25日、「新型戦術誘導兵器」の威力示威射撃を指導した金正恩氏(2019年7月26日付朝鮮中央通信)

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北朝鮮の国家保衛省(秘密警察)は、朝鮮労働党創建日の10月10日に向けて、中国との国境に接した両江道(リャンガンド)の恵山(ヘサン)市と金正淑(キムジョンスク)郡、普天(ポチョン)郡などに住む「不純勢力」をリストアップして、奥地に追放する事業を進めることを地元保衛局に命じた。

ところが、この過程で不正があったことが判明したと、現地のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

この「追放事業」は、家族のうち誰かが脱北した脱北者家族、中国の携帯電話を使用して処罰された者、スパイ容疑で逮捕された者、韓流コンテンツを販売、流布した容疑で逮捕された者などをリストアップして、家族もろとも、国境から遠く離れた奥地に追放するというものだ。

(参考記事:引き出された300人…北朝鮮「令嬢処刑」の衝撃場面

今年5月、咸鏡北道(ハムギョンブクト)の会寧(フェリョン)と茂山(ムサン)の国境に近い地域に住んでいた40世帯が、国境から遠く離れた漁郎(オラン)や吉州(キルチュ)の奥地の農場に追放されたが、この事業の一環と見られる。

ところが、両江道保衛局は、これら追放対象となった人からワイロを受け取ってリストから名前を外し、別のグレーゾーンにいる人をリストに入れていたのだ。

当局は、国境沿いの地域での脱北、密輸、外国の携帯電話の使用、韓流コンテンツの流入、国内情報の流出、国外情報の流出が常態化していることを重く見て、取り締まりを強化していた。しかし、地元の保衛部は取り締まりをネタにワイロをせびることに熱心になり、これらの行為は一向に減らなかった。

保衛部は、拷問や公開処刑などの手法で、金正恩総書記の恐怖政治を支えてきた実動部隊だ。ところが今や、彼らは生きるのに必死で、体制の「裏切り者」となっているのである。

国境沿いの4つの道の中でも、両江道が最も問題が多く発生しており、地元としがらみのない取り締まり班を送り込んで取り締まりを強化した。その結果、あまりにも多くの人が逮捕される結果を招いてしまった。

その一方で、彼らも当初は厳しく取り締まっていたものの、しばらくすると地元機関同様に地元民から賄賂を受け取って見逃すようになってしまった。

国家保衛省は、両江道保衛局、各市、郡の保衛部の贈収賄の情報をキャッチし、今月初めに平壌から係官を現地に派遣して、検閲(監査)を行っている。まずは、追放者リストをチェックして、本当に適切にリストアップされたのかを監査し、不自然に抜けている者がいないかを点検するとのことだ。

これにより、幹部への処罰など多少の波風は立つかもしれないが、情報筋は、問題の根本解決には懐疑的だ。

「国境沿いの地域で発生する機密流出、脱北などの敏感な問題は、国会保衛省でなく、天から先祖のおじいさんが降りてきても防ぐのは難しいだろう。今は、保衛部も生きていくのが大変な状況で、住民からワイロを渡すというのに誰が断るだろうか」