「美少女ロボが生活する世界」を目指して! とあるエンジニアが大学を8留してもまだ夢を追い続ける理由とは?【足立レイ開発者インタビュー】

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 等身大美少女ロボット制作計画――人間と同じようにロボットが暮らすSFのような未来を目指すロボット開発者がいます。

左:足立レイ(「等身大美少女ロボット制作計画」の第三世代ロボット) 右:みさいるさん(足立レイの開発者)

 人間と暮らすロボットと言われて、膝を曲げたまま歩く角ばったボディの2足歩行機械や、ゲームなどに登場する人間と寸分たがわない(不気味な)アンドロイドをイメージされる方も多いかもしれません。

 しかし、彼が生み出したいモノはアニメの中の美少女のようなロボット――曰くアニメ人。産業や人間の補助のためだけの存在ではない、隣人のような存在だと言います。

提供:みさいるさん

 彼は大学で等身大美少女ロボット制作計画」にのめり込み、1度の留年、1年の休学、3年間の退学期間を経て復学後、博士課程を3年延長してまで“アニメ人”を実在させようと、研究を続けています。

 研究が長期に及ぶ理由は、既存のロボットと「等身大美少女ロボット」の違いにあります。その違いとは、プロポーションを維持しながら、外部から補助されずに自立しなければならないこと。

 機械の身体を支えて動かすだけの関節の力を、華奢な少女のシルエットで実現するために、彼は生活を切り詰めながら総額100万円を超える私財を投じて研究を続けました。

 彼は開発を進める中で、2017年2月15日にスタートしたクラウドファンディングでは180名を超える支援者から350万円以上の支援を集め、同プロジェクトで開発された足立レイは2024年12月3日に目標であった「2本の脚での自立」を実現しました。

 自身の生活も人生もかけて、理想を実現しようとする彼の狂気とも言える熱意が、多くの人を惹きつけ「等身大美少女ロボット制作計画」はその歩みを進めています。

 何が彼を突き動かすのか。なぜ既存のロボットではダメなのか。なぜ「等身大」で、なぜ「美少女」なのか……足立レイ」開発の裏側と、ロボットが隣にいる未来について開発者である、みさいるさんにインタビューしました。

取材・文/船山電脳

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■自立した二足歩行ロボットへのこだわりは、幼少期のトラウマが原因!?

――「等身大美少女ロボット制作計画」の一部という形で「足立レイ」の開発をされましたが、そもそも何がきっかけでこの計画を考えたのですか?

みさいる:
 僕が美少女キャラクター好きなアニメオタクだからです。最初は、アニメっぽい造形の人形がこれから流行る、需要がある、と思い立って作り始めました。

――市販されている等身大の美少女フィギュアを買うのでは、いけなかったんですか?

みさいる:
 当時はなかったんですよ。今はボークスさんから出ている球体関節人形のスーパードルフィーとか、割とアニメチックな人形があるにはあるんですけど、当時は全くと言っていいほどなかったんです。

 それで人形教室に通ってたんですが、せっかく理系の大学に来ているし、アニメキャラみたいなロボットを作りたいと思うようになったんです。

――「欲しいから作る」が始まりなんですね。アニメキャラに近づけるなら単純にアニメ調の顔にしたり「美少年」という表現方法もあるかと思いますが、「美少女」にこだわる理由も「好き」だからですか?

みさいる:
 そうですね。好きだから、そういうロボットが欲しい、作ってみたいと、そういう気持ちが大きな理由です。

 現実的な話もすると、二足歩行の人型ロボットは実用的な用途としてはまだイマイチなんですよ。
 例えば、給仕の仕事をさせるなら、ネコちゃんロボットみたいな配膳ロボットを作ったほうが役に立ちます。

 そこをあえて人型のロボットにするなら、アニメ的な造形を現実世界に存在させてライブやイベントに活用するエンタメ方向の存在になると思ってるんです。

――そういった理由で研究されているんですね。

みさいる:
 アニメキャラみたいなロボットを作りたいと思うようになったあと、初音ミクが世に出てきたんです。
 とても面白い技術だし、初音ミクのロボットを作ろうかなと思ったのが本格的なスタートですかね。

引用元:piapro.net Character 初音ミクをはじめとするピアプロキャラクターズの紹介

――「等身大美少女ロボット制作計画」は初音ミクの登場で始まったんですね。

みさいる:
 そうなりますね。初音ミクの登場が2007年なので、もう17年以上になりますね。

――初音ミクの登場以前からアニメオタクということでしたけど、ロボットもお好きだったんですか?

みさいる:
 そうですね。アニメにハマったのが中学くらいなんですが、科学系全般も好きだったんです。
 『子供の科学』とか『Newton』とか科学雑誌も読んでいて、好きな物同士が融合した感じです。

――子供のころから好きだったんですね。特に好きな作品はありますか?

