア旅行。空港でレンタカーを借りて、ローマ市内のホテルに向かう道中から苦難は始まった。
詳細は割愛するが、車をパンクさせられ、中に置いていた娘夫婦のパスポートやクレジットカード、現金が入ったリュックとスマホ1台、それに私のスーツケースを根こそぎ奪われるという、とんでもない被害に見舞われたのだ。瞬時の鮮やかな犯行に私たちは言葉を失った。
すぐに地元警察に連絡し、レンタカーを現場に置いたままパトカーでホテルまで送ってもらう。悪夢のような事件に遭い、先のことは考えられなかったが、義息の「せっかく来たんだから、美味しいものでも食べてイタリアを楽しみましょう」と、ある意味能天気なひと言が、私たちを救った。そしてこの言葉が、後の素晴らしい出会いにつながっていく。
肩にかけていた私のバッグは難を逃れたため、中にあった唯一のカードで旅行を続けることができた。帰りの航空券の手配は、義息のご両親に頼むことに。翌日は、警察へ被害届けを提出し、書類を持って日本大使館を訪れ、帰国のための渡航書を発行してもらうのに1日を費やした。
3日目は、ローマ市内を観光した後、レンタカーを交換してもらうためにタクシーに乗り、車を置いた場所に向かう。ところが、約束した時間をとうに過ぎているのに、業者はいっこうに来ない。業を煮やしたタクシーの運転手さんが「タイヤを交換しましょうか」と提案してくれた。
私たちは一も二もなくその申し出にすがる。ほぼ一人でやってくれた運転手さんの手と腕は、油で真っ黒に汚れていた。この状況下、高額な費用を請求されてもおかしくないのに、なんと私たちが申し出た金額(カード払い)を、喜んで受け入れてくれたのだ。
盗難に遭い、自分たち3人以外は誰も信じてはいけないと、身を硬くしていた私たちの心に温かいものが流れる。最悪の思い出だけが残らないようにと、神様は私たちに素晴らしい出会いを与えてくれたのだと思った。
4日目は、新しいレンタカーで「イタリアで一番美しい村」のひとつといわれるボルテッラを訪れることに。中世の街並みがそのまま残されているきれいな景観に、どれほど慰められたことか。途中でガソリンを入れたが、カードが使えず現金が必要になったため、娘夫婦は私を車に残して、街の中心部のATMに向かった。
ところが2人はなかなか帰ってこない。またまた災難に見舞われ、カードがATMの機械に吸い込まれたまま、お金も出てこなくなってしまったのだ。近くの人に助けを求めると、エレーナさんという女性と10人くらいの人たちが親身になって打開策を考えてくれたそう。
そしてATMの会社に連絡がつき、翌日にはカードを取り出してくれることに。エレーナさんは、とりあえず未払いのガソリン代と、当面必要と思われる額を貸してくれると申し出てくれた。娘夫婦は2度目の地獄を見たが、ボルテッラの人々の善意の嵐に心揺さぶられる体験だっただろう。
結局、カードを取り出すのは手続き上無理だという結論になったが、それを受けて、エレーナさんはさらなる金額を貸してくれたのだ。お金が戻ってくる保証は何もないのに、無償の愛に触れた私は、涙を禁じえなかった。
恐怖と絶望の先で出会った、人々の善意と献身、その感動を3人で共有したことで、さらに深く結ばれた絆。失った物以上の財産を得た今回の旅であった。あのボルテッラのきれいな風景とともに、人々の美しい心を決して忘れない。
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