ESA火星探査機20年間の観測画像から1000以上の塵旋風を検出・カタログ化
こちらは、ESA=ヨーロッパ宇宙機関の火星探査機「Trace Gas Orbtiter(TGO、トレース・ガス・オービター)」が捉えた火星の表面。TGOのカラー・ステレオ表面撮像システム「CaSSIS」で2021年12月3日に観測されました。

画像右側に見える白い煙のようなものは、表面から砂塵を巻き上げる塵旋風(ダストデビル)です。火星の表面を宇宙から観測している周回探査機は、こうした塵旋風を長年捉え続けてきました。
今回、ESAの火星探査機が20年間にわたって取得した火星全体の画像から塵旋風を拾い出し、日ごと・季節ごとの移動パターンを追跡した研究成果を、ベルン大学のValentin Bickelさんたち研究チームが発表しました。
20年間の観測画像から塵旋風を検出・カタログ化
ESAの「Mars Express(マーズ・エクスプレス)」(2004年〜)とTGO(2016年〜)が取得した火星表面の画像をニューラルネットワークを用いて精査した研究チームは、合計1039の塵旋風をカタログ化することに成功しました。
次に掲載するのは、検出された1039の塵旋風の発生位置と、そのうち373の移動方向を示した火星の地図です。色は黒:北半球の春、グレー:北半球の夏、白:南半球の春、赤:南半球の夏に発生したことを示しています。

画像から検出された火星の塵旋風は、北半球・南半球の双方で春と夏に多く発生していたことがわかりました。発生するのは主に昼間で、現地時間の11時〜13時頃にピークを迎えます。
ESAによると、この発生パターンは地球の塵旋風によく似ています。地球の塵旋風も、夏に乾燥した埃っぽい場所で午前遅くから午後早くにかけて最も多く発生するといいます。
一方、発生場所は両半球で傾向が異なります。北半球は画像左上のアマゾニス平原など一部に集中していますが、南半球は特定の場所に集中せず広範囲で発生していることがわかります。
ちなみに図中の白い四角は、火星探査機・探査車の着陸地点を表しています。太陽電池を動力源とする探査機の場合、砂塵が太陽電池に降り積もり続けることで発電量が低下してしまいます。
最近では2022年12月にミッションを終えたNASA=アメリカ航空宇宙局の火星探査機「InSight(インサイト)」も、砂塵による太陽電池の発電量低下に悩まされ続けました。火星探査ミッションでは、砂塵がその行方を左右することもあり得るのです。

塵旋風の移動速度は最大で時速160km近くに
また、火星表面を吹きわたる風は通常なら見えませんが、塵旋風の移動方向と移動速度を追跡することで、研究チームは火星全体の風をマッピングすることができました。
研究チームによると、検出された塵旋風の最大移動速度は毎秒約44m=毎時約158kmにも達します。これはNASAの火星探査車「Perseverance(パーシビアランス)」が観測した毎秒約32mや、InSightが観測した毎秒約31mといった風速を大きく上回ります。
ただし、火星の大気は地球と比べて非常に薄いため、ESAは「人は火星では時速100kmの風でもかろうじて感じる程度」と付け加えています。それでも、豪速球並みの速度で塵旋風が駆け抜ける火星の景色は壮観でしょう。

ESAによると、火星の気候モデルはこれまでの探査ミッションで得られたデータにもとづいて構築されてきたものの、ミッションがカバーした範囲は火星表面のごく一部に限られていました。火星全域から多くのデータを新たに得ることができた今回の研究は、気候モデルを改良するうえで役立ちます。
気候モデルの改良は今後実施される火星探査ミッションにおいて、着陸地点の風況を理解し、太陽電池に付着する砂塵の量を予測することにもつながるかもしれません。
ESAはすでに今後打ち上げられる予定の火星探査車「Rosalind Franklin(ロザリンド・フランクリン)」で情報を活用しており、砂嵐シーズンを避けた2030年に着陸する予定だと述べています。
またBickelさんは、Mars ExpressとTGOは新しい画像を取得し続けており、カタログには今後も新たな塵旋風が追加されていく予定だとコメントしています。

文/ソラノサキ 編集/sorae編集部
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