「実質的な強制調査」東京国税局の最強部隊“リョウチョウ”が東京女子医大の税務調査に着手! から続く

「疑惑のカネ」をめぐり、東京国税局から厳しい税務調査を受けている学校法人・東京女子医科大学(東京・新宿区)。今度は、女子医大病院の集中治療科の医師9人が、一斉退職することが判明した。この影響でICU(集中治療室)が崩壊状態となり、9月からは高度な外科手術や、臓器移植がストップする可能性がでている。

【画像】二階俊博氏と岩本絹子理事長

 原因を探っていくと、メール履歴を勝手に調べ上げ、理不尽な懲戒処分を乱発するなど、恐怖で教職員を支配する大学の異常な実態が見えてきた。疑惑追及キャンペーン第5弾の前編は、ICU機能停止の内幕と、患者に与える深刻な影響についてお伝えする。(後編#6を読む/最初から読む:東京女子医大の闇 #1 #2 #3 #4)

◆◆◆

前代未聞の非常事態「ICUがないなら、もう移植のオペはできない」

 8月6日午後4時、「赤い巨塔」と言われる彌生記念教育棟の会議室に、ICUと関係する診療科の医師たちが集められた。“見張り役”職員が入り口に立つ、異様な雰囲気だったという。

 今年4月に病院長に就任した板橋道朗氏は、衝撃的な事実を伝えた。

 “ICU担当の集中治療科教授ら9人のドクターが、一斉に辞めることが決まった。9月以降、残るのは後任の教授1人になるが、ICUは継続させたい。補充スタッフを探しているが、今後について各診療科の意見を述べてほしい──”(※発言要旨)

 この問いかけに、しばらく誰も口を開かず沈黙していたという。

 新型コロナウイルスの感染拡大で、一躍注目されたICU。「Intensive Care Unit」の略称で、集中治療室のことを指す。

 平常時のICUは、外科手術を受けた患者を人工呼吸器やECMO(体外式膜型人工肺)などを使って、24時間体制で管理するのが主な役割である。心不全や呼吸不全など、内科系患者の急変にも対応する。大学病院にとって、患者の命を守るために必要不可欠な存在がICUなのだ。


ICUのスタッフ(女子医大HPより※一部加工)

 そのICUが9月以降、専任医師が1人になるというのだから、前代未聞の非常事態である。しかし、板橋病院長の言葉からは、危機感が伝わってこなかったという。

「なぜICUのドクターが一斉に辞めるのか、9月以降はどうするのか、と質問した先生(医師)がいましたが、病院長から明確な答えはありませんでした。9人の退職まで1カ月を切っている状況なのにノープランだったので、教授の1人は怒りを露わにして『ICUがないなら、もう移植のオペはできない』と吐き捨てるように言っていました」(A外科医)

「再び重大な事故が起きたら、女子医大病院は完全に終わる」

 都内には、数多くの大学病院が存在するが、他では対応できない難しい外科手術を女子医大が引き受けてきた実績がある。特に小児の外科分野では、海外で腕を磨いたトップクラスの外科医が揃う。しかし、ICUが使えないとなると、これまでと同じように子供の命を救える保証はない。

「ある先生から、各診療科の交代制でICUを担当する案もでましたが、専門が異なる患者の集中治療など、絶対に無理です。そうなると、各科で自分たちの患者に対応するか、手術自体を縮小するか、どちらかです。ICUがない体制で、再び重大な事故が起きたら、女子医大病院は完全に終わる、と言っていた人もいました」(B外科医)

国内屈指のICU、治療する患者数は年間3000例以上

 実は、女子医大にとって、ICUは重い責任の象徴である。

 2014年、耳鼻咽喉科で手術を受けた2歳男児が、中央ICU(当時)で人工呼吸器の管理中、禁忌とされていた鎮静薬・プロポフォールを過剰に投与され、死亡する事故が起きたのだ。

 外部の専門家による事故調査委員会は、再発防止策として、当時は8つに分散していたICUを統一すること、小児ICUの設置などを提言した。

 これを受けて女子医大は、2017年に8つのICUを2カ所にまとめ、計33床を備えるICUの運用を開始する。集中治療科教授に就任した野村岳志氏は、9人の集中治療専門医を集め、治療する患者数は、年間3,000例を超えるまでになった。治療の質と患者数で、名実ともに国内屈指のICUになったのである。

