モスバーガーが冬限定商品として発売した「アボカドバーガー」は、2カ月で約470万食売れた。300万食という当初の目標を大きく上回ったヒット商品はどのように生まれたのか。商品の企画・開発に携わってきたモスフードサービス取締役上席執行役員・商品本部長の安藤芳徳氏に取材した――。(第2回/全2回)
写真提供=モスフードサービス

■「セット率」が前期より1割アップ

バーガーキングの台頭、ゼンショーが目論む「ゼッテリア」計画など、変化するハンバーガーチェーン市場。その中で好調な売り上げを維持しているのがモスバーガーだ。2026年3月期第3四半期の連結売上高は781億6400万円(前年同期比7.4%増)となっている。

運営するモスフードサービスでは、営業が好調であるかの判断基準として、売り上げのほかに以下があるという。

1)客単価上昇(値上げの影響は考慮に入れない)
2)ユニークユーザー数増
3)リピート回数増

それぞれの状況を同社に聞くと、客単価については、客がハンバーガーに加えてドリンクやサイドメニュー、デザートなどを注文する割合「セット率」が前期より1割アップ。またユニークユーザー数、リピート回数についても、前期を上回っているそうだ。

■過去最高のヒット商品「アボカドバーガー」

好調の理由を同社ではどのように分析しているのだろうか。モスフードサービス取締役上席執行役員・商品本部長の安藤芳徳氏に聞くと、いくつもある要素の一つとして「ターゲットに刺さる商品開発」が挙げられるという。

例えば期間限定商品として異例のヒットを記録したのが、2025年11月に発売されたアボカドバーガーだ。価格は590円と、一番人気のモスバーガー(470円)より120円高い。

チェーンを運営するモスフードサービスにおける「ヒット」の条件の1つは、期間限定商品が販売期間の2カ月中で200万食以上売れることだそう。そしてアボカドバーガーは販売期間の2カ月で、約470万食を売り上げた。

写真提供=モスフードサービス

アボカドバーガーの開発を手がけた安藤氏自身も、この数字には驚いたという。

撮影=西田香織

「私が商品本部に入って6年だが、始めた頃はヒットしても150万そこそこ。やっと200万超えが出るようになってきて、近年でいちばんのヒット、白モスは350万だった。アボカドバーガーは300万が目標だったので、想定以上のヒットとなった」

ヒット商品が出ると売り上げが増えるのは間違いない。しかし、なぜそれが、売り上げ以外の「好調の条件」をもアップすることになるのだろうか。

■ずっと売れ続けている「二大巨頭」

そもそも、モスバーガーの二大ロングラン商品といえば、モスバーガーとテリヤキバーガーだ。

とくにテリヤキバーガーはチェーンスタートの翌年、1973年に開発されたもの。「日本生まれのハンバーガーチェーンだから、日本人の味覚にあった商品を作ろう」という考えがもとになっている。

今でこそテリヤキバーガーは日本人の舌に当たり前のように受け入れられ、外国人にも人気だ。しかしぶりの照り焼きなどを連想させるためか、発売当初はあまり売れなかった。日本伝統の味を洋食であるハンバーガーに使うことを「邪道」と評する人もいたのだそうだ。

そんな常識を蹴り飛ばし、「テリヤキバーガーはおいしい」と広めたのは女子高生だった、という逸話はモスバーガーのサイトにも詳しく語られている。

■「モスやテリヤキを負かす商品を」

「チェーン設立当初からの味が今も一番売れる商品であり続けている――これは当社にとって嬉しいことではあるが、反面、『弱み』でもある」と安藤氏。

「ロイヤルカスタマーと呼ばれるような、月1回以上の頻度で来店されるお客様はメニュー選びにほとんど時間をかけない。モスバーガー、テリヤキバーガー、海老カツバーガーなど、決まったメニューを注文する。そして長年のファンの方というのは、いつか卒業してしまうもの。客層を広げていくために、新しい柱が必要だ」

