「ふやけて不味い紙ストロー」をセブンには置けない…脱プラで窮地に立ったストロー最大手が見出した解決策
■なぜセブン‐イレブンには紙ストローがないのか
コンビニ最大手のセブン−イレブン・ジャパンは環境経営を全面に打ち出している。2023年の夏には環境配慮型店舗の実証実験を始めたばかりだ。
それなのに、アイスコーヒーとセットで提供されるストローは、一見すると普通のストレートストロー(シングルストロー)。「環境に優しい」とされる紙ストローではない。来店者の多くは「昔ながらのプラスチック製」と思っているかもしれない。

昔ながらのプラスチック製とは、石油由来のポリプロピレン(PP)製ストローのことだ。
2015年、ウミガメの鼻にストローが突き刺さった動画がユーチューブへアップされ、瞬く間に拡散。それ以降、脱プラ運動が世界的に盛り上がった。
合言葉になったのが「プラストローから紙ストローへ」。スターバックスやウォルト・ディズニー、マクドナルドといった米系有力企業が相次ぎ紙ストローへ移行した。
それと比べると、セブンの反応はいまひとつのように見えるが、実際は違う。
■「環境にやさしい植物由来のストロー」とは
実は、セブンのストローはPP製ではない。環境配慮型の海洋生分解性プラスチック「PHBH」だ。ストローが入っている袋には小さな文字で「環境にやさしい植物由来のストロー」と書かれている。

製造元は大手ストローメーカーの日本ストロー(本社:東京・品川)だ。1年半にわたって化学メーカーのカネカと共同開発プロジェクトを進め、2019年にPHBHストローを完成させている。
PHBHは100%植物由来であり、海洋に投棄されても時間がたてば自然に分解される。原料はパーム油だ。
日本ストローの稲葉敬次社長は「静岡県富士市にある田子の浦という港で実験したことがあるんです」と打ち明ける。
「当局の許可を取ってPHBHストローを海の中に入れて、半年以上放置してみました。するとストローはきれいに分解して無くなっていました。これならウミガメ問題は絶対に起きませんよね」
■紙ストローへのシフトで先陣を切ったスタバ
セブンは2013年にカウンターコーヒー「セブンカフェ」を開始し、業界に一大旋風を巻き起こした。挽きたて・淹(い)れたてのコーヒーはたったの100円でありながら、「1杯数百円のスタバに匹敵するほどおいしい」と評判になるほどの本格派だった。
当初、ストロー棚に置かれていたアイスコーヒー用ストローはPP製だった。
それから2年後、ウミガメ動画の拡散で脱プラ運動が広がり、ストローが集中攻撃を受けるようになった。ここから紙ストローへの大シフトが始まった。

先陣を切ったのはイメージ戦略を重視するスタバだった。2018年7月にPP製ストローの全廃を宣言し、2020年中に世界中の店舗で紙ストローを導入すると表明した。それに従って日本でも紙ストローへ全面移行している。
ただしプラストローを廃止したわけではない。顧客からリクエストがあれば、生分解性プラストローとの交換に応じている。
■消費者に不評の紙ストローは姿を消していく
その点でセブンは出遅れているわけではなかった。ほぼ同じタイミングで環境配慮型ストローへの全面シフトを目指していた。
日本のスタバで紙ストローの導入が始まった2020年1月より少し前のことだ。日本ストローがカネカと進めていた共同開発プロジェクトがちょうど終わり、PHBHストローの量産体制が整った。
それを受け、セブンは2019年11月から日本ストロー製PHBHストローと海外製紙ストローを全店舗で順次導入していった。
ただし、セブンカフェから紙ストローは徐々に姿を消していった。消費者からの評判が芳しくなかったからだ。スタバと違ってセブンは「イメージ」よりも「実質」を取ったといえる。
消費者は今でも紙ストローに不満を抱いているようだ。それは本コラム連載からも裏付けられた。岡山のストローメーカー、シバセ工業を取り上げた記事〈「うちは紙ストローは作りません」岡山の日本一のストロー会社が「脱プラ運動」に真っ向から対抗した結果〉は読者の共感を呼び、プレジデントオンライン2023年上半期(1〜6月)のビジネス部門ランキングで1位に躍り出たのだ。
日本ストロー製PHBHストローは現在、カウンターコーヒー用としてセブンの全店舗のほか、ファミリーマートの一部店舗でも採用されている。
■「ふやけない紙ストロー」に挑戦するも断念
そもそもPHBHストローの開発はどのようにしてスタートしたのだろうか。日本ストローの場合、紙ストローからの撤退と関係がある。
ウミガメ動画拡散後、日本ストローは取引先から「紙ストローはできませんか?」との問い合わせを相次ぎ受けるようになった。すると、シバセ工業とは違い、迷わずに紙ストローの開発に乗り出した。
紙ストローに関しては当時「口触りが悪い」「すぐにふやける」といった不評が多かった。先行していた海外製紙ストローの品質に問題があったためだ。
そこで日本ストローは材料選定・品質向上に徹底的にこだわった。稲葉氏は「専用の脱臭装置を開発して接着剤の匂いを消し去り、外観にもこだわりました」と振り返る。
それが徒(あだ)となった。大規模な生産設備を導入するなどでコスト増を招き、当初見込んでいた販売数量を達成できなかったのだ。2019年暮れに販売を始めながら、早くも翌年には生産停止を余儀なくされた。
だが、日本ストローは「プランB」を用意していた。同時並行でPHBHストローの開発も進めていたのだ。
■2000年以降、M&Aに翻弄された日本ストロー
1955年に富士市で創業した日本ストロー(当初の社名は三陽紙器)。牛乳栓や紙カップ、プラ容器を主力にして事業を拡大し、1983年に世界初となる伸縮ストローの生産・販売に乗り出した。
日本ストローはシバセ工業と並ぶストロー業界大手だ。ただし、創業してからずっと一族経営を続けてきたシバセ工業と違い、いくつものM&A(企業の合併・買収)に翻弄(ほんろう)されてきた。
・2001年、米飲料カップ大手のソロカップ傘下に入る。その後、ソロカップジャパンへ社名変更する。
・2006年、米国本社の事業再編に伴い、飲料カップ・食品容器部門を売却してストロー事業に特化する。
・2007年、投資ファンドのフェニックス・キャピタルの傘下に入る。社名を日本ストローへ変更する。
・2014年、東証プライム市場に上場するコングロマリット(複合企業)、三井松島ホールディングスの傘下に入る。
三陽紙器時代の1979年に入社し、フェニックス時代の2008年から社長を務める稲葉氏は「オーナーが目まぐるしく変わっているから、同じ会社に40年以上勤めているという感覚はあまり強くないです。ソロカップ時代にはアメリカに何度も出張しましたしね」と話す。

