スマートフォンユーザーなら、誰もが一つは持っているモバイルバッテリー。しかし、連日のように発火事故が報じられると、「本当に安全なのだろうか」と不安になるものです。では、そもそもなぜ火災が起きるのでしょうか。信頼性の高い商品を選ぶためにやるべきこととは――。家電ライター・藤山哲人さんに解説してもらいました。(全3回の1回目/続きを読む)

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 NITE(ナイト:製品評価技術基盤機構)が2025年7月に発表したデータによれば、2020〜2024年の5年間に、モバイルバッテリーに使用されている電池に起因する事故が1860件報告されています。そのうち85%が火災事故につながっており、しかも事故件数は増加傾向にあるのです。

 しかし、こうした事故には必ず原因があり、前触れもなく突然発火・爆発する例は多くありません。必ずと言っていいほど「前兆」があります。ここでは、事故の原因や前兆の例を挙げながら、最悪の事態になる前に利用を中断するための“見極め方”を解説します。

モバイルバッテリーだけじゃない、家の中にある“火災の種”

 報道ではモバイルバッテリーが取り上げられがちですが、夏場に持ち歩くハンディファンやスマートフォン、パソコン、電動アシスト自転車のバッテリーでも発煙・発火・爆発事故は発生しています。次のグラフは、東京消防庁が発表した、2023年に発生したリチウムイオン電池搭載製品による出火件数(製品別)です。モバイルバッテリーの数が突出しているのは、普及率の高さが大きな要因です。

 多くの製品で発生している火災事故の根本原因は、内蔵されている「リチウムイオン電池」(正しくは「リチウムイオン二次電池」ですが、本記事では「二次」を省略)にあります。

 軽量で大容量なため、スマートフォンやデジタルカメラ、ワイヤレスイヤホン、加熱式たばこ、ハンディファンなど、充電式機器のほとんどにリチウムイオン電池が使われています。つまり、これらの機器はすべてモバイルバッテリーと同様の、発煙・発火の可能性があると言えます。また、大型の製品では電動アシスト自転車や掃除機、災害用のポータブル電源、電気自動車などにも採用されています。

 では、数ある電池の中で、なぜリチウムイオン電池だけが特に危険視されるのでしょうか?

リチウムイオン電池が「爆弾」と化す理由

 原因の一つは電圧と電流の差です。乾電池は1本あたりの電圧が約1.5Vと低く、最大電流(一度に送れる電力の強さ)もそれほど多くありません。そのため、たとえショートしてもじわじわと発熱する程度で、即座に火災につながるケースは稀です。一方、リチウムイオン電池は1本で3.7Vと乾電池2本分以上の電圧があり、さらに最大電流は乾電池の100倍近くに達します。ひとたびショートすれば瞬間的に激しく発火し、火災の原因となるのです。

 また、構造上の違いもあります。一般的な乾電池や従来の充電池は、内部の化学物質に安定した「固体」を使用していました。しかしリチウムイオン電池は、揮発性と発火性が高い「液体」(有機溶剤)を使用しています。そのため、電池を覆う金属ケースが損傷したり、ショートによって異常過熱が起きたりすると、ガスボンベのように内部が膨張。そこから漏れ出した発火性の溶剤にショートの火花などが引火し、一気に爆発・炎上するのです。

 現在、リチウムイオン電池を使用した製品は数えきれないほど流通していますが、中には安さだけを追求した粗悪な電池を使った製品も存在します。安全のための保護回路の搭載は義務付けられていますが、回路が極端に簡略化されていたり、そもそも保護回路がなかったりする製品が出回っていることが大きな問題となっています。

 より安全で信頼性の高い製品を購入するために、次の4つのポイントに注意してください。なお、USB充電器や充電ケーブルを購入する際も同様の注意が必要です。これらも発熱や発火の原因になり得るからです。

家電のプロも実践する“ハズレ”を引かない製品選び

 とはいえ実のところ、量販店のバイヤーや家電のスペシャリストでも、確実に良品を見抜くことはできません。なぜなら老舗メーカーの製品や一流企業のノートパソコンであっても、リチウムイオン電池の不具合による事故やリコールが発生しているからです。

 ここでは、粗悪品を掴まされるリスクを最小限に抑え、安全な製品を選ぶためのノウハウをご紹介します。

■やってはいけないことその1:家電量販店以外で購入する

 家電量販店で販売されている製品は、バイヤーによって厳選されているため、比較的安全性が担保されています。実店舗でもオンラインショップでも構いません。これにより、多くの粗悪品をあらかじめ排除できます。

■やってはいけないことその2:無名ブランドを選ぶ

 特に信頼できるのは、家電量販店やホームセンター、雑貨店などのプライベートブランド商品です。これらは販売元が責任を持って品質管理を行っているため、安心して購入できます。また、万が一事故が起きた際も、適切な窓口対応が期待できます。

■やってはいけないことその3:通販で「口コミ」頼りに購入する

 Amazonなどの総合通販サイトで購入する場合は、名の知れた大手メーカー製を選ぶのが無難です。「口コミ」を参考にする方も多いですが、サクラ(偽の口コミ)も多いため過信は禁物です。気になる場合は「サクラチェッカー」などの検証サイトを利用して、評価の信頼性を確認しましょう。

■やってはいけないことその4:PSEマークを過信する

 PSEマークとは、日本の「電気用品安全法」に基づき、安全基準を満たした製品に表示されているマークです。「PSEマークがあれば安全」という解説もありますが、あまり過信しないほうがいいでしょう。あくまで「ないよりはあった方がマシ」ぐらいに思ってください。

 なぜなら、PSEマークは、第三者機関による強制検査ではなく、自社で試験を行い書類申請する「自己確認」方式。そのため、悪徳業者の場合、試験をせずマークだけ印刷したり、申請をしていなかったりするケースもあるのです。一部の悪質な業者のために、マーク全体の信頼性が揺らいでいるのが実のところです。

 これら4つのポイントを意識すれば、安全性の高い製品に出会える確率はぐんと上がります。

最も危険なのは…

 最も危険なのは、とにかく安く売っている粗悪品です。事故が起きてもメーカーと連絡がつかず、保証も受けられません。海外の販売店から直送されるような製品は、まず「保証がない」と疑ってかかるべきです。

 なお、駅やコンビニにある「ChargeSPOT」などのレンタルモバイルバッテリーは、企業が管理しており、不具合のある個体も把握されやすいため、比較的安全性は高いといえます。ただし、前の利用者が落下させたり水没させたりしている可能性はあるため、自身で購入した製品と同様に注意して扱う必要があります。

 しかし、いくら意識して安全性の高い商品を購入しても、発火のリスクは避けられません。では、できる限り安全に使うにはどうすればいいのでしょうか?(つづく)

“発火事故”相次ぐモバイルバッテリー…使用中に決して“見落としてはいけない”4つのこと〉へ続く

(藤山 哲人)