(※写真はイメージです/PIXTA)

写真拡大

高齢化が進む日本では、老後の暮らし方も多様化しています。かつては“家を持つのが当たり前”とされた時代もありましたが、現在ではさまざまな事情から賃貸暮らしを続ける人も増加。しかし、年金収入だけで毎月の家賃を払い続けることは簡単ではありません。今回は、家賃5万円の賃貸住宅で暮らす70歳の女性・佐藤明子さん(仮名)の生活から、“家賃のある老後”のリアルを見つめます。

家賃がなければ、もっと楽なんでしょうけど…」

東京都内の築30年のアパートに暮らす佐藤明子さんは、70歳の一人暮らし。ご主人を数年前に亡くして以降、ずっとこの部屋で暮らしてきました。間取りは1K、家賃は月額5万円です。

「ここは駅からも近いし、昔から住んでいるから慣れているんです。でもね、家賃ってやっぱり年金生活には重いんですよ。毎月5万円、年間で60万円ですから。年金の3分の1以上が家賃で消えちゃう」

佐藤さんの年金収入は月約15万円、年間にして約180万円。支出は月11〜12万円ほどで、年額では約130〜140万円。持病の通院や市販薬代などもあり、医療費は年5〜6万円かかるといいます。

「贅沢はしません。食費も月2万円くらい。お米は親戚から送ってもらうことが多いので助かっています。光熱費は最近の電気代高騰がつらいですね。夜はなるべく電気を消して、早く布団に入っちゃうこともありますよ」

佐藤さんのように、家賃生活費の中で大きな割合を占めている高齢者は少なくありません。

厚生労働省『年金制度基礎調査(老齢年金受給者実態調査)令和4年』によると、老齢年金受給者(女性)の年間支出階級で最も多いのは「100〜150万円」、次いで「50〜100万円」となっており、収入階級では「150〜200万円」が最多です。佐藤さんの家計も、まさにこのボリュームゾーンにあたります。

また、住宅の種類別で見ると、配偶者のいない女性年金受給者の約70.1%が「持ち家」に住んでいますが、残る約3割は「民間賃貸住宅」や「高齢者向け施設」などに居住していると報告されています。

「近所の人はけっこう持ち家の方が多いですね。“家賃がないから助かっている”とよく聞きます。私も昔は、家を買おうかって話が出た時期もあったんです。でも、夫の仕事の関係で転勤が多くて、タイミングを逃しちゃって」

将来が不安にならないと言えば嘘になります

70歳の今はまだ元気な佐藤さんですが、今後のことを考えると不安もあるといいます。

「いつまでこの部屋で暮らせるのかって、不安になりますよ。もし体調を崩したら、階段の上り下りもできなくなるかもしれない。そうなったら、どこに引っ越せばいいのか、家賃はもっと上がるんじゃないかとか…」

現在住んでいる部屋はバス・トイレ別の2階。エレベーターはなく、築年数も古いためバリアフリー対応はされていません。民間の高齢者住宅への入居も検討したことがあるそうですが、「家賃が高くてとても無理だった」と話します。

「月に13〜15万円くらいするって聞いて、“無理だ…”ってすぐ諦めました。私の年金じゃ足りませんから」

そんな中でも、佐藤さんはできる範囲で日々を楽しむ工夫をしています。

「近所の図書館で本を借りて読んだり、テレビドラマを楽しみにしたり。大きなことはできないけど、心が満たされる時間はあるんですよ。年に1回くらいは娘が遊びに来てくれますしね。お金はなくても、“時間”が贅沢なんだと思います」

物価上昇、エネルギーコストの高騰、そして住居費の負担──。年金暮らしの中で、こうした外的要因が家計に重くのしかかっているのは事実です。

人生100年時代といわれるいま、老後の住まい方はますます多様になっています。持ち家には安定感がありますが、維持管理費や相続の問題もあります。一方で、賃貸は身軽さがある一方、家賃という継続的な負担が避けられません。

大切なのは「自分に合った形を、早いうちから考えておくこと」かもしれません。