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夫からの暴行被害、離婚協議など私生活が度々、報じられているタレントの熊田曜子さん。現在、離婚協議中とされるが、夫が熊田さんらを訴えた民事裁判も進行中だ。

夫が2021年10月に提訴したこの裁判で、(1)熊田さんと、熊田さんの不貞相手としてテレビ局勤務の男性(以下、A氏)に対して550万円、(2)夫のDVをめぐる名誉毀損・プライバシー侵害で熊田さんに330万円の、計880万円の損害賠償を求めている。

裁判記録などによれば、熊田さん、A氏ともに不貞を否定している。裁判での争点は(a)熊田さんの不貞の有無。不貞があったとして相手はA氏だったのか (b)夫のDVの有無の2点だ。裁判で鍵を握っているのが、不貞の証拠として夫が提出したDNA鑑定の結果である。

●家族と食事した後、探偵が割り箸を入手

裁判記録などによれば、2021年の春頃、夫は熊田さんのスケジュール手帳にA氏の苗字一文字とハートマークが書かれていたことや熊田さんが女性用性玩具「ウーマナイザー」をバッグに入れていたことなどから、不貞を疑うようになった。当初こそ相手はわからなかったものの、調べていく中でA氏と特定するに至ったという。

同年5月には、口論となり、夫は熊田さんの顔を平手で1回殴るなどし、熊田さんが110番通報。暴行の現行犯で逮捕されていた。2022年12月、罰金20万円の有罪判決が夫に言い渡されている。

2023年1月23日、東京地裁で行われた民事裁判(口頭弁論)では、夫側の証人として探偵会社代表とDNA鑑定を行った民間企業社員が出廷した。

陳述によれば、2021年の夏、熊田さんの夫の依頼により、A氏の尾行をはじめた2名の探偵だったが、調査期間中、A氏と熊田さんが接触した場面は確認できなかった。しかし尾行開始から約2週間後、家族とラーメン店で食事をしたA氏が使用した割り箸を現場で入手したと主張している。

A氏家族が立ち去った後、探偵は割り箸をチャック付ビニール袋に保存し、現場近くの冷房の効いた車内で保管した。そのことを伝えられた夫が現場までバイク便を手配し、そのまま鑑定機関に持ち込まれたという。

鑑定ではY-STR検査という鑑定方法が用いられた。割り箸から検出されたDNAと夫が鑑定機関に提出していた熊田さんが所持していたとみられる女性用性玩具「ウーマナイザー」についていた精子のDNAが、「同一男系の可能性は排除できない」とする結論に至ったことが法廷で明かされた。

●割り箸をとることは一般的? 「初めて聞いた」と驚く探偵も

裁判で記者が驚いたのは、ラーメン店で使った割り箸を、探偵が持ち去っていたことだった。一般の浮気調査でも、探偵が対象のDNAが採取できる物を入手することはよくあることなのか。

首都圏で活動する大手探偵事務所の探偵は「使用した割り箸を探偵が入手し、DNA採取するケースは、初めて聞きました」と首を傾げる。

「郵便ポストをあさったり、物を盗んだりするのは法的にグレー、NGな行為なので、うちの事務所はやってはいけないと指導されています。割り箸を使ったのが本当に本人なのかどうか、もし裁判になったら証明するのも大変でしょうし」(同)

●探偵会社の代表は

実際、この点は裁判でも何度も確認されていた。1月23日の口頭弁論に話を戻す。

この日、一人目の証言に立ったのは、夫に依頼された探偵会社の代表だ。短髪にタイトな紺色のダブルのストライプスーツを身にまとい、足元はくるぶし丈のソックスに茶色のスエードのモカシンというスタイリッシュな出で立ちの男性代表は、太く低い声で、堂々と証言していった。

被告A氏側の弁護士「(DNAが)秘密情報という認識はありますか」

探偵会社代表「はい」

裁判官「DNA採取で留意することについて、鑑定機関から講義を受けることはありましたか」

探偵会社代表「ないですね」

この探偵会社代表は、夫からの依頼を受け、協力関係にある別の会社の探偵2名に調査を委託していた。

裁判官「(実際の調査にあたった探偵の)●●さん、●●さんには、DNA鑑定にまわすことは伝えましたか」

探偵会社代表「はい」

裁判官「どの段階で手袋をつけたのか」

探偵会社代表「(対象が)食べ終わってから、手袋をつけて採取したと聞いている。店員が片付ける前に、対象者が出ていってすぐに採取したと」

この他、男性がサラダを食べた際に使った紙コップも手に入れたが、鑑定機関ではそこからDNAを検出できなかったことも明かされた。

2人目の証人である鑑定会社の社員も同様に、証拠収集の方法や鑑定方法について細かく確認されていった。

●割り箸の入手に違法性は?

夫が提出したDNA鑑定は裁判で有効な証拠となり得るのだろうか。証拠収集の方法として違法性がないのかどうか、この点、弁護士によっても見解は異なるようだ。

ある弁護士は「違法性を問われる可能性はあるが、相手が事実関係を否定する事案で、ほかに有力な証拠がないのであれば提出するだろう。不貞裁判では相手のLINEや通話、動画などが証拠として提出されるのが普通で、中にはギリギリのものもあるが、全てのケースで違法に集めたと判断されるわけではない」という。

違法収集証拠として収集手段の適法性が厳格に問われる刑事事件とは異なり、一般に民事裁判においては、刑事事件ほどの厳格さはないとされるからだ。

しかし、民事訴訟において証拠能力が否定された裁判例もある。「証拠の違法性が問題になるのは不貞裁判が多い」と弁護士が指摘するように、以下はどちらも夫が妻の不貞相手に損害賠償を請求した裁判だ。

・面会交流中、子どもが持っていた妻の携帯電話から妻と不貞相手のメールを夫のパソコンにコピーした事例(東京地方裁判所平成21年12月16日)

・夫が弁護士との打ち合わせで作成した大学ノートを妻が夫の了解を得ずに持ち出していた事例(東京地方裁判所平成10年5月29日)

いずれも、不法行為の立証のために刑事上の違法行為を許容するかどうかが争点となり、裁判所は違法に入手したものはいわゆる「違法収集証拠」であり、証拠能力を否定するとの判断を示した。

では、熊田さんの裁判での割り箸の取得はどう考えられるのか。

別の弁護士は、熊田さんのケースで探偵がどのように動いたのか定かでないことを断った上で「ラーメン店で使用した割り箸は、店に占有権があるとして(廃棄された後のゴミ箱から漁って獲得した場合は別段)、それを領得した探偵の行為は窃盗にあたり得る」とみる。

それを踏まえると「不貞行為は民事上の不法行為であって、その立証のため、刑事上の違法行為を許容するとするのは、違和感がある」ともらす。

さらに、この弁護士が注目するのがDNA鑑定だ。「DNAは極めて微細な粒子で判定をするものなので、玩具と割り箸が一切混在されずに保管保存され、鑑定に出されていたことが保障されて初めて『一致する』といえるはずだ。原告側の保存方法に問題はなかったのか」と疑問を呈す。

今回の裁判でも、被告側は鑑定機関に送られるまでの間に、店の店員、探偵、夫らが介在したことから「ヒトによる汚染」の可能性もあるとして、採取、保管状況は不適格であり、鑑定結果に異議を唱えてきた。  

不貞はあったのか、なかったのか。熊田さん、A氏ともに否定している以上、鍵を握るのはDNA鑑定結果。鑑定において有力な証拠となったラーメン店で使用された割り箸をめぐり、原告、被告双方の攻防戦はまだ続くことになりそうだ。