みさいる:
 エヴァを作った庵野秀明さんが総監督をした『ふしぎの海のナディア』が好きですね。

 『ふしぎの海のナディア』は科学技術を発展させることを前向きに書いてくれてる作品で、そこがとても好きですね。
 特に影響を受けたのが、ネオ皇帝ですね。

 ネオ皇帝は身体のほとんどが機械化されているロボットみたいな状態で、外部の電源とケーブルで繋がっている「ひもつき」なんです。
 そのプラグを引っこ抜かれて倒れちゃう。それがトラウマなんです。

――トラウマというほど衝撃を受けたんですか!?

みさいる:
 すばらしい機械要素を持った人型ロボットなのに、プラグを引っこ抜かれたらおしまい
 あまりにも正しい描写で、「機械なんだ……」と衝撃を受けたんです。それで「俺だったらこんなふうには作らない!」と。

写真では調整のためケーブルを繋いでいるが、「足立レイ」はバッテリーを内蔵して自立できるよう設計されている 提供:みさいるさん

 「ひもつき」のロボットって自立性がないというか「生物として弱いな」という思うんです。
 足立レイも内蔵バッテリーで全部動くようにしていて「絶対に外からの外部電源供給だけで動く状態にはしたくない!」と思ってます。

――「ひもつき」は嫌だというのは、エンタメで活用する場合もですか?

みさいる:
 没入感を損ねてしまいますね。人間ってエンタメを見ていても、冷静さというか冷徹さがあると思います。
 舞台の中から出てこないとか、後ろに何か引きずっているのを見ると「この子はこの舞台の中だけの装置なんだ」ってどこかで考えちゃうと思うんですよ。

 ちゃんと1人で自立していると「この子が存在している」「あ、いる」って感じるんです。

■17年間の継続が集めた仲間

――「等身大美少女ロボット制作計画」ですが、開発は一人で進めているんですか?

みさいる:
 最初はそうですね。でも、今は手伝ってくれてる人たちがいます。
 メンバーの1人にnop(ノップ)さんっていう、別の大学の学生で足立レイの回路やプログラムを作ってくれた方がいるんです。

――nop(ノップ)さんとは、どうやって知り合ったんですか?

みさいる:
 nop(ノップ)さんがまだ中学生のときに足立レイや僕の活動を見てメールをくれて、研究室に招いて色々教えてたというか、話していたんです。
 そしたら、それからスキルをどんどん身につけて、元は足立レイを動かすプログラムが別にあったんですけど、一から書き直して作ってくれたんです。

――足立レイがきっかけで人生の方向が決まったと言っても過言ではないですね。ほかにもお手伝いしてくれてる方っているんですか。

みさいる:
 吉崎さんという方に、歩行試験とかするたびにお世話になっています。
 等身大ガンダムとかの制御を担当している方で、日本の歩行制御の第一人者みたいな方なんです。

――第一線で活躍されている方と、どういったきっかけで知り合ったんですか?

みさいる:
 吉崎さんが2008年ごろに、ニコニコ動画にズゴック型のロボットを姿勢制御してポーズを取らせる動画を投稿していたんです。
 それと同時期ぐらいに僕が初音ミクの1号機の動画を投稿していたので、それで知り合ったんです。

 そこからの縁で、今でもロボットの身体を作り上げて制御しようってなったときは毎回頼んでます。

――ほかに手伝ってくれている方はいますか?

みさいる:
 弟に会計とグッズを担当してもらっています。
 3Dプリンターがうちにもあるんですけど足立レイの足のギアをキーホルダーにしたり、ジュエリーケースみたいなのに入れたり。

提供:みさいるさん

――キャラクターグッズとして、本当に使っているのと同じパーツをグッズとして売るというのは、ロボだからできることですよね。

みさいる:
 グッズ用に作っておいたギアを足立レイに使ったこともあります。「これ、グッズじゃなくていいや」って入れたことは結構ありました(笑)。
 実際に部品として使える物とは別に観賞用として作ったギアも売っていて、今は観賞用の方が目玉商品なんですけどね。

――個性的なメンバーですね。長い間「等身大美少女ロボット制作計画」を続けて、同じ方向を向いてる人たちが自然に集まってチームになっていくのは熱いですね。

みさいる:
 でも、ある意味ハードルは高くて。
 僕はもう17年ぐらいやってますが、すぐに完成するものではないので「ずっとやっていこう」という、ある種の覚悟が必要なところはあるんですよ。

提供:みさいるさん

――これからもずっと等身大の美少女のロボットを作り続けますか?

