記事のポイント 資生堂で「TSUBAKI」「ELIXIR」などを手がけてきた北原規稚子氏が独立後、デザインへの原点回帰からスケッチを重ね、新ブランドMIDOTを立ち上げた。 自身の働き方や生活シーンなど、キャリア女性としての具体的な経験に基づき「大人のドット服」を設計。フォーマルと遊び心を両立させた実用性の高いアイテムを展開している。 国内縫製・オリジナル生地・受注生産にこだわり、在庫リスクを抑えつつ地域技術の活用を進めるなど、従来のアパレル慣習に縛られない持続可能なブランド運営を実践している。
2025年11月にローンチした新ブランド「MIDOT(ミドット)」は、大手化粧品メーカーで20年以上マーケティングに携わってきた北原規稚子氏が手がける「大人のためのドット服」。トップマーケターとして数々のブランド成長をけん引してきた一方で、服づくりは未経験。だが、「素人だったからこそ実現できたことも多い」という。マーケターとしての洞察と、既存ルールに縛られない感覚が、どのようなブランドを生み出すのか。東京・代官山で開催中の2026春夏コレクションの展示会(12月5〜7日)で、ブランド立ち上げの背景や、生産・販売・ブランド設計などについて聞いた。

「何も決めずに」始めた服作り

北原氏はライオンでキャリアをスタートさせたのち、資生堂で「TSUBAKI」「ELIXIR」「MAQuillAGE」などのブランドマネジメントを担当し、マーケティング本部長も務めた。2025年4月末に退社し、株式会社MICHIを立ち上げたのは、「自分の心が本当に動くもの」を見直すためだったという。現在は幅広い分野でブランディングやコンセプト開発、新価値創造の支援を行うが、独立当初は新しいポジションや事業構想を固めていたわけではなかった。退社後しばらくは旅行などをしながら過ごし、iPadとスケッチアプリを手にした。子どもの頃からのデッサンや油絵を続けてきたこともあり、自然と「服の絵」を描き始めたという。「3歳から15歳くらいまで、デッサンやデザイン、水彩画、油絵の教育を受けていた。社会人になりマーケティングの道に進んだが、いざ心が動くのはやっぱり服とデザイン。ここに戻ってきたという感じ」。iPadで描いた服のスケッチを見た知人に、「実際に作ってみたら?」と背中を押され、生産先を探し始めたところから MIDOTは動き出した。

フォーマルとカジュアルを行き来する服

2026年春夏(26SS)コレクションは全7型、パフスリーブのついたジャンプスーツやリボン付きのスリットドレス、タキシードジャケットなど、すべてにドットを配した。「子どもの頃、母が手づくりしてくれたのがいつもドットの服だった。習いものの発表会でも遊園地でも、どこに行ってもちゃんとして見えるからというのが理由だった。それが私の中の原体験になっている」。

幼少期の北原氏。母親の影響で幼少期からドット柄の服を着る機会が多かった

MIDOTでは、全体にドットを配すると「やりすぎ」になるため、「大人の分量で」使うことで、フォーマルと遊び心のバランスをとっている。「自分が今着たい」「必要としている服」を出発点にデザインしたアイテムは、登壇やカンファレンスなど、キャリア女性としての経験が生かされている。「登壇するときは、高いステージに立ったり深いソファに座ったりなど色々な状況がある。たとえばスリットドレスは、座っても裾が上がりすぎないラインや長さ、横スリットでも品を損なわない丈などにこだわった」。

「MIDOT」2026春夏コレクション。ドット柄のリボンがついたスリットドレス(税抜4万2000円)やドット柄パフスリーブが印象的なジャンプスーツ(同4万8000円)などが並ぶ

メイドインジャパンで社会課題に応える

MIDOTのもうひとつの軸が、メイドインジャパンへのこだわりだ。縫製はすべて国内で行い、最高級生地を扱う国内の生地卸や、国内生地メーカーと提携した。ドット柄の生地もすべてオリジナルで制作したものだ。「ドットの大きさや間隔、質感など、既製の生地では満足できず、生地メーカーとイチから取り組んだ」と北原氏。背景には、国内の縫製工場や生地メーカーの置かれた状況がある。「特許を持つような優れた縫製工場が国内にたくさんあるが、海外の大量生産に移行するケースが増え、仕事が減っているのが実情。スケールは小さくても、そうした工場に仕事を発注し続けることが、自分にできる範囲の貢献だと考えている」。素材選びにおいても、地方の技術やアップサイクルの取り組みを積極的に取り込もうとしている。和歌山のニット工場や、青森のリンゴの皮から作られるエシカルレザーと組んだプロダクトも作りたいという。「私の会社(MICHI)のビジョンは、『DOTをつなぎ、未知なる道を創る』。地域や中小企業を発展させたいという思いがあるので、技術や伝統をプロダクトに融合させていきたい。地方創生に少しでもつながるようなものを、形にしていきたい」。

在庫を持たないという選択

一般的に、ブランド立ち上げ時には販売チャネルの拡大や売上をどう作るかが優先されがちだ。しかし、MIDOTの優先順位は異なる。「MIDOTに関しては、ブランディングはしても、意図的なマーケティングはなるべくやらない」という。たとえば、在庫を前提とした販売は行わない。ポップアップで顧客との接点を作り、オンラインでの受注生産で適正在庫で運営する。北原氏は、「受注生産なら必要量だけ作れる。在庫を持つと小規模ブランドではリスクが大きく、サステナブルではなくなってしまうから」という。顧客との接点も、インフルエンサー施策やマス広告ではなく、自身のネットワークとSNSを中心に構築する。ターゲットであるキャリア女性とは、これまでの仕事で長く接点を持ってきた。ブランドの世界観に共感してくれる人たちが自然と集まってくる構造を目指している。

アパレルの常識から自由な発想と設計

自身の服づくりについて、北原氏は、「未経験だったからこそ実現できたことも多い」と見る。今回の初コレクションも、「たまたま暑い時期に自分が着たい服を考えていたから、結果的に春夏コレクションにすることになった」のだという。シーズンの打ち出し方をはじめ、MD構成や、国内生産へのこだわり、在庫を持たない受注モデルなど、MIDOTの意思決定は、既存のアパレル企業であれば慎重にならざるをえないポイントが多い。「知っていたら怖くてできないこともあるはず。ファスナーなしで着られるギリギリのサイズ感やボリュームが出過ぎないカッティングなど、縫製工場の皆さんと絶妙なバランスで形にしていく。わからないからこそ無理だと思われるようなことにもトライできる。結果的に原価はかかってしまうのだが」。ECサイトの構築・運営やSNSの運用サポートなど、本業を抱えながら隙間時間でブランドを支えているメンバーもいる。「最初に掲げたコンセプトを見て、『何これ、面白い』『ワクワクする』『協力したい』と感じて集まってきてくれている」のだという。ブランドロゴを手がけたクリエイティブディレクターの三浦遊氏、ルックブックのスタイリングを担当した安西こずえ氏らプロフェッショナルとの出会いも、そんな流れの延長にある。点(ドット)が線になっていくように、ひとつひとつの縁がチームを形づくっている。北原氏は、こうした動きを「キャリアの最初の頃の現場に戻ってきた感覚」だと語る。「作ったものを撮影して、インスタグラムを運用し、売る場にも立つ。現場のことをすべて自分でやっている」。そのプロセスのなかで、ブランドがどう受け取られ、どう伝わっていくのかを、リアルに確かめられるからだ。「自分がワクワクする服が減ってきたと感じるなか、MIDOTとして、何を大切にするかをきちんと示していきたい」。取材・文・写真/戸田美子