【下駄 華緒】焼身自殺した娘の遺骨を前に、父親が呟いた「ある一言」…火葬場職員が今も忘れられない”骨上げ”の現場とは
元火葬場・葬儀屋職員の下駄華緒さんが、1万人のご遺体を見送ってきた経験を元に原作をつとめた『最期の火を灯す者 火葬場で働く僕の日常』(漫画:蓮古田二郎)が、シリーズ累計23万部を超える大ヒット作となっている。
3月19日には、最新刊となる『最期の火を灯す者 火葬場で働く僕の日常(5)』が発売された。その衝撃的な内容が、ネットを中心に話題沸騰中だ。
一般人がほとんど知らないディープなその世界を、下駄さんに案内してもらった。
前編記事『「棺があまりにも軽すぎて」焼身自殺で亡くなった少女の火葬…1万人を見送った職員が思わず「言葉を失った瞬間」』より続く。
熱くない遺骨
火葬場では、焼き上がった遺骨を遺族が箸で拾い、骨壺へ納めていく。この「骨上げ」と呼ばれる儀式は多くの人にとって人生で何度か経験するものだが、火葬場職員にとっては日常業務の一部でもある。しかし、この日の出来事は、下駄さんの記憶に強く刻まれることになった。
自死した少女の火葬が終わり、骨上げが始まると、両親は娘の遺骨を前にしばらく立ち尽くしていた。涙を流し、顔を歪めながらも、言葉は出てこない。
やがて、父親がそっと遺骨に触れた。そのとき、ぽつりとこう呟いた。
「熱くないんですね」
通常、遺体は火葬炉の中で一定の時間をかけて焼かれる。だが、焼死した遺体の場合、すでに体の肉がほとんど残っていないケースも多く、火葬にかかる時間が比較的短くなることがある。
今回亡くなった少女も、火葬場に運ばれてきた時点で遺体は激しく焼けており、火葬時間は通常よりも短く済んだ。そのため骨上げのころには、遺骨はすでに冷めていたのだ。
憔悴する遺族にかけた一言
だが、その理由を正直に両親に伝えるのは、あまりにも酷なことだった。
骨上げは本来、箸で行うものだ。しかしこのとき両親は、動揺のあまり箸をうまく使うことができなかった。骨をつまもうとしても、ぽろぽろと落としてしまう。それほど二人は取り乱していた。その様子を見た下駄さんは、そっとこう声をかけた。
「お手にとっていただいても大丈夫ですよ。もう熱くないですから」
下駄さんのこの言葉には、三つの意味が込められていた。
一つは、「骨上げは箸で行うのが一般的ではあるものの、どうしても難しい場合には手で触れても問題はない」ということ。
二つ目は、「亡くなった娘に触れることができなかった両親に対し、お骨になってしまったいま、せめて最後だけでも触れてあげてほしい」という思い。
そして三つ目は、焼死と火葬というかたちで二度も炎に包まれた少女に対する、「もうこれ以上、苦しい思いはしませんよ」という労りだった。
その言葉を聞いたとき、両親は初めてかすかに笑顔を見せたという。
「焼死といっても程度によって大きく異なりますが、作中のように焼損がかなり進んでいる場合は、火葬時間が短くなることがあります。ただ、最終的に焼骨になったときには、見た目に大きな違いはほとんどありません。
どんな亡くなり方であっても、最終的には同じような形になる。今回のようなケースでは、それがある意味で救いになる部分もあるのではないかと思います」(下駄さん)
焼身自殺という形で亡くなった少女。だが火葬場という場所で、両親はもう一度だけ娘に触れることができた。
葬儀や火葬の現場には、マニュアルだけでは対応できない瞬間がある。火葬場職員はそうした場面で、遺族の気持ちに寄り添いながら、故人との最期の時間を静かに支えているのである。
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《イベントのお知らせ》
元火葬場職員・下駄華緒氏が監修する体験型展示会【火葬場を覗く展】
開催期間:2026年3月21日(土)〜29日(日)
会場:文春ギャラリー
公式ホームページ:https://www.kasouba-nozoku.com/
火葬場を覗く展予約ページ:https://livepocket.jp/e/weahf