みさいる:
 そうですね。今回の足立レイは第三世代【※】ですが、第四、五世代になるころには、直立だけではなく軽快に歩いていくようにしたいですね。

※みさいるさんが行っている等身大の美少女ロボットの制作、第一世代と第二世代ともに初音ミクの見た目のロボットだった

■没頭しすぎて大学中退!? 人生をかけた開発計画

――17年も研究を続けていらっしゃるということですが、今は大学で研究されているんですか?

みさいる:
 博士後期の一番最後の年次で、卒業できれば博士ですね。
 ただ、今書いている論文があるんですけど、論文の審査会に間に合いそうもなくて……。
 恐らくこのままだと満期退学になるんじゃないかな。

――すみません。いきなり話しづらいこと聞いちゃったかもしれないですね……。

みさいる:
 いえ、全然(笑)。ちゃんとした論文が3本認められれば、それでも博士になれるんです。
 音声合成の論文と、足立レイの工学的な部分の論文を書く予定で、あともう1本書いておいおい目指すつもりです。

――音声合成の論文というのは、足立レイの声でもある人間の声を使わない合成音声「レプリボイス」に関するものですね。

 論文は2本とも「等身大美少女ロボット制作計画」関連ですが、逆に学業の足を引っ張ってしまったこともありますか?

みさいる:
 それはものすごくあります(笑)。
 影響しないわけがない(笑)。

――そうなんですね(笑)。進級が危ない! みたいなときもあったんですか?

みさいる:
 何回も留年しましたね。最初に3年のときに留年して、第一世代の初音ミクはそんな中で何とか作ったんです。
 そのあと休学して、第二世代の初音ミクを作ろうと思っていたんですが、すぐには完成しそうもなかったので中退しました。

――中退したんですか!?

みさいる:
 それで実家に帰って、実家で作り続けたんです。
 2、3年ぐらいして第二世代の初音ミクが完成したんで、日本大学理工学部の4年生として再入学しました。
 モーションキャプチャーの実験動画を投稿したのが、そのころです。

 そのあとに1、2年して院生になったころに足立レイを作り始めて、博士課程に進んで本来なら3年で卒業するところが現在、博士課程6年目です。

――すみません。ちょっとたし算がわからないんですけど……。

みさいる:
 「1留年、1休学、3退学期間、3博士課程延長」ですかね、多分(笑)。
 いや、もう親には苦労をかけました。

――本当に人生をすべてかけてますね。

みさいる:
 そうですね。でも、完成はいずれするもんだとは思ってて。自分が死ななければ(笑)。

――特に費用がかかった部分のはどこですか?

みさいる:
 人件費を考えなければ、多分モータだと思います。大体、今、使ってるので足に1個3万円以上ぐらいするものが28個。28×3万3000円ぐらいかな。

 なので下半身だけで90万円ぐらい。最初に作ってたころは1個、1万5000円ぐらいのモータを月々の仕送りをやりくりして買っていました。
 バイトをすると研究の時間も取れなくて、月5万円の中から2個モータを買って3万円。残りの2万円で生きてました(笑)。

――生活費を切り詰めて、モータを買って作っていったんですね。

みさいる:
 モータがないことにはロボットは動かせないので、どうしても必要な出費でした。
 大学に入学したときの誕生日に10万円ぐらいのホビーロボットを両親から貰ったんですが、それも分解して第一世代の初音ミクに使ってしまいました。

■クラウドファンディングはプレッシャーの連続……

――足立レイの開発ではクラウドファンディングを利用されましたが、支援を集めるにあたって難しいと感じたところはありますか?

みさいる:
 自分で勝手に作っているときは期限も、完成させなきゃいけないって義務感も全部が自分次第なんですよね。
 だけど、お金を貰って返礼を約束して作っているっていうのは、やっぱり責任があるんで。そこの意識はまったく違いましたね。

クラウドファンディングページに掲載された「暫定見た目」のイラスト

 それに加えて、達成できなかったら全額返金するシステムだったので、目標金額まで支援が集まるかどうかのプレッシャーもありました。
 最終日近くになるまで集まらなかったんで、そこも大変でした。

――クラウドファンディングならではのプレッシャーですね。

みさいる:
 それだけ「達成しなきゃいけないな」と感じていました。
 でも、元来あんまり積極的な宣伝とか、広告を打つみたいな行為があんまり得意じゃなくて、そこら辺の心労もありましたね。

――苦労を乗り越えてクラウドファンディングを成功させ、足立レイを実現されましたね。なぜ成功できたと思いますか?

みさいる:
 初音ミクの1号機と2号機を作りきって、動画にして人に見せていたので信頼してもらえたんだと思います。

――実績がある状態からスタートできたということですね。支援者には初音ミクのロボットを通してみさいるさんを知った人が多かったんですか?

みさいる:
 そうですね。始めた当時は結構な割合がそうだったと思います。
 ただ、今ではもう足立レイから知ったって人がかなり多い気がしますね。

■直立することの難しさと、見えてきた次なる課題

――そんな足立レイが今回、直立の試験に成功されたわけですが、技術的に難しいポイントっていうのはどういうところでしょうか?

