(※写真はイメージです/PIXTA)

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「老後は夫婦支えあっていく」と考えていても、何が起こるか予想がつかないもの。そんな万一のときに助けとなるのが遺族を経済的に支える年金制度「遺族年金」です。とはいえ、誰でも受け取れるわけではなく、受け取れたとしても働き方などによって受給額が変わります。場合によっては「受け取れる金額がゼロ」ということも……。事例と共に見ていきましょう。

15歳の年の差夫婦…世帯収入月37万円で「安泰の暮らし」

「お恥ずかしいんですが、何もかも妻に頼っていたんです……」

そう語るのは、パート勤務で生計を立てる木村達也さん(仮名・53歳)。妻とは15歳差の“年の差婚”。結婚当初から、家計も手続きもすべて妻任せだったといいます。

「とにかくしっかりした妻で、細かいことは全部、妻がやってくれていました」

お金の管理はもちろん、光熱費や保険、税金の手続きに至るまで、生活に関わるあらゆることを妻が担っていました。木村さんは月3万円のお小遣いでやりくりするだけで、家計の中身を詳しく知ることはほとんどなかったといいます。

結婚当初、妻は54歳、木村さんは39歳。「頼れる年上妻と、面倒を見たくなる年下夫」――周囲からはそんなふうに言われることも。その関係は、結婚から10年以上経っても変わりませんでした。

妻は会社員として働いた後、厚生年金を受け取りながらパート勤務を続けていました。年金は月およそ12万円、パート収入は月8万円ほど。あわせて月20万円前後を安定的に得ており、家計の主軸は完全に妻でした。

一方、木村さんの収入は月17万円ほど。夫婦の合計収入は月37万円前後となり、贅沢をしなければ、家賃9万円の住まいで無理なく生活できていたといいます。

しかし、転機は突然訪れます。妻が自宅で倒れ、そのまま帰らぬ人となったのです。

年金事務所で告げられた「まさかのひと言」

葬儀や各種手続きに追われるなか、木村さんは初めて「自分が何も知らない」という現実に直面しました。

銀行口座の暗証番号は、2人の思い出にちなんだものだったため、なんとか思い出すことができました。通帳残高は約350万円。貯金を増やせなかった背景には、木村さん自身の収入が不安定だった時期があったことも影響していました。仕事の空白期間があり、その間の生活費は主に妻が支えていたといいます。

「……妻の年金があるから、なんとかなるか」

頼りの綱は、妻の年金でした。通帳を見ると、年金らしき入金が2ヵ月に一度、偶数月の15日に確認できていたのです。しかし、次の支給日。その日になっても、入金はありませんでした。

最初は「処理が遅れているのだろう」と考えました。ですが、数日待っても状況は変わりません。

「おかしい」

そう思った木村さんは、年金事務所所へ向かいました。そこで、衝撃の事実を知ることになるのです。

「木村さんがお受け取りになれる遺族年金はありません」

「対象外です」…遺族年金ゼロという衝撃

遺族基礎年金は、18歳到達年度の末日までの子どもがいる配偶者、またはその子どもに支給されます。

一方、遺族厚生年金は、配偶者(妻または夫)、子どもに加え、一定の条件を満たす父母や孫、祖父母なども対象となります。なお、夫や父母、祖父母が受給する場合は、死亡時に55歳以上であることが条件であり、実際に支給が開始されるのは原則60歳からです。

木村さん夫婦に子どもはいません。また、木村さんは、妻が亡くなった時点で53歳でした。そのため、受給権自体が発生せず、将来にわたって遺族年金を受け取ることはできません。つまり、受け取れる遺族年金は“ゼロ”です。

「1円も? そんなはずはないでしょう。じゃあ妻がもらわなくなった年金はどこにいくんですか?」

思わず言葉を返したものの、制度上どうにもならない現実でした。

妻が担っていた収入(年金/パート代)は月20万円。残された木村さんの収入は月17万円のみ。家賃9万円を差し引けば、手元に残るのは8万円です。そこから食費、光熱費、通信費、保険料などを支払えば、生活はたちまち行き詰まります。

妻との思い出があるアパートを去り、家賃月5.5万円のアパートに転居した木村さんでしたが、それでも安心はできません。

食費を削り、不要な契約を見直し、なんとか生活を立て直そうとしますが、慣れない管理は簡単ではありません。貯金はじわじわと減っており、老後への不安は強まるばかり。頼れる妻を思い出し、失った存在の大きさに悲しみが一層深まることも度々でした。

「全部妻に任せて、甘えていたツケですね。長い老後をどう生きていけばいいのかわかりません」

ぽつりと漏らしたその言葉には、諦めにも似た響きがありました。

頼れる配偶者が“リスク”に変わるとき

遺族年金は、配偶者が亡くなった後の生活を支える制度です。しかし、誰もが同じように受け取れるわけではありません。

特に夫が受給する場合、年齢や扶養関係などの条件があり、今回のように対象外となるケースも少なくありません。それにもかかわらず、「いざとなれば遺族年金がある」という前提で老後を考えている人は多いのが実情です。

今回のケースが示しているのは、単に制度の問題だけではありません。家計や手続きを一方に任せきりにすることで、もう一方が何も分からないまま取り残される――そんなリスクも浮き彫りになります。

遺族年金はいくらもらえるのか。 そもそも自分は対象になるのか。 一度確認しておくだけでも、将来の選択肢は大きく変わります。 “誰かがやってくれている”という安心感は、ときに最も危うい前提なのかもしれません。

参考:日本年金機構「遺族年金(受給要件・対象者・年金額」
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/seido/izokunenkin/jukyu-yoken/index.html