東京で蕎麦前が楽しめる店6選 杯が進んで止まらない旨さ
まず肴で一杯、〆めに蕎麦を食し店をあとにする。江戸っ子の愛した粋な飲み方は、令和にも健在です。今回は、メインはいったいどっち!?そんなラビリンスに迷い込む肴も蕎麦も極めた粋な蕎麦屋をご紹介。
旨みが溶け出したのど越し抜群の手打ち蕎麦で〆『手打ちそば一刻庵』@新小岩
江戸時代から続き、いまもなお、大人の心を掴んで離さない“蕎麦前”。敷居が高いようで、踏み込んでしまえばなんとも懐の深い文化である。
守るべきは、「軽く飲んで、締めの蕎麦を食べたら、長居せずにさっと店を出る」くらい。
あとは自分好みの蕎麦前作法を模索するのが粋なのである。さらに、昼飲みが歓迎されるのも大きな魅力。むしろ昼下がりにひとり蕎麦屋飲み、なんてよっぽど粋にすら感じられる。
「昼から飲みに来られる方も多いですよ。常連さんだと週2〜3回はいらっしゃいます」。
新小岩に店を構える『一刻庵』もまた、そんな粋な蕎麦前を堪能できる名店。供される多くの肴は、蕎麦の実やツユを用いており、まるで〆へのレールが敷かれているような安心感。さっそく各駅電車に乗り、ゆったりと美酒を味わう旅に出てみる。
鴨のつくね串(1本)250円、ゆばさし900円

『手打ちそば 一刻庵』(手前)鴨のつくね串(1本) 250円 ※注文は2本〜 (奥)ゆばさし 900円 じわりと溶けるゆばさしは京都真如寺、鴨のつくね串は鴨南と同じ農家のもの
まずはとろけるようなゆばさしを本枯れ節と、亀節を使用した香り高い蕎麦ツユ、摺りたてのワサビでペロリ。さらに、山形県産蔵王鴨肉の串の甘いタレで、辛口の「日高見」をクイッ。スッキリとした味わいと、鴨肉の旨みを堪能し、移り変わる口内の景色を楽しむ。
〆は「イベリコ豚の肉そば」。豚の甘い脂とツユがジワリと温めてくれる。のど越しを重視し、硬めに茹で上げた二八蕎麦を啜れば、蕎麦とさわやかな柚子の香りが心地よい。
約1時間の小旅行を終え店をあとにする。駅までの15分の帰路をほろ酔いで歩けば、「もう一杯いっちゃおうか」なんて。気ままに楽しめる蕎麦前の粋に、また甘えてしまいたくなる。

『手打ちそば 一刻庵』店主 鈴木勝博さん
店主:鈴木勝博さん「香り高い蕎麦は伸びてしまう前に楽しんでください!」

『手打ちそば 一刻庵』
[店名]『手打ちそば一刻庵』
[住所]東京都葛飾区東新小岩7-25-16
[電話]03-5654-6159
[営業時間]11時半〜14時(13時45分LO)、17時半〜20時半(19時50分LO)
[休日]水(不定休)、木
[交通]JR総武線新小岩駅北口から徒歩15分、京成バス東須磨橋バス停下車徒歩1分
蕎麦を味わい随所に感じる江戸の「粋」『蕎麦切 砥喜和』@赤羽橋
江戸時代、武家屋敷が建ち並んだという旧三田綱町の一角に佇む。『暗闇坂 宮下麻布』などを展開する、(株)僖成が営む蕎麦店だ。街並みに溶け込む高級感のある店構えながら、店内はくつろげる雰囲気。
「蕎麦屋は江戸時代、気軽に飲める場でもありました。お客様には肩ひじ張らずに食事を楽しんでいただきたい」と広報の大沢宏一郎さん。
現在の蕎麦の品種は食感や香りがよく、ルチンを多く含む「キタミツキ」。ツユは「どこにも負けないくらい辛口」を目指し、みりんではなく熊本産「赤酒」を使う。豊かな蕎麦の風味と、キリッとしたツユがよく合う。
和食グループとあって蕎麦前の豊富さも自慢。
蕎麦がき田楽990円、鰊の旨煮880円、北雪純米1150円

『蕎麦切 砥喜和』(手前から順に)蕎麦がき田楽 990円、鰊の旨煮 880円、北雪 純米 1150円 蕎麦がきと蕎麦味噌を共に味わう逸品。じっくり煮ふくめられた鰊はやさしい薄味
人気のかき揚げは、繊細な衣と香ばしい小エビがたまらない。オリジナルの「蕎麦刺し」は塩麹かわさび醤油でいただく。蕎麦切とも蕎麦がきとも違う、蕎麦の新たな味わいだ。