みさいる:
 今回の意義の1つは「剛性(変形しにくさ)」。体がふにゃふにゃだとバランスの取りようがないですから、自立できるだけの剛性があることが確かめられました。
 もう1つ、足のモータに自分を支えるだけの力があるかどうかを確かめる意味もありました。

――剛性と身体を支えられるだけの力が揃わないと自立できないわけですね。等身大という大きさで二足で立つというのは、やはり難しいことなんですね。

みさいる:
 立つだけでも結構、難しいことですね。
 加えてもう1点確認できたことが、バランスを取るための制御をしない状態で自立できたというところです。これは重心が体の中心を通っていないとできないんです。

――全体の重量のバランスも確認できたんですね。

みさいる:
 剛性、最低限の力、重心の良さの3点が確かめたかった重要な点で、自立に成功したということはすべて達成できているということです。
 この3点がそのまま、技術的に難しいポイントでもありますね。

提供:みさいるさん

――脚で体を支えようとすると、一番細い足首のところに一番体重がかかった状態になると思うんです。足立レイの足はスッとしていて細いですが、その少ないスペースに体を支えるだけの力が出せる機械を入れるというのは、技術的に難しいところですか?

みさいる:
 それはすごく難しいところですね。
 人間の身体は「骨格腱構造」と言って、筋肉で腱を引っ張ってると関節が動くようになっているんです。

引用元:Wikipedia 三角靱帯

 例えば、指を動かしてる筋肉は腕に入ってるわけです。同じように足首が細くても、脚の大きな筋肉に引っ張られて関節を動かしてるから、関節は細くて大丈夫なんですよね。

――関節をモータで回すロボットとは、根本的に構造が違うんですね。

みさいる:
 はい。ロボットの場合は強い駆動力を発生させるためには、基本的に大きなモータが必要です。
 なので、産業用のロボットだと根本ほどがっしりしてることが多いです。

 だから二足歩行ロボットも、基本的に足首は太くなる傾向にあるんです。
 それを細く、人間と同じようにしようとすると難しいわけです。

――単純にモータを大きくして強くしようとすると、寸胴で角ばった足になってしまうわけですね。今回、足立レイの「美少女のシルエット」を崩さないためにどういった工夫をされたんですか?

みさいる:
 人間のシルエットに近づけるには大きく分けて2つの方針があると思います。
 1つは骨格腱構造を再現することです。

 太ももとかに駆動力を詰めて引っ張って動かすので、人間と同じような構造にできます。
 最近はそういうロボットもあるんですが、部品点数が増えて高価になりがちなんです。

――部品が増えるのは、パワーを出す場所と動かす場所が離れているからですか?

みさいる:
 距離の問題以上に、モータの種類が増えることが原因です。
 例えば、同じモータを十何個とか使っている簡単なロボットは、足のモータも腕のモータも同じモータです。

 同じモノを使うなら、パーツも共通にできるので種類を減らせます。
 しかし、骨格腱構造を再現すると太ももは太もも専用、足首は足首専用、と別の大きさのモータと機構が必要になります。

 様々な大きさのモータとそれぞれに合わせた部品を用意すると、共通のモータを使うのと比べて最終的なコストが何十倍にもなってしまう可能性があります。
 骨格腱構造の再現では、開発期間と費用がかさむという懸念がありました。

――では、もう1つの方針で工夫されたんですね?

みさいる:
 そうです。費用を抑えるため「関節にモータを入れる」方式を採用しつつ、モータを段々に積んでギアで連結して力を増すようにしました。
 高さ方向にスペースを使い、関節に力を集約できるようになってるんです。

足立レイの右足付け根のモータの様子。3段重ねになったモータが太ももの関節部分から見える

 股関節は3段、膝は同じく3段で、足首は2段入っています。

――足首2、膝3、股関節3で片足で8個のモータが使われているんですか?

みさいる:
 前後の動きだけでその数ですね。それに加えて、脚を横に動かしたり、傾けるためのモータも入っています。
 すべて合わせると片足に14個のモータが入っています。

足立レイの膝裏。モータが3段重ねになっているのが見える

――モータって1個3万3千円ぐらいですよね?

みさいる:
 そうです、はい。
 ただ、これでも足りないです。今のパワーでは、歩行できるか微妙なところなんです。

――これだけモータを使っても、まだパワー不足なんですか?

みさいる:
 ロボットを歩行をさせる前段階でやる試験がいくつかあって、まずは直立っていうのが第一段階です。
 次は座った状態から立ち上がるとか、両足で屈伸するとか。さらに次に、片足で屈伸とか。

 そういった動きができると二足歩行も期待できるんですが、現状では多分できない。
 計算上、今の状態では片足スクワットはギリギリできるか……ちょっと難しいくらいじゃないかと思ってます。

――歩くためには、どのくらいパワーを強化しないといけないんですか?