ちなみに、ソロカップに持ち株を売却した創業家は稲葉一族だ。稲葉氏は「私は創業家ではありません。たまたま同名なだけです」と苦笑いする。
■伸縮ストローでは国内7割のシェアを誇る
オーナーが3回変わっても一貫して残っている主力事業が一つある。伸縮ストローだ。
伸縮ストロー分野で日本ストローは国内市場の7割を押さえるトップメーカーだ(年間生産能力55億本)。ちなみに、海外に競合メーカーがほとんど存在しないため、世界最大ともみられている。
伸び縮みする伸縮ストローは使い勝手が良く、?ジュースや牛乳などの紙パック飲料?コーヒーや飲むヨーグルトなどプラカップ飲料――で広く利用されている。

紙パック飲料もプラカップ飲料もコンビニにとっては不可欠の商品。そんなことからセブンとの接点が生まれ、セブンカフェが始まると「アイスコーヒー用ストローが欲しい」とのリクエストが舞い込んできた。
■コンビニ大手が国産ストローを選んだ理由
セブンのアイスコーヒー用ストローは、2013年にセブンカフェがスタートして以来ずっと日本ストロー製だ。
セブンカフェが登場した当時、日本ストローはコンビニ市場の急拡大に注目し、大手各社に積極的に営業攻勢を仕掛けていた。ファストフードチェーン大手向けの売り上げが伸び悩んでいたこともあり、新たな市場を開拓しなければならなかったのだ。
とはいっても、単純なストレートストローであれば差別化は難しく、割安な輸入品が有利になる。なぜセブンは日本ストローに白羽の矢を立てたのか。
理由は大きく二つあったとみられる。
一つはストローの口触り。コンビニが求めていたのは「アイスコーヒーがおいしく飲めるストロー」。日本ストロー製の飲み口は滑らかに加工されており、唇や口内を傷つけない。輸入品であると飲み口がギザギザだったり鋭利だったりするケースが少なくない。
もう一つはリードタイム(発注から納品までの期間)。日本ストローは富士と熊本の両市それぞれに工場を構えており、物流という点で機動的に動ける。コンビニにしてみたらストローは“水物”であり、納品までに数カ月もかかる海外勢は使いにくかった。
■セブンに見放されたら、企業にとっては大打撃
日本ストローが当初納入していたストローはPP製だった。脱プラ運動が広がり、世界各地で「プラストローは要らない!」の大合唱が起きると、日本ストローは安泰としていられなくなった。
それもそのはず、ストレートストローの売り上げのうちコンビニ向けは全体の6割を占め、飲食店向けや学校給食向けを大きく上回っていたのだ。
繰り返しになるが、脱プラ運動を受けて日本ストローは紙ストローへ進出したものの、断念せざるを得なかった。そうなると、環境経営をモットーにするセブンから見放されたとしても不思議ではなかった。
日本のストロー業界は小さい。市場の大半は格安の輸入品に席巻されており、国内メーカーは中小企業ばかりだ。
日本ストローはコングロマリットの傘下にあり、比較的安泰といえる。それでも社員数は130人にすぎず、中小企業であることに変わりはない(年商35億円)。セブンとの縁が切れたら大打撃となってしまう……。

結局のところセブンとの取引関係は続いた。シバセ工業は「オープンイノベーション」によって危機を乗り切ったが、日本ストローは違った。「第三のイノベーション」という道へ進んだのだ。これについては後編で詳しく説明する。
(後編に続く)
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牧野 洋(まきの・よう)
ジャーナリスト兼翻訳家
慶應義塾大学経済学部卒業、米コロンビア大学大学院ジャーナリズムスクール修了。1983年、日本経済新聞社入社。ニューヨーク特派員や編集委員を歴任し、2007年に独立。早稲田大学大学院ジャーナリズムスクール非常勤講師。著書に『福岡はすごい』(イースト新書)、『官報複合体』(河出文庫)、訳書に『トラブルメーカーズ(TROUBLE MAKERS)』(レスリー・バーリン著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『マインドハッキング』(クリストファー・ワイリー著、新潮社)などがある。
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(ジャーナリスト兼翻訳家 牧野 洋)