客層の高齢化は、歴史のあるブランドに共通する課題だ。そのため若い層に訴求するメニュー開発、コラボレーション戦略など、各社知恵を絞っている。

同社では、安藤氏が商品本部に入って以降「モスやテリヤキの売上構成比を落とす新たな柱」を合言葉に、モスの常識を覆すような商品開発を続けてきたのだという。

■最重視するのが「ターゲットの設定と仮説」

そうした積み重ねの末に生まれたのが、470万食を売り上げたアボカドバーガーだ。第1回でも解説の通り、品質と価格のバランスの良さ、とくに、財布の紐がもっともかたい30〜40代のママというターゲット層に刺さったことが、ヒットの理由となった。

商品開発において、安藤氏がもっとも重視するのが「ターゲットの設定と仮説」だという。

「アボカドバーガーでは、わざと極端な仮説を立てた。ターゲット設定がふわっとしていると、もし売れたとしてもなぜ売れたのかわからない。再現性がない。そして狙ったターゲットにしっかり刺さっていることが大事で、そのときに売れなくても、売り上げは後からついてくる」

ターゲット設定がしっかりしていると、ある意味、特徴的な尖った商品として開発が進んでいく。逆に、「誰にでも好かれること」を目指してしまうと、つまらない商品になる。

「だからいい商品というのは、リスクを取らないと生まれない」

■「モスらしさ」を取り除いて設計した商品

アボカドバーガーでは、具体的には年に1回も来店しない「モスを嫌いな人」を想定し、モスを嫌う理由を検討した。結果として上がってきたのが以下の特徴だ。

1)値段が高い
2)パティとバンズ、野菜の具材などの大きさのバランスが悪い
3)ソースが多く、べちゃべちゃになって食べにくい

「1は別として、2や3に関しては、裏返せばモスが好きな人がモスを好きな理由でもある。そこを変えないと、客層を広げることはできない」

確かに、モスバーガーや人気の高いスパイシーモスチーズバーガーなどは輪切りのトマトが入っているほか、ソースも刻んだ玉ねぎ入りと、具材がたっぷり。モス好きにとってはそれが贅沢に感じられる。しかし反面、食べにくく、口の周りがベタベタになったり、噛み付いたときに具材とバンズがズレてこぼれてしまったり、ということもある。

慣れればうまく食べられるようになるものの、慣れる前に嫌いになってしまう人もいるかもしれない。

最新のアボカドバーガーでは、それらのいわば「モスらしさ」を取り除いて設計。値段をこれまでより200円下げたほか、前年よりもパティを小さめにして食べやすくし、マヨネーズベースのシンプルなソースを組み合わせた。

アボカドを使ったバーガーとしては3つ目の商品で、3年間の検討期間があったことや、2つの商品で客の反応を測ったため、よりターゲットの好みに合わせた商品設計を行うことができたのも大きかった。

結果として、「モスが嫌いな人」を新規客層として取り込むことができた。つまり、「好調の条件」の2に当たる、ユニークユーザー数の増加に繋がったわけだ。そしてモス好きな人にとっての新たな来店動機になり、3のリピート率も上がった、と推測できる。

■客の「おいしいけど食べにくい」を解決する

そのほか、安藤氏が開発において重視しているのが「リレーショナルフーズ」だ。

客とつながり、寄せられる指摘や課題を解決する方法を明確に提案することが大事だという。

その例として、2022年に初めて発売し、シリーズで950万食売り上げている「月見フォカッチャ」が挙げられる。

撮影=西田香織
「月見フォカッチャ」 - 撮影=西田香織

「フォッカッチャは元は2000年から14年間販売されていた商品。フォッカッチャから具材がこぼれてしまうため、『おいしいけど食べにくい』との指摘が多く、以後は商品化されていなかった。月見として復活させるに当たり、フォッカッチャの形状を瓢箪型にし、マチを設けて具材を包み込むようにしたことで、食べやすくした」

■もっとも苦労するのは「食材調達」

このように数々のヒット商品を開発してきた安藤氏。開発の苦労話を聞いたところ、食材調達、との答えだった。

例えば、契約年数によって扱える素材が変わるアボカドもその一つ。また、月見フォカッチャに使用している卵はビタミンやカルシウムなどを多く含む「加工卵」で、特別な食材。

