復帰の決め手は「指図をしない」だった 五輪金のリウが放つ“独創性”に露重鎮も本音吐露「我々は勝つ以外に滑る理由を知らない」

常に笑顔を絶やさず、パフォーマンスを披露し続けたリウ(C)Getty Images
世界を虜にした圧巻演技の余韻は今も残っている。去る2月19日に行われたミラノ・コルティナ冬季五輪のフィギュアスケート女子シングルフリーで、アリサ・リウ(米国)が見せつけたパフォーマンスだ。
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計100時間以上を費やしたという黄金に輝くドレスを身に纏った弱冠二十歳の天才は、華麗に氷上を舞った。2日前のショートプログラムで3位とやや出遅れていたが、「私は自分の物語や芸術性、そして創造のプロセスを周りと分かち合うのが好き」と気負いは微塵もなかった。実際、冒頭からルッツートーループの連続3回転を決めてみせたリウは、演技の後半まで高さとキレのあるジャンプに加え、のびやかなスケーティングで大衆を魅了し続けた。
同種目における米国勢の金メダル獲得は、2002年ソルトレークシティ大会のサラ・ヒューズ以来、24年ぶりの快挙。まさしく一夜にして“時の人”に変わったリウは、自身がデザインを手がけた独特なビジュアルに加え、温和な振る舞いも相まって、ここ日本でも人気を博す存在となった。
そんな新女王から受けた衝撃は、フィギュア大国ロシアでも大きな反響を生んでいる。現役時代に4度の世界選手権制覇の実績を持つ伝説的名手アレクセイ・ヤグディン氏は、母国メディア『Sport 24』において「我々は改善をする必要がある」と断言。目の当たりにしたリウのスケーティングを称えつつ、自国選手たちの質に疑問を投げかけている。
「海外の識者たちの多くは『ロシアの選手はすべてが遅く、すべてが氷の中心にあり、滑走性もなく、スケーティングの質が低い』と指摘している。だから、我々はバラ色の眼鏡を外し、国際大会では現実的な点数が付けられることを選手たちに理解させる必要がある。今のロシアの選手では誰もリウのようには滑れないのだ」
実際、このミラノ・コルティナ冬季五輪でのロシア勢は“惨敗”。女子シングルにはアデリア・ペトロシアンが「個人の中立選手(AIN)」として出場したが、リウとは8.56差をつけられての6位と低迷。全くと言っていいほど歯が立たなかった。
かつてフィギュア界を席巻したロシア勢。その国内の育成事情について「誰もスケートを教えてない。ただジャンプだけを教えている」と論じたヤグディン氏は、こうも憂いている。
「アデリアは4回転ジャンプを飛んでいたら表彰台を狙えたか? ほら、そこだ。それこそ、リウと私たちの違いなのだ。我々はとにかく勝つことだけを考えて育てられた。だから、勝つということ以外に滑る理由を本当に知らないんだ。ロシア人はまだスケートが何かを学んでいない。
リウは北京五輪後に1度引退をし、復帰する際に『指図しない』ことを条件にした。そして、『ただスケートを楽しみたい』と言ったんだ。そういう考え方はロシアとは全く異なる。しかしながら、あんなに楽々と滑る人に出会ったことがない。彼女が滑った後の余韻に近づける者は誰一人としていなかった。それが全てを物語っているだろう」
フィギュアスケートを新たな水準へと押し上げたリウ。その存在は、勝利至上主義であったロシアに特大のインパクトを与えたようである。
