『おつかれさま』など韓ドラで目立つ“田舎志向” ポストコロナで急浮上した“癒し”の価値
2025年上半期に話題を呼んだ『おつかれさま』や、現在Netflixで配信中の『隠し味にはロマンス』に共通する点として、舞台が済州島や全州といった韓国の地方都市であることが挙げられる。さかのぼれば2021年以降、『私たちのブルース』『海街チャチャチャ』『田舎街ダイアリーズ』など、地方都市や田舎を舞台にした作品が注目を集めてきた。
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ソウルのおしゃれな街並みを闊歩する主人公にも胸がときめくが、泥だらけになって畑仕事をする主人公に親近感を持つ人も多いだろう。なぜ今、地方都市や田舎を舞台にしたドラマが人気を集めるのだろうか?
⚫︎田舎暮らしへの憧れが影響? 2020年新型コロナウイルスの流行は、私たちのライフスタイルに大きな影響を与えた。「ソーシャルディスタンス」が合言葉となり、人と距離を取ることを余儀なくされた。休日は人が密集する都会を避け、キャンプをするなど田舎で息抜きをした人も多いのではないだろうか。この頃からものがあふれる都会に疲れた人が「田舎暮らしって意外にいいかも」と田舎の魅力に気付き始めたのだろう。
『隠し味にはロマンス』のヒロイン、ヨンジュ(コ・ミンシ)は、料理に使う野菜を庭で作り、泥にまみれながら世話をしていた。ファッショナブルなヒロインとは程遠い出で立ちで登場することが多かったが、自然体の姿に親近感を覚えた人も多いだろう。
『田舎街ダイアリーズ』では、ソウルで働く獣医師のジユル(チュ・ヨンウ)が、祖父が院長を務めるヒドン里にある動物病院で働くことになる。ヒドン里に一つしかない動物病院の過酷な労働にめげそうになりながらも、警察官アン・ジャヨン(パク・スヨン/Red Velvet ジョイ)と出会い距離を縮めていく。特に大事件が起こるわけでもなく、のどかな田園風景がたびたび映し出されるのでのんびりと視聴できる。
ちなみに韓国は高速道路や鉄道のおかげで、ソウルから比較的手軽に地方都市へ行ける。例えば『隠し味にはロマンス』の舞台となった全州市や『田舎街ダイアリーズ』の舞台となった栄州市まで高速バスで約2時間40分、KTX(韓国高速鉄道)を使えば1時間40分ほどだ。(※)
ソウルへ手軽に行き来でき、なおかつのどかな田舎暮らしができる地方都市。「こんな生活いいかも!」という憧れをドラマで感じている視聴者も多いのではないだろうか。
⚫︎「傷心」を癒すのにぴったりな田舎町 2021年に配信された『海街チャチャチャ』は、才色兼備の歯科医師・ヘジン(シン・ミナ)が勤務先の歯科医院の院長と対立し、やむを得ず田舎町のコンジンに住むことになる話だ。人と距離を置き都会の生活を謳歌していたヘジンが、コンジンで出会ったホン班長(キム・ソンホ)との交流を通じて、田舎暮らしの温かさを感じていく。
コンジンに流れ着いた当初のヘジンは、実直に従ってきた院長の裏切りで少なからず傷ついていた。そして幼い頃に母を亡くし、再婚した父親との距離の取り方が分からず、孤独な気持ちも抱えていた。亡き母との思い出があるコンジンで開業し、都会の生活では見えてこなかった人との繋がりの大切さを知り、成長していくヘジンに胸が熱くなる。海辺の街・コンジンののどかさ、ちょっとおせっかいだけど優しい人々に癒された視聴者も多いのではないだろうか。
「ちょっと心が疲れているかも」という時に、本作のような何気ない日常をゆっくりと描いた作品を観ると、心が癒される。田舎町を舞台にしたドラマには「癒し」の力があるのだ。
⚫︎「人生」を描くのにぴったりな済州島 一人の女性の生きざまを描いて話題となった『おつかれさま』や、さまざまな人々の人生模様をオムニバス形式で描いた『私たちのブルース』、幼なじみとの恋を貫く『サムダルリへようこそ』の舞台となったのが、韓国有数の観光地・済州島だ。済州島を舞台にしたドラマは数多くあるため、ソウルと同じぐらいメジャーになっている。
筆者だけかもしれないが、済州島は人生の厳しさや困難さを描くのにぴったりな場所だと感じる。『おつかれさま』のヒロイン、エスン(IU(青年期)、ムン・ソリ(中年期~老年期))は、海女だった母を奪った済州島の海を憎んでいた。済州島の海は美しいが、ひとたび荒れると荒々しい光景を目の当たりにする。
『サムダルリへようこそ』でも、済州島の気象庁予報官を務めるヨンピル(チ・チャンウク)は、海女だった母を海で亡くしている。二度と同じ事故を起こしてはならないと初恋の相手で幼なじみのサムダル(シン・ヘソン)と疎遠になっても済州島に住むことにこだわり続けていた。
そして『私たちのブルース』では、済州島で懸命に生きる人たちと済州島を捨てて都会へ行く人たちが対比的に描かれており、それぞれの人生模様に胸が熱くなった。主役級のスターたちがこぞって出演しているのも魅力的だ。
特に物語のラストで描かれたドンソク(イ・ビョンホン)とオクドン(キム・ヘジャ)が和解するシーンに涙した人は多かったと思う。余命わずかなオクドンを連れて漢拏(ハルラ)山に行くドンソク。オクドンを背負って山道を歩くドンソクが、2人の人生の困難さを象徴しているようで、涙がこぼれた。
このように韓国の地方都市を舞台にしたドラマは、美しい景色とともに深い人間ドラマを描き、心に癒しとうるおいを与えてくれる。ぜひ韓国の地図を片手に舞台となった街がどこにあるかを確認しつつ、ドラマを楽しんでいただきたい。
参照※ https://www.konest.com/m/traffic_info_detail.html?id=33260※ https://www.konest.com/contents/area_detail.html?id=96(文=咲田真菜)

