Photo: 小野寺しんいち

橋の上を颯爽とドライブする、編集部員・黒田。

Image: 小野寺しんいち

と、思いきや...引いてみると...

実はこれ、超巨大なディスプレイに流れる映像の前で撮影しているだけなんです。

その手があったか! CGをそのまま撮る、バーチャルプロダクション

これまでの撮影の常識をぶち壊してしまうのが、今や多くの撮影現場が採用している「バーチャルプロダクション」という手法。

バーチャルプロダクションでは、巨大なLEDディスプレイに3DCGや実写映像で作った背景画像を表示させ、その前に実際の人物や物を配置して撮影します。実は、ドラマ『マンダロリアン』や『ホットスポット』、King Gnuの『Stardom』のMVなどで使われています。

セットを用意するのは大変だし、グリーンバックを使ったCG合成も味気ない。なら、背景にCGを流してそのまま撮っちゃえ!は、まさにその手があったか、な発想ですよね。

そんなソニーPCLが東京都・清澄白河で運営していているのが、バーチャルプロダクションスタジオを備えた施設「清澄白河BASE」。今回ギズモード編集部は「清澄白河BASE」にお邪魔させていただき、驚きの撮影手法を見せてもらいました。

Image: ソニーPCL株式会社

ソニー独自の技術が詰まった「清澄白河BASE」

なかに入ると、壁一面にひろがる巨大ディスプレイに圧巻。

Photo: ギズモード・ジャパン

横27.36m x 高さ5.47mのなかに敷き詰められているのが、ソニーが開発する17Kの超高画質ディスプレイ「Crystal LED」。

湾曲したディスプレイから平面のディスプレイへと繋がる珍しいJ字型になっていて、奥行きを表現したいときには湾曲で、固定的な撮影の際には平面をと、使い分けができるようになっているんだとか。

ディスプレイに近づいてみるだけで、もうその世界に入り込んだ気すらしてしまう。圧倒的な高精細による、没入感。

Photo: 小野寺しんいち

早速、背景を映してもらいました。夜の渋谷の風景です。

Photo: 小野寺しんいち

ディスプレイの前に立った黒田をカメラで捉えるとあら不思議、本当に渋谷にいるみたい。

Photo: 小野寺しんいち

とはいえ、カメラでそのままLEDディスプレイを撮るだけでは、違和感が生まれてしまいますよね。

Photo: 小野寺しんいち

この技術のポイントは、LEDディスプレイに表示されている背景の映像がカメラの動きに合わせて変わること。

特に3DCG背景を使用するインカメラVFXと言われる撮影方法では、カメラトラッキングシステムとして取り付けられたセンサーを起点に、カメラの位置情報が常に捕捉され、カメラのアングル/ズームに合わせて、Unreal Engineで背景映像がリアルタイムに書き出されていくようになっているんです。

この白線の映像がわかりやすい。

Image: 小野寺しんいち

画面上に伸びた白線に合わせて、実施の白線も床に置いています。最初のカメラの位置では両者がまっすぐ繋がっていますが、カメラを動かすとどんどんずれてしまいます。そりゃそうだ。

そこで、背景のリアルタイム処理をオンにすると、カメラの動きに合わせて背景が更新されて、常に繋がっているように作り変えてくれるんです。すごい。

これが、本当にその場で撮っているかのような世界を再現してしまうミソなんですね。

バーチャルプロダクションで、"不可能"を"可能"に変える

これら技術の結晶で、撮影の在り方そのものが大きく変わりつつあります。

たとえば、カーチェイスのシーンを撮るとします。公道を封鎖し、危険なアクションをするなんて、簡単にできることじゃありませんよね。バーチャルプロダクションを使えば、静止した車を置いたまま背景を高速で動かし、走っているシーンを再現できます。

Image: 小野寺しんいち

実際に運転シーンをカメラで撮ると、まったく違和感がありません。制作工程や安全面に配慮しながら、これまで難しかった撮影表現を実現できるのです。

もちろん、デジタル上で背景を再現できるわけですから、東京で撮って、北海道で撮って、沖縄で撮って、なんて大変なロケ撮影も、背景用のアセットを準備できれば「清澄白河BASE」のなかだけで完結できます。また、天候等の読めないリスクも排除でき、事前に演出プランをシミュレーションできるのも制作プロセスを圧縮できる良いところ。

Photo: 小野寺しんいち
電車が到着するシーン。人物にそのままCGを重ねてしまうこともできます。

どうやら役者さんにもメリットがあるようで、グリーンバックで撮るよりも演技がしやすいという声も寄せられているそうです。

Image: 小野寺しんいち

これが車に乗り込んだ目線で撮った動画ですが、こりゃ本当に運転しているみたい。実際の映像を流しているからこそ、車内に本当の光が反射されるのもリアルです。素人目でも、演技のしやすさに影響が出るのは容易に想像できました。

そして、驚いたのがこの撮影。宇宙飛行士が宇宙を漂うシーンなのですが、実際には宇宙飛行士は宙吊りのまま、背景だけが動いていきます。こうして、壮大な宇宙のシーンが完成したというわけです。

まさに、「そんなん無理でしょ」を「できる、しかも超ハイクオリティで」に変えてしまう、心強いテクノロジー。

最高の映像体験を、とことん追求して

映像には多くの魅力がありますが、その一つは、現実では到底味わえないような「とんでもない体験」をさせてくれること。

手に汗握るカーチェイスの興奮や、宇宙から地球を眺めるような感動。こうした表現は、これまで物理的な制約によって実現のハードルが高いものでした

バーチャルプロダクションによって、そうした映像表現がより現実的なものとなり、アイデアをそのまま形にしやすくなっていきます。まさに、クリエイティビティの解放ですね。

監督にも、制作スタッフにも、役者にも、そして私たちにも、それぞれに新しい可能性をもたらしてくれる技術。

最近ではAIによる映像も登場していますが、「人が生み出せる感動を極限まで磨く」。そんな職人魂が宿った、胸熱スタジオ、それが「清澄白河BASE」でした。

Source: SONY, Photo: 小野寺しんいち