みさいる:
 欲を言えば、今の3倍くらい欲しいところではあります。
 3倍あれば安泰かな。2倍ではまだ怪しいかもしれない。

■等身大美少女へのこだわり

――美少女らしいシルエットを維持しつつ、歩行を実現するパワーを出すのは難しいんですね。シルエットに関していうと、胴体もほっそりしてますよね?

みさいる:
 そうですね。ちょうど今おなかを開けた状態なので、見てみますか?
 結構、これが癖に刺さる人がいるらしくて。

――そういう需要もあるんですね!? ちなみに、もう少し胴体が太ければ作りやすかった、とか難しいところもあったんですか?

みさいる:
 そうなんです。ここも結構頑張って細くしたんですよ。

 この細さで剛性を維持するために、一体成型(パーツを組み合わせるのではなくて、1つの部品で作ること)にしたんです。
 この胴体を作るために60センチぐらいの大きさの印刷ができる3Dプリンターが必要で、クラウドファンディングはそれを買うためにしたようなものですね。

――人間の胴体サイズの部品を一体成型で作るなら、かなり大きなもの必要ですよね。

みさいる:
 冷蔵庫の半分ぐらいの大きさの3Dプリンターがあって、100万円ぐらいするんです。

足立レイの部品作成に使われた3Dプリンター 提供:みさいるさん

――そんなにするんですか!? ほかにも作るのが難しかったところはありますか?

みさいる:
 あとは顔ですね。中に目や口を動かすプレートが入ってるんですけど、表情を作る機能って二足歩行ロボットでやることじゃないんですよ。

――確かにこういったコミュニケーションに特化したロボットは、座った状態とか体が固定されているイメージがあります。

みさいる:
 なぜそうなるかというと、表情を動かすための機械が大きくなりがちだからなんです。
 例えば、表情を変えるときによく使われる空気アクチュエータならコンプレッサーが必要なんです。

 コンプレッサーって基本的に重くて場所を取るんです。だから二足歩行ロボットに積むには向かないんですよ。
 だから、エンタメ向けに表情が変わるロボットを作るんだったら、身体は動かないように固定された形の方が合理的なんです。

――例えば、会社の受付をロボットにしたいなら、受付に固定して後ろから電気や空気を送って……それだと『ナディア』の話題で登場した「ひもつき」ですよね。

みさいる:
 そうですね。受付ロボットを作ってくれという案件だったら、絶対に固定したのほうが賢い。そっちでやるべきだ、と思うんです。
 でも、固定する前提で作ったものは歩き出せないんですよ。建物と同じで基礎をしっかり作って倒れないように作りますから。

 僕が目指しているのは人を作ることなんです。始めから自由に動けるように一個体として作らないと、人間のように歩き回る未来はない。
 僕は一個体として完成してるロボットが生物として強いだろうと思っているんで、舞台装置的なロボットは作りたくなかったんです。

■「人間が最強」だから等身大で作りたい! 人間を再現する挑戦

――「一個体として完成してるロボット」を作りたいというのが、二足歩行ロボットにこだわる理由なんですね。自立だけでなく「等身大」にこだわるのはなぜですか?

みさいる:
 理由の1つは「存在感」ですね。等身大だと結構目立つんです。
 エンタメ的にもインパクト的にもメリットがあります。

――存在感やインパクトのためなら10メートルくらいの巨大なロボットも目立つと思うんですが、人間サイズにこだわるのはなぜでしょうか?

みさいる:
 やっぱ人間が強いので。人間って世界を支配しているじゃないですか。

――最強というと、私は巨大なスーパーロボットをイメージしてしまいます。みさいるさんが思う「最強」は人の形、人の大きさなんですか?

みさいる:
 多分、ガンダムより人間の方が強いと思います。

――大丈夫ですか!? ガンダム作ってる人とお友達ですけど(笑)。

みさいる:
 1対1だったら、そりゃ、人間サイズのロボットは踏みつぶされちゃうかもしれないですよ。
 でも、巨大なロボットを作ってるのは人間なんだから、人間サイズのロボットだってガンダムみたいなロボットを作れるはずなんです。

――人間と同様に作る側にもなれるってことですね。

みさいる:
 それって最強だと思うんですよね。だから、僕は人間ぐらいのサイズ感のロボットっていうのが強いと思ってます。

――なるほど。人間サイズのロボットが集団を作ったらガンダムに勝てるかもなんて、想像したことがありませんでした(笑)。

みさいる:
 結局のところ、現状の世界は人間が支配してるので、きっと人型ロボットは強いはずだと思います。
 あと、自分が作ってて楽しいっていうのも理由の1つですね。

――作っていて楽しい、というのは難しいからこそ挑戦したいということですか?

