同士討ちスーパーカー ジャガーXJ220とXJR-15(1) F40以上の性能 959級の乗りやすさ
もっと素晴らしいものを生み出す余地がある
TWR(トム・ウォーキンショー・レーシング)を率いたトム・ウォーキンショー氏は、1988年のロンドン・モーターショーで、プロトタイプのジャガーXJ220と対面した。V型12気筒エンジンの四輪駆動で、フェラーリF40に並ぶ性能が想定されていた。
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技術者のピーター・スティーブンス氏へ、「もっと素晴らしいものを生み出す余地」があると、彼は声をかけた。その2年後に発表されたのが、ジャガー・スポーツXJR-15だ。

左からジャガーXJ220と、ジャガー・スポーツXJR-15 ジャック・ハリソン(Jack Harrison)
英国を代表するスーパーカーの登場から35年。XJR-15は公道を走れるレーシングカーとして注目を集めた一方、XJ220は1993年のル・マン24時間でクラス優勝を遂げるものの、技術的な不備で失格扱いに。市販も遅れ、対象的な評価を受けることになった。
1980年代半ば、世界は好景気に沸いていた。F40以上の性能を備えつつ、ポルシェ959並みの扱いやすさを持つジャガーの構想を、技術者のジム・ランドル氏は描いていた。精鋭12名に声をかけ、密かに開発はスタートした。
ル・マン用のV12で500馬力以上を想定
目指された最高速度は、時速200マイル(約321km/h)以上。0-161km/h加速は8.0秒で、最高出力は500馬力が掲げられた。有機的なボディを描き出したのは、社内デザイナーだったキース・ヘルフェット氏。夜間や週末に、自主的に作業は進められたという。
エンジンは、1988年のル・マンへ向けて開発されていながら、採用が見送られた48バルブのV12ユニットを想定。比較的小さく、500馬力以上の能力を宿していた。

ジャガーXJ220(1992〜1994年/英国仕様) ジャック・ハリソン(Jack Harrison)
このプロジェクトの存在を、ジャガー上層部が知ったのは1988年の前半。CEOだったジョン・イーガン氏は、同年のロンドン・モーターショーへの出展を認めた。
お披露目されると、量産化は未定だったにも関わらず、反響は予想以上。1989年にパワートレインへ大きな変更が加えられても、購入希望者は後を絶たなかった。ヘルフェットの曲線美へ、魅了された人の多さを物語った。
3.5L V6へ変更 プロトタイプは341km/hへ到達
「あのクルマ(XJ220)を量産できないことは、すぐに分かりました。V12エンジンで四輪駆動など、求める要素を詰め込んだクルマにはなり得ませんでした。ジャガーへ期待される性能も」。と、1992年にウォーキンショーは振り返っている。
既にジャガーはフォードによる買収が決まっており、XJ220の詳細発表は1989年12月へ遅れた。ボディサイズはひと回り小さくなり、軽量になったものの、3.5L V6ツインターボの後輪駆動へ改められていた。

ジャガーXJ220(1992〜1994年/英国仕様) ジャック・ハリソン(Jack Harrison)
ABSやパワーステアリング、可変式ダンパーの採用もなし。それでも、1992年からの納車が明らかになると、5万ポンドの頭金を払う人が殺到。アメリカ・テキサス州のテストコースで、1991年5月にプロトタイプは341km/hへ到達し、関心は更に上昇した。
平面的な部分がない紛うことなきジャガー
ところが、XJ220の購入を考えていた富裕層は、急降下する世界経済のあおりを受けた。1992年2月に生産は始まるものの、キャンセルが続出。TWRとの協業による、ジャガー・スポーツ社の工場をラインオフしたのは、286台に留まった。
今回の1台も、不景気に負けず無事に購入されたXJ220。塗装はル・マン・ブルー・オーバー・グレーで、スポーツエグゾーストと強化サスペンションが組まれ、走行距離は1万6000kmほど。2004年以降はジャガーの専門家、ドン・ロー氏が所有している。

ジャガーXJ220(1992〜1994年/英国仕様) ジャック・ハリソン(Jack Harrison)
全長4930mm、全幅2220mmのボディは低く長大。平面的な部分がない姿は、紛うことなきジャガーだ。リアには、巨大なベンチュリー効果を生むトンネル。321km/h時のダウンフォースは、318kgに達するという。
ワイドなサイドシルを乗り越えて、レザーで包まれた車内へ。天井が低く、サンバイザーに頭がぶつかりそうになる。ステアリングホイールは4スポークで、メーターは6枚。ドア側のパネルにも、ブースト計やトランスミッションの油温計などが並ぶ。
速度が乗ると驚くほど運転しやすい
V6エンジンはグループCカーのXJR-11由来だが、サウンドは実務的。クラッチが重く、アクセルの反応は鈍い。1速のギア比はロング過ぎ、間違って3速を選んだのかと思うほど。しかし速度が乗ると、驚くほど運転しやすい。
アシストのないステアリングは重く、ロックトゥロックは2.6回転とクイックではないが、ダイレクトで正確。直線では、蹴飛ばされるような加速を誘惑する。過去のAUTOCARの計測では、0-100km/hは3.6秒、161km/hまでは7.9秒だった。

ジャガーXJ220(1992〜1994年/英国仕様) ジャック・ハリソン(Jack Harrison)
ターボラグは明確でも、右足を深く倒すと549psが解き放たれる。ドライな高音を奏でながら、2速で引っ張るとあっという間に145km/hへ届いた。
グリップは頼もしい。コーナリングはフラットで安定している。初めは濡れていた路面が乾くと、旋回速度は更に高まる。V12エンジンから転換するという、ウォーキンショーの判断は正しかったと実感する。
この続きは、ジャガーXJ220とXJR-15(2)にて。