『蕎麦切 砥喜和』
[店名]『蕎麦切 砥喜和』
[住所]東京都港区三田2-6-13コート三田1階
[電話]03-6435-2178
[営業時間]11時半〜14時、17時〜22時(土・日:〜21時)
[休日]月
[交通]都営大江戸線赤羽橋駅赤羽橋口から徒歩6分
厳選した酒と肴と山形の郷土蕎麦がもたらす贅沢時間『板蕎麦 香り家』@恵比寿
店名に冠した板蕎麦は、蕎麦を箱に入れて提供する山形のおもてなしの郷土料理のひとつ。
その時期によいものを仕入れる国産蕎麦粉を独自の割合で配合し丹念に打つ田舎蕎麦は太く腰があり、しっかりと噛むことで風味が口いっぱいに広がっていく。温かい蕎麦は少し細めに仕上げるが、やはり噛むほどに旨いのは変わらない。鴨との相性もバツグンだ。
これらの蕎麦が大きな武器だが、ボリュームがあり、酒を呼ぶ味わい揃い蕎麦前も主軸選手だ。例えば天ぷらにはエビなど定番のほか、イチジクや焼き芋といった変化球も。
天ぷら盛り合わせ2000円、蕎麦焼酎・十割:グラス650円(そば湯割)

『板蕎麦 香り家』(手前)天ぷら盛り合わせ 2000円 (奥)蕎麦焼酎 十割 グラス 650円(写真はそば湯割) 蕎麦茶塩でいただく天ぷら。大きなエビ2尾以外は、仕入れや季節によって内容が変わる
サクッとした衣とやわらかな素材の食感の妙、天ツユのしょっぱさと甘みの妙……そこに蕎麦焼酎の蕎麦湯割りを合わせれば香ばしさが加わり、「あぁぁ」と声が漏れてしまう。
駅近くながら喧騒と離れた空間も相まって、贅沢な時間を約束してくれる。

『板蕎麦 香り家』店長 吉山英一さん
店長:吉山英一さん「季節の蕎麦前のあとは、蕎麦をしっかり楽しんで」

『板蕎麦 香り家』
[店名]『板蕎麦 香り家』
[住所]東京都渋谷区恵比寿4-3-10中出センチュリーパーク1階
[電話]03-3449-8498
[営業時間]11時半〜15時半(15時LO)、17時〜22時(21時15分LO)
[休日]年始
[交通]JR山手線ほか恵比寿駅東口から徒歩3分
冷冷、冷温、温温、すべてにうまい中太田舎蕎麦『蕎麦切り翁』@戸越銀座
にぎやかな戸越銀座商店街を抜けた頃に現れる、風情ある一軒だ。1950年創業、2005年に三代目高島伸一さん(※高の字は本来、はしごだか)が店を改装。機械打ちだった蕎麦を手打ちに、一品料理を増やし「呑める蕎麦屋」に生まれ変わった。
「酒肴五点盛り」は、ゆば、酒盗、穴子の煮凝りなど、酒を呼ぶ呼ぶ妙味揃い。
秋ハモ土瓶蒸980円、金婚・ぎん辛960円

『蕎麦切り翁』(手前)秋ハモ土瓶蒸 980円 (奥)金婚 ぎん辛 960円 深い味わいのダシ、ひと手間かけたハモのなめらかな食感がたまらない
季節限定のお楽しみの「秋ハモの土瓶蒸し」は、まずだしをおちょこで「ほ〜っ」といただく。味わったら蓋を開け、ハモ、マイタケ、シメジ、おっ、銀杏も発見。ちびちび呑むのに最高です。
蕎麦は二八の田舎蕎麦。脱穀した「まるぬき」を粗く挽いた粉、細かく挽いた粉、そして殻の粉の3種類を独自の割合でブレンドするという。しっかりとした蕎麦は、噛みしめるとふっくら風味が広がり、あったかい汁にもよく合う。
結構呑んで食べた後、「小もり」(650円)があるのもうれしいなあ。