みさいる:
 難しいからこそというか「できるはずだ」と思っています。人間という存在が実現できているんだから、機械要素での再現もできる。
 人間だって、何かしらの制御をして、何かしらの機械要素を使って歩いているわけですから。

――人間の再現を目指しているんですね。ほかにも人間を再現しているような、足立レイの機能はあるんですか?

みさいる:
 Xのタイムラインから学習して、自動でポストするパソコンが頭に入っています。

 足立レイのXアカウントを作ってあって、今もきっと動いて、何かしらポストしているはずです。
 何を言ってるか確認するのが楽しみです。

――頭の中に入ってるんですか?

みさいる:
 はい。ここ、頭のてっぺんに手かざしてもらえれば、あったかいのがわかると思います。
 中にパソコンが入っていて、ここから排気してるんです。

――あっ、本当だ。頭から排気……ここに入れてるってことは、脳ですね。

 この頭から、とんちきポストが世界に発信されてしまっています(笑)。

■等身大美少女ロボット制作計画が描く未来

――今回、足立レイは直立に成功しましたが、次に達成したい目標はなんですか?

みさいる:
 足立レイ
の目標だと、次は立った状態で腕とかを振り回したり、アクションしても転ばない状態にしたいです。

――制御を加えるということですか?

みさいる:
 そうです。ぽんって押しても、腕を振って倒れないようにして、身振り手振りしても立った状態にいられるっていうのが次の目標です。

――ちなみにその実験はいつごろ行う予定ですか?

みさいる:
 まず、上半身の動作試験は2024年12月中か2025年の初頭【※】ぐらいですね。

※インタビューは2024年12月に行われました。

――今回の実験で分かったことも多いですか?

みさいる:
 そうですね。電源系の強化や、ギアを金属に替えたほうがよさそうみたいなところは見えてきたんで、そこを完了してからやるかもしれないです。

――第三世代の足立レイから将来、第四、第五世代と計画を進めていくにあたっての目標を知りたいです。「ここが一番の壁になりそう」というポイントはどこですか?

みさいる:
 まず、この大きさとこの細さで歩くっていうのが、技術的に相当難しいです。
 それと同時に歩き方も重要です。
 いわゆるモデル歩きというか、膝をそんなに曲げずにスッスッと歩く「膝関節進展歩行」という歩き方をさせるのが難しいです。

――膝関節進展歩行の難しさはどういうところなんですか?

みさいる:
 膝関節進展歩行は制御的にいろいろ難しいんです。
 僕は制御専門家じゃないので、あんまり詳しいことは言えないですが、まず静歩行と動歩行って歩き方があって、静歩行は足の裏から重心をはずさない歩行なんです。

――静歩行は、片足に重心を乗せた状態でもう片方を前に出して、足を地面につけてから重心を移動させる。いわゆる「ロボット歩き」ですね。

みさいる:
 静歩行は重心が足の上にあるので、安定して歩けるんです。でも人間っぽい歩き方ではない。

――普段、人間がしている「動歩行」は、重心が足の上から外れた「不安定な姿勢」を制御する必要があるんですね。

みさいる:
 さらに制御が難しい理由がもう1つあって、ロボットに関節をまっすぐ伸ばした姿勢を取らせようとすると計算上、関節を曲げる速度が無限大になってしまうんです。
 「特異点」と言うんですが、そういった姿勢にならないようにしたり、何らかの工夫をしないとうまく制御できない姿勢になってしまうんです。

――複雑な制御が必要になるっていうことですね。それだけの課題を乗り越えて実現されるロボットというのは、既存の二足歩行ロボットとはどういう違いがあるんでしょうか?

みさいる:
 まずは見た目ですね。アニメキャラをそのまま再現したようなロボットにしたい。
 今、ほかにあるロボットって、いかにもそういうロボットっぽいロボットって感じですよね。

 アメリカとかヨーロッパとかだと、リアル志向で人間に近い体格と顔のアンドロイドを目指しているんだと思うんです。
 僕はアニメキャラみたいなロボットっていうか、どっちかっていうと「アニメ人」みたいな存在がいてほしいなと思って。

――「アニメ人」ですか。

みさいる:
 リアル志向のがっちりした人間っぽいロボットだけの世界になってほしくないんですよ。
 だから、せめて自分だけでもアニメキャラみたいなロボットを目指したい。

 アニメ作品の中なら、アニメキャラみたいなロボットは存在してるじゃないですか。
 だから、現実にもそういうのがいてもいいんじゃないかと。リアル志向のロボットだけにはしたくないんですよ(笑)。

――「人間に寄せたロボット」ではなくて「アニメ人」っていう存在を実現したいわけですね。アニメの登場人物のようなロボットというか。

みさいる:
 そうですね。今でいうと『VRチャット』のアニメ系アバターみたいな。そういうのをロボットでできるような。
 そういう勢力が一定数いる世界にしておきたい。

VRで楽しめるチャット『VRchat』Steamの販売ページより引用

 人間そのままな見た目のロボットだったら、結局、人間と同じ形のものが増えるだけで、見た目が変わらないから面白くないと思うんです。

――見た目を多様にしてやろう、ということですか?