 患者や家族からの信頼も厚い。2017年、女子医大で息子の刀柊さんが腎臓移植を受けた井上香月子さん(京都在住)は、ICUスタッフの献身ぶりが強く印象に残っているという。

「息子は基礎疾患をもっていたので、ハイリスクの移植手術でした。それで一般病棟ではなく、ICUでお世話になったのですが、看護師さんたちは、精神的に不安定になった息子に一晩中寄り添って、支えてくれました。そのICUが無くなるなんてショックです」

ICUが事実上の崩壊で脳死移植が完全ストップか

 ICUでの管理を必要とする外科手術として、臓器移植が挙げられる。特に女子医大は、1970年代から臓器移植の分野で常にリードしてきた。腎臓の生体間移植では、143症例(2020年)で国内トップ。さらに脳死の臓器移植では「心臓、肝臓、膵臓、腎臓」に対応する施設として認められた、数少ない大学病院でもある。

 しかし、ICUが事実上の崩壊となると、脳死移植が完全ストップする可能性が高い。女子医大の外科医が解説する。

「臓器移植は、手術後の管理が生着率(移植の成功率)に大きく影響します。脳死移植の場合、厳格な施設基準が定められており、ICUの存在は絶対条件。つまり、ICUが事実上の崩壊となるなら、脳死移植の施設としての認定は、返上しなければなりません」

 脳死移植を希望する場合、患者は移植施設(病院)を指定して、登録するシステムになっている。女子医大では「心臓、肝臓、膵臓、腎臓」の移植を希望する患者が登録をしているが、命の危機が迫っている人が大半を占める。今後、女子医大が、脳死移植の施設としての認定を返上するとなれば、大混乱に陥るだろう。

 女子医大のICUが事実上崩壊することについて、日本医学会と日本臓器移植ネットワークの会長を兼任する門田守人氏は驚きを隠さず、次のように述べた。

「高度医療を行う大学病院でICUがないというのは異例なことですね。特に、心臓、肝臓、膵臓の移植手術は、ICUが機能していない状態で手術に踏み切ることは考えられない」

ガバナンスが存在しない女子医大「深刻な経営危機が起きる」

 ICUの事実上の崩壊は、女子医大の経営にも暗い影を落とす。患者数が激減している女子医大病院は、今年4月から6月まで、連続して2億円を超える赤字を記録した。経営の指標となる病床稼働率は、6月で「57.2%」。一般的に、経営を維持できる病床稼働率の損益分岐点は「80%強」なので、相当に厳しい段階にある。

 この状況で、9月以降に診療報酬が高いICUが崩壊状態となると、赤字額の増大は避けられない。経営悪化の泥沼に陥る可能性が高まる中、岩本絹子理事長からは教職員に対して何もメッセージはないという。

「今の女子医大には、ガバナンスが存在していません。岩本理事長の周辺はイエスマンばかりで、反対意見を言うと排除されてしまう。本来はお目付役であるはずの監事や評議員さえも責任を果たさず、単なるお飾りです。女子医大にいる外科医たちも、ICUの崩壊で手術ができないなら辞める、と言っています。深刻な経営危機が訪れるのは時間の問題ではないでしょうか」(前出の外科医)

常識では考えられない嫌がらせや、理不尽な懲戒処分を乱発

 集中治療科の医師たちが一斉に退職すれば、ICUの崩壊による混乱は容易に予想できたはずだ。その決断について、女子医大の中堅医師に聞くと、意外な答えが返ってきた。

「一斉に退職するのは、止むを得ないと思います。これまで貢献してきた集中治療科の先生たちに対して、十分な説明もなく契約途中で解雇したり、まるで追い出すような仕打ちを経営陣がやったと聞きました。非難されるべきは経営陣の方です」

 取材を進めると、2021年7月に設立された「小児ICU」をめぐり集中治療科の医師たちに対して、経営陣は常識では考えられない嫌がらせや理不尽な懲戒処分を乱発していたことが判明した。その全容は、後編として#6で詳しくお伝えしたい。(#6へ)

東京女子医科大学病院の「ICU崩壊状態」を招いた、患者の命を軽視した経営方針と恐怖政治 へ続く

(岩澤 倫彦/Webオリジナル(特集班))