『蕎麦切り翁』店主 高島伸一さん
店主:高島伸一さん「ゆっくりくつろいで、楽しんでください。平日ランチの「そば膳」(1700円)も人気です」

『蕎麦切り翁』玄関の「蔵戸」、煤竹の天井など趣のある店内。ゆったりと過ごせる
[店名]『蕎麦切り翁』
[住所]東京都品川区豊町1-7-6
[電話]03-3781-8378
[営業時間]11時半〜14時(13時半LO)、18時〜22時(21時LO)、土・日・祝:11時半〜15時(14時半LO)、18時〜22時(21時LO)
[休日]月、火
[交通]都営浅草線戸越駅から徒歩10分
旨み溢れる鴨と鰹ダシ、香り高い蕎麦の三重奏『手打ちそば もり』@西早稲田
カウンター8席のみというコンパクトな店。目前の厨房内で切り盛りするのは、先代から店を継いだ2代目。聞けばこの若き店主、相当の酒飲みである。
これはオツな蕎麦前が期待できると胸を躍らせいただくのは「酒肴盛り合わせ」。
酒肴盛り合わせ1000円(板わさ、いわし味噌、鴨ハム、馬刺し、塩辛チーズのせ)、乾坤一(1合)1050円

『手打ちそば もり』(手前)酒肴盛り合わせ 1000円(板わさ、いわし味噌、鴨ハム、馬刺し、塩辛チーズのせ) (奥)乾坤一 1合 1050円 仕入れによって変わる盛り合わせ。この日は板わさ、鴨スモーク、馬刺し、鰯の味噌煮、塩辛チーズのせ
皿に盛られたつまみは鴨スモークに、板わさ、塩辛チーズのせなど5種がズラリ。さらにごま油の風味がそそる「揚げなす」、香り高い蕎麦粉を使用したクリーミーな「牡蠣の蕎麦粉焼き」と酒好きの心を掴む品揃え。
時折生まれる店主とのちょっとした会話もまた良き肴、さらにもう一杯と酒が進む。だが長居は野暮ってもの。
酔った身体が求めた締めは、焦げ目が罪深い鴨南蛮そば。鰹のみを使用した出汁でキリッとした味に仕上げたつゆに、炙った鴨肉の脂が溶け込む旨み豊かな一杯に満たされる。
じわりと染み渡る粋な店、いざ心を掴まれに参ろうぞ。

『手打ちそば もり』店主 森泰基さん
店主:森泰基さん「ドラクエウォークの話題で盛り上がりましょう」

『手打ちそば もり』
[店名]『手打ちそば もり』
[住所]東京都新宿区高田馬場1-3-10
[電話]非公開
[営業時間]11時半〜14時半、18時〜21時(20時半LO)
[休日]月
[交通]地下鉄副都心線にし早稲田駅一番出口から徒歩2分
季節を感じる肴と二八にこだわった本格手打ち蕎麦『手打蕎麦たかせ』@神保町
品書きに連なる肴に、スイッチが入る飲兵衛の姿が目に浮かぶ。店主が豊洲に足を運び仕入れるという旬の海鮮、その質は見るからに脂がのった「穴子の白焼き」をいただけば納得である。
菊姫(にごり・1合)940円、穴子の白焼き2200円

『手打蕎麦たかせ』(手前)菊姫(にごり・1合) 940円 (奥)穴子の白焼き 2200円 仕入れ時には市場の人意見を聞くことも。その際の会話がお料理のヒントにもなっているそう
皮の焼き目の香ばしさと、濃厚な穴子の脂に、手が伸びるのは辛口でキレのいいにごり酒「菊姫」。さらにシンプルな素材で作られたなめろう、旬の肉厚な舞茸の天ぷらと、魅力的なつまみに杯が進む。腹も心も満たされたら、天ぷらそばでフィナーレへ。
別皿の天ぷらを前に、まずは天つゆで食感を楽しむか、キリッとした味わいの蕎麦ツユでジューシーに攻めるのも捨てがたい。
また一杯始められそうだ、なんて誘惑とともに啜るは、毎朝手打ちされる細めの二八。そののど越しで、ここは蕎麦屋であったと思い出す。
神保町を抜ける帰路。温まった身体に冬を感じ、次なる旬に心を躍らせ再訪を誓った。

『手打蕎麦たかせ』店主 高瀬建一郎さん
店主:高瀬建一郎さん「こだわりの蕎麦はもちろん、飲みだけの利用も歓迎です!」

『手打蕎麦たかせ』
[店名]『手打蕎麦たかせ』
[住所]東京都千代田区神田神保町2-21-10高野ビル1階
[電話]03-3288-1370
[営業時間]11時半〜14時(前日までの完全予約制)、17時半〜23時(22時LO)
[休日]日・祝、土は不定休
[交通]地下鉄半蔵門線神保町駅A1出口から徒歩3分
撮影/小島昇(一刻庵)、小澤晶子(砥喜和、翁)、鵜澤昭彦(香り家)、大西陽(もり)、取材/星野真琴(一刻庵、もり)、本郷明美(砥喜和、翁)、編集部(香り家)
※月刊情報誌『おとなの週末』2025年12月号発売時点の情報です。
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