みさいる:
 10人に1人ぐらいは、アニメ人のロボットを使って生活していて、もっと人工知能が進めば、自立したキャラクターそのものみたいな存在も生活している世界が面白いんじゃないかな。

VRchatで使用できる足立レイのアバター(Boothの販売ページ) 提供:みさいるさん

――もし本当、そういうロボットが作れるようになったっていうときに、生身の人間とどんな関係を築いていってほしいと思いますか?

みさいる:
 アバターとして使うなら普通に生活していく「アニメ系のロボットをアバターとして使ってるだけ」っていう感覚の社会ができたら面白いんじゃないかなとは思います。
 AIを搭載した完全に自立したモノも実現していたら、僕的にはそれも面白いと思います。

――自我を持ったAIロボットに、かわいいアニメキャラが混じっていたら面白そうですね(笑)。

みさいる:
 あとは、足立レイは服とかファッションにもこだわって作ってるんです。
 そういう自我を持ったロボットが存在したら、人間と同じように商品を買ったり、消費活動をすると思うんですよ。

足立レイのスカート。実際に組み込まれている電気回路と同じ回路図がデザインされている。

――ファッションで流行の服を新しく買ったりとか?

みさいる:
 服を買って毎日着替えたいとか、靴を新しくしたいとか。
 生活の中でそういう欲求というか、必要性が出てくるじゃないですか。

――自分で行動を決めるところまでAIが進化したら、確かにそうなりそうですね。

みさいる:
 そうなってくると普通に経済的にも役立つ存在になるんじゃないかなって思うんです。
 人間と同じように商品を必要とするロボットが増えたら、人口が増えたのと同じような効果があるんじゃないかと思ってます。

――新鮮な視点ですね。AIに自我ができたら「あの服欲しいな」とか「あの靴欲しいな」みたいな消費側になることもあり得ますね。

みさいる:
 生きていく、存在していくためには空間とエネルギーと物品を消耗するんで、消費する存在になると思うんですよね。
 だから恐らく人間と同じような扱いになるんじゃないかなと思います。
 生身の人間とは消費するものが違う、新たな人間的な存在として社会の中に組み込まれて動いてくんじゃないかなと思います。

――自立したAIが誕生しても、人間の生活はあんまり変わらない?

みさいる:
 すでに人間が作っている社会に自我のあるロボットが入っていく形になるので、基本的なところはあんまり変わらないんじゃないかと思うんです。

 人間と変わらない自我を持った存在が作られた場合は、人間の中に溶け込んでいくような世界になると思います。
 むしろ、ぞんざいに扱うわけにいかないじゃないですか。人間と変わらない存在なら。

――しかも、見た目はアニメキャラみたいな、かわいい女の子ですからね(笑)。

みさいる:
 何でもしてあげたくなる(笑)。
 なので、人間の仕事は楽になるとかよりは、そういう存在が増えるだけな気が何となくします。

 恐らく最初、人工知能がどういう進化をするかによって大きく方向性が変わると思うので、将来が本当にそうなるかは全くわからないです。
 でも、人工知能を積んだロボットが社会の一員として動き出すようになったら、面白いと思います。

 ただ、僕はハードウェア作ることが任務だと思ってるので、そのハードウェアを人間が遠隔で動かして、という方が関心が向いてます。

――自動で動く方ではなく、人が遠隔で動かすアバター的な使い方ですね。

みさいる:
 ロボットの身体を社会で使っていくことができれば、いろいろな人の活動が変わるので、社会も変わって面白いかなと。

――きっかけは「人形が欲しい」だったわけですが、ここまでの開発で様々な苦労をされていますよね。何がみさいるさんをそこまでさせるんですか?

みさいる:
 「あこがれ」でしょうね。そういうロボットがいたら楽しい。
 お茶でも飲みながら話してみたいなっていう、あこがれです。

 そういう時間をいつか実現するためだったらいくらでも頑張れる。で、実現できたらその後の世界が楽しみになるじゃないですか。
 僕、人間だけが繁栄していく世界はあんまり面白くないなって(笑)。

 アニメ系のロボットが跋扈(ばっこ)してる世界になったら、この先、世界が面白くなると思うんです。そうしたい。

――人間だけの世界じゃないぞ、と(笑)。

みさいる:
 発展の末に人間みたいなロボットが人間と置き換わるだけだったら、多分つまんない。
 人間に文化的に愛されて、その末に生まれたこういう美少女キャラみたいなロボットが一定の割合を占めていたほうが楽しい世界じゃないかなって思います。

■足立レイを通して見える「アニメ人がいる未来」

――「アニメ人がいる未来」に近い感覚を持っている人って、「足立レイ」という存在を楽しんでいるファンの皆さんかと思うんです。足立レイのファンから、何かコメントとかメッセージのようなのって、もらったりするんですか?