「仕入れ先には年間計画で量を指定して契約する。売れるかわからないのに、仕入れる量を決めなければならないというプレッシャーがある」

アボカドバーガーに続くヒットを生み出していくための、次なる戦略はどのようなものだろうか。

一つにはターゲット設定をより進化させた「1on1のマーケティング戦略」を展開しているそうだ。例えば客層や客の好みについても、従来のレシートアンケートに加えて、今はポイント会社から得られるデータからも分析を行うことができる。仮説の精度が上がり、ヒットの確率も高くなっているのだそうだ。

そのため、ビジネスパーソン、女性、勤めている地域など、絞り込んだターゲット設定で商品開発を進めているという。

またこれと併せ、「逆ABC分析」の考え方で次々に新しいものを生み出すことが重要だという。

ヒット商品の売れている理由として、もっとも高いAをメニューに残し、次の商品開発に活かすのが「ABC分析」だ。しかし「逆ABC分析」ではその反対に、Aから削っていく。ユニークユーザー数を増やすための方策だ。

「とくに、改廃が早いドリンクやスイーツなどのカフェメニューはこのやり方で開発していく」

安藤氏は目下、スイーツの開発に注力しており、取材当日は試作品の試食をさせていただいた。「クリームポム 〜いちご〜」(590円)で、スポンジ生地に生クリームが合わせてあり、ベリーソースを自分でかけていただくスイーツだ。生地のふわふわ感と、生クリームと合う控えめな甘さ、ベリーの甘酸っぱさが引き締めて、昼下がりのおやつにちょうどよい。安藤氏によると、「手作り感を出す」のに苦労したそうだ。

撮影=西田香織
開発中のスイーツ - 撮影=西田香織

■「ガラガラの時間帯」を減らす施策

安藤氏がスイーツ開発に力を入れるのも、アイドルタイムの売り上げアップが同社の目標になっているためだ。

「朝モス」や、3時以降にトリプルパティがオーダーできるなど、時間帯によってメニューに変化をつけたことも、この目標に向けた施策の一つ。

これらが奏功し、ランチ以外の時間の客が増え、時間帯別売り上げが平準化しつつあることも、業績アップにつながっているという。

撮影=西田香織

上記のように、同社の商品開発の一番の目標はユニークユーザー数を増やすこと。つまり新規客の開拓だ。モスバーガーやテリヤキバーガーをトップから蹴落とす勢いで、従来にない商品の開発を目指してきた。実際、モスバーガーやテリヤキバーガーの売り上げ構成比に影響を及ぼしたこともあるという。

ヒットにしがみつかず、その都度、細やかなターゲット層を設定し、特徴ある商品を生み出していくこと。この姿勢が、近年のモスバーガーの業績アップにつながってきたのだ。

■店舗での「包丁で野菜の仕込み」はモスだけ

ただ、モスだからこそ可能になったことも多い。

例えばブランドイメージとして根付いている、野菜へのこだわりだ。全国の契約農家から仕入れた、いわゆる「顔の見える」野菜を仕入れている。

また店舗における包丁を使っての野菜の仕込み、熟練を要するバーガーのビルドアップ(バンズや具材を組み合わせること)なども、モスバーガーが昔から続けてきたからこそ、今も当たり前のように行われている。オペレーションの効率を考えれば、他のチェーンではなかなかできないことだ。

撮影=西田香織
組み立てに技術を要するモスバーガー - 撮影=西田香織

野菜をしっかり使い、店舗での手間暇をかけた商品作りがブランド価値につながり、原価の高さも相まって、見る目のある消費者に「コスパが良い」と感じさせる結果になっているのではないだろうか。

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圓岡 志麻(まるおか・しま)
フリーライター
東京都立大学人文学部史学科卒業後、トラック・物流の専門誌の業界出版社勤務を経てフリーに。健康・ビジネス関連を両輪に幅広く執筆する中でも、飲食に関わる業界動向・企業戦略の分野で経験を蓄積。保護猫2匹と暮らすことから、保護猫活動にも関心を抱いている。
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(フリーライター 圓岡 志麻)