みさいる:
 今でもクラウドファンディングのページを更新したり、最近はFANBOXに記事を投稿していて、それで「進捗見てます」とかコメントを貰います。
 あと、先日も直立試験の動画を上げたんですけど「支援してよかった」みたいなコメントをいただきました。

――Xのポストも大反響でしたね。特に印象に残ってるメッセージとかってありますか?

みさいる:
 足立レイ
の顔の皮膚を作っていたときのことで、ホットプレートに乗っけて焼くというか温めて、皮膚をクレープみたいに作っているんです。

足立レイの顔に使われている人工皮膚 提供:みさいるさん

――そういう作り方なんですか!?

みさいる:
 その様子に「おいしそう」っていうコメントがいっぱいついてて(笑)。
 自分も若干「料理みたいだな」とは思ったんですけど(笑)。

――自分でも思ってたんですね(笑)。

みさいる:
 本当に想定以上のコメント数がついてて、外国の方からも英語とか中国語みたいのでも「これはパンケーキだ」みたいな(笑)。
 足立レイの顔の皮ファンアートみたいのが出ちゃって、思ってたのとは違う方向に発展していきました(笑)。

――足立レイがそれだけ受け入れられているですね。「等身大美少女ロボット制作計画」は、第一世代も第二世代も初音ミクでしたが第三世代で足立レイというオリジナルのキャラクターにしたのはなぜですか?

みさいる:
 そろそろキャラクターを借りるんじゃなくて、自分で作っていく時期がきたのかなと思いまして。
 そういう意味の「自立」も込めて「足立」という名前にしました。

――「自分の足で立つ」で「足立」ですか。

みさいる:
 足立レイ
は僕に作られている存在ですけど、できることなら自分で勝手に動いてほしいと思っています。

提供:みさいるさん

 僕は自主性のある存在を作りたいと思っているんです。勝手に動いてくれたらそっちのほうが面白い。

――もし、いろいろな障壁をクリアできて、完全に自我を持った存在ができたときに、どういった振る舞いをしてもらいたいと思いますか。

みさいる:
 それはもう全くわからないですね。
 どんな言動をしだすかは、本当に自立しているなら設計した段階ではわからないはずなので。

 なので、どうしてほしいとかはあんまりないです。
 ロボットが自主性を持つ時が来たら、どういうことを言い出すのか。楽しみです。

■Information

※お披露目会の情報

記事の要約

「等身大美少女ロボット」開発のきっかけ

美少女キャラ好きだったがアニメ調の人形が市販されていなかったため自作しようとしたのが原点。初音ミク登場を機にロボット製作を本格化。将来はエンタメ分野での活躍を目指す。

なぜ自立した二足歩行ロボットなのか

幼少期のアニメ体験から外部電源依存ロボを「生物として弱い」と感じ、内蔵バッテリーでの完全自立にこだわる。ケーブルは没入感を損なうため、一個体として完成させたい。

開発を支える仲間たち

当初一人だったが活動を通じ仲間が集結。動画を見て連絡をくれたnop氏がプログラム、歩行制御の第一人者吉崎氏が技術協力。弟は会計やグッズ製作で支える。

17年間の研究と人生をかけた開発

17年以上続く研究開発。大学留年・休学・中退、博士課程延長など学業の多くを捧げた。生活費を切り詰めて毎月2万円で生活しながら、高価なモータ購入に充てた。

クラウドファンディングの経験

CFでは完成への責任感と目標未達の不安、苦手な宣伝の心労があった。過去の実績が信頼となり、180名超から350万円以上の支援を獲得し開発を進められた。

足立レイの技術的挑戦と課題

自立には剛性・パワー・重心が鍵。細い足首への強力モータ内蔵は困難。モータを重ね力を集約して直立試験に成功。歩行には現パワーの2〜3倍が必要なため改造を計画中。

なぜ「等身大」で「美少女」なのか

人間サイズこそ「最強」という可能性を感じ、機械での人間再現に挑戦。「美少女」の姿は、アニメキャラのような多様な魅力を持つロボットが現実にもいてほしいという願いから。

等身大美少女ロボットが描く未来

次の目標は安定した立位での動作。将来は自然な歩行へ。AI搭載で自律行動するキャラクターのようなロボットが、人間と共存し消費活動も行う未